急襲する魔導師 2
どこへ行った………?
人払いはしてある。だから図書室から物音が聞こえたら、それはあの男の仕業だろう。実際本は落ちていた。だが、図書室から人の気配が全くしない。身を隠しているのかとも考えた。私には探査の魔術はまだ使えないからな。
大声が上の階から聞こえた。これは………。
『見つけたぞ、奴は屋上だ。』
………!?リュー、それは本当!?
『ああ、今屋上に姿を現した。』
今行くわ!
さ、作戦最初から失敗してる…………!?
俺の作戦はこうだ。
まず屋上に待ち伏せする。
魔法で障害物を作る─これはアイに手伝ってもらうつもりだった─
射線を遮りつつ戦闘
こ、これだけしかたててないけどさ、まさか伏兵いるとか聞いてないよ。
『そりゃ、言わないでしょうよ…。』
屋上に出ると、西洋風の竜がそこにいた。言うならリ○ードンみたいな感じだろうか。違うのは、体表が銀の鱗に覆われていることと、尾の先が燃えてないこと──西洋風の竜って言ったし、燃えていたらおかしい──だろう。少しかっこいいなとは思った。
その竜が前傾姿勢で咆哮する。あまりの声量に空気がビリビリと震え、耳を塞がずにいられない。
その隙を逃す筈がないと相手を見てはいたが、口をパクパクさせ、何かを言う素振りは見せたが、何をしているのかは分からなかった。
結局咆哮が収まるまで何もしてこなかった。手がふさがってるので、詠唱は出来ないし、腕を竜の下から生やそうと思ったが、空気中に魔力の塊たる腕を顕現させることが出来なかった。どうやら咆哮に妨害されたのだろう。
咆哮が収まった。瞬時に魔力を込めた地面から腕を生やす。竜の太い足をひっつかみ、こちらに引きずるつもりで腕の生えたポイントをこちらに寄せた。
しかし、人外たる竜の力は予想した力を超えていた。竜は羽ばたき、抵抗した。……抵抗の方が引き寄せる力より強く。
魔力の腕が伸びる限界を超え引きちぎれ、霧散する。そして竜はそのまま上空に飛んで行き、ある程度したらこちらを見下ろし。
「グオオォオオォォ!!!」
蒼い火の玉を口から何発も吐き出した。所謂ブレスというやつだ。
一応幸運だったろう。これが炎弾ではなく、火炎放射のようなブレスで屋上すべて炎で埋まれば、さすがに焼け死ぬだろうからだ。
俺は大きく横に跳び、回避する。全弾撃ち切るまで油断しない。跳んだ先に炎弾が来た時は俺自身を魔力の腕でぶん投げるようにして回避する。何故か魔力の腕で炎弾を弾くつもりはなかった。
今のところ、俺唯一の魔法である魔力の腕。これは今のところ、地面もしくは壁からしか生やせない。空気中に突然出現させる、なんてことは今のところ出来ない。他には、まだ俺の実力的に二本目の腕を生やせない。これは集中すれば二本目を数瞬出せないことは無いが、そんな集中は戦闘してるなら出来ないだろう。そして腕を消す時は生やしたところから魔力の腕を吸収するように戻す必要がある。これは、何故か分からないが、偉大な義腕様がそのうちそんな手順を踏まずに消せるようになると言っていたので、恐らくそのうち練習すれば出来るようになるはずだが、今は出来ない。
何故今更、魔力の腕について考えたのかというと。
竜の吐き出した炎弾。炎弾だと、思っていたものは、床に着弾するとその床を氷結させたのだ。魔力の腕でガードしていたら、戻せずに魔力の腕なしでやることになっていたかもしれない。
かもしれない、というのは二本目を一本動けなくなっていたら、使えなくもなかったのかもしれないから、と、魔力が凍るのかということだが、そんな賭けをするつもりはない。
俺は盾にするつもりで、ファイアボールの詠唱をして炎弾にぶつけてみた。
…………まあ、凍りますか。なんかそんな気はしていたよ。
どうしよう、打つ手が無さ過ぎる!……こうなったら……。
『すぐ私に頼ろうとしないでくださいね??』
……ちっ。……どうするか。逃げても校舎内に居るはずだからな、あの魔導師。
それで思い出したが、この竜、あの魔導師と連絡をとったんじゃないか?
……あの咆哮の時じゃないか!?だと、すると割とすぐ呼んだはずだ。でも時間は少し経ってる。つまり……。
……っ!?
考えながら炎弾を回避していたので、一発の際どい炎弾を避けきれず、左足を掠めた。それだけで左足の感覚が消失し、動き続けた体がバランスを崩し転倒。左足を確認すると凍結していた。これ、ヤバいんじゃないだろうか?
それを確認した竜がゆっくりと降りてきて、屋上入り口に目配せをし、それにつられて俺が屋上入り口を見ると、案の定入り口に魔導師が立っていた。
さっき気付いたが、入り口に逃げ込んでもやはりやられていただろう。
その魔導師は、うちの高校の制服を着ていた。髪は左に括られていて──所謂サイドテールというやつだろうか。髪型には詳しくないから合ってるか分からないが──顔は少し幼い感じがした。制服のリボンの色が俺の学年で見慣れた緑ではなく、赤なので、一年の生徒だろう。
「ありがとう、リュー。助かったわ。私だけじゃこんなに追い詰められなかった気がするわ。」
魔導師はよく通る声でそう言う。……ちょっとピンチじゃないか?相手、殺す気で来るって言ってたよね?
『回避出来なかったご主人が悪い。』
いや、まあそうだけどさ。ちょっとなんか助けてくれたって良いじゃないか。
『……っ!?…い、いや、助けたらいつまでもずるずるずるずるとご主人が頼ってくるかもしれないじゃないですか……。それは、よくないなと。』
それで死んだら元も子もないんですけれど、まあ、今回頼れば次回も頼りそうだってのは分かる。死んだら元も子もないけどな!
「いや、主だけでもいずれはやれていただろう。」
竜の言葉に、魔導師は。
「そんなことはないでしょ。」
と、言いつつ嬉しそうだ。が、俺どうするか。
左足が凍り付き、動き回る機動力がなくなり、魔力の腕は竜には効かない。
どうしようもないなと、寝そべった姿勢から座り込む姿勢に変える。どうせ、その程度じゃあ警戒されはしない。
地面に左手をつき、右腕を挙げ、降参の意志を示す。
「うーん、この男どうします、リュー?」
「上の指示を聞こう。まず、動けないように捕縛。出来るな?」
「そうですね。さあて、大人しくしてれば痛くありませんよ?抵抗すればその左足を砕きますが。」
魔導師が近づいてくる。
そして俺は不敵にニヤリと笑った。




