悪魔の誘い
帰ると、廊下で仁王立ちする音姉さんが凶悪なオーラを醸し出しつつ待ちかまえていた。
「ただいま。」
俺は取り敢えずそう言う。
「おかえり。……あんた、何か私のために無茶したらしいな。サーシャに聞いたけど。」
「……ああ。うん。」
サーシャからどこまで聞いたのだろうか。
「あんまり無茶しちゃダメだからな。自分を大事にしなさい。それじゃ。」
………それだけか。
それだけ言うと、音姉さんは玄関から外に出ようとする。
すれ違い様に疑問をぶつける。
「そう言えば、サーシャさんとはどこで知り合ったの?」
「それ、私もあんたに聞きたかったわ。」
振り返ることなく音姉さんは答え、そのまま帰っていった。
日曜日。
一本の電話がきた。
相手は知らない男。
「どなたでしょうか?」
「天使。」
突然ぼそりと呟かれた。は?天使?
「天使?」
「あなたには天使の加護が。我らが虚天使様の加護が必要だ。太陽の庇護などてはなく正真正銘天使様のだ。」
「我が天使様を崇めるきょうかいの教えに従え」宗教勧誘か、と思い電話を切る。
そしてすぐ電話の呼び出し音が鳴り響く。絶え間なく。
鳴り止んだのは………一時間位した後だっただろうか。
翌日。学校で篠原さんにそのことを話す。
「──ということがあったんだよ。」
「へえぇ、アキ君もあったの?私んとこもあってさぁ……。あの宗教勧誘みたいなのちょっと怖かったなぁ。我らが虚無の天使様最高! みたいな空気が話の最後の方に作られていたし。」
どうやら篠原さんも被害にあったようだ。
「あなたには太陽は似合いません。天使の加護が必要ですとか言われたし。……太陽ってもしかしたらあれのことかもしれないけど。そうだったらもっと怖いよね。」
太陽、については俺もいわれた。もしかするとその可能性はある。
そしてその会話を割って……咲さんが突然口を挟んできた。
「それ、絶対関わり持たない方がいいわよ。危険だから。」
さも知ってるような、いや、実際知っているのか断言する。
「その特徴からそいつら『虚無天使教会』だと思うんだけど。たまにニュースになってる高校破壊テロとかもそこが原因とか騒がれてたり無かったり。」
『これ、クロですなー。』
「もしかして、天界の扉を一緒に探しましょうとか言ってたのもなんか関係有る?」
篠原さんがそう聞く。
「まあ、わかんないけどまあ、あるんじゃない?」
「そっかぁ……。」
「すべては天使様の為すべては天使様の為すべては天使様の為すべては天使様の為すべては天使様の為すべては」
「アリウネ様」
暗い部屋で餓死体のような、骨と皮だけの体つき、白いローブを着た男に、白いローブのフードを目元まで深々と被った女性が呼びかける。
「て……なに用かね。」
男は死んでもおかしくない容貌をしながら、力強い声で答える。眼光は強く、やはり弱々しさのかけらもない。
「勧誘ノルマがなかなか達成しません。……強力な手駒をと勧誘しても断られてしまえば意味がないです。やはり不気味なのでは」
「キミ。天使様のやり方を疑うのかね?」
女性は息をのみ、弱々しく答える。
「そんなはず…ありえません。」
「ならばよいだろう?」
「ですが入信者が少ないのは事実ですのでどう致しましょうか。アリウネ様。」
「攫えばいい。」
さも当然のようにアリウネと呼ばれた男はそう言う。が、女性の方にはそれをやって当たり前という精神を持ち合わせていない。故に女性は絶句した。
「攫え。そして洗脳だ。天使様の名の下に。さすれば天使様はお赦しをくださる。」
「は、はは、さ、左様ですか」
天使の赦し。その言葉に乾いた笑いが飛び出す。
「分かったならさあゆけ。ノルマまでがんばるのだ。努力は天使様がすべてみているぞ。」
アリウネと呼ばれた男はそう骨ばった顔でほくそ笑んだ。
「まあ、最近、誘拐もするようになったらしいから注意するようにね?日舞ちゃんとか特に。」
咲さんが篠原さんを心配してかそう言う。
「物騒だから取り締まりの依頼とか来てるっちゃ来てるのけど、まだ報酬が弱いのよね。だから受けてる人は少ないわ。そういう点でも誘拐されやすくなってるわけだから本当注意してね?攫われ、洗脳されて帰ってくることもあるらしいし。」
ほんと、物騒な集団だな。




