会戦一手目 キャスリング
〜エルフ集落作戦本部司令室〜
サラマンダーと司令室にこもりマップを見つめる。
「各方面防衛ライン到着までの時間は?」
「ミノタウロスがおよそ5時間で到着。他の方面は強行軍で進んでいますが到着は明日になるかと。実質的な戦闘は2日後だと思われます」
「この兵の運用はさすがですね。問題は主力であるミノタウロスか」
「そうですね。東周りか西周りかで戦局が大きく変わって来ますね」
今、南にいるミノタウロスが戦闘を終え次の方面に移動する時に東周りだと西に到着するのが結果として遅くなる。逆に西周りだと東に到着するのが遅くなる。
東から北に周らず反対側の西に向かうことも出来るが移動時間がかかりすぎる。
西から東に向かう逆もまた然り。
俺の意見としてはなるべく損害を出さずに済ましたい。
勿論、戦場には血が流れるだろうがエルフ達や迷宮守護者達はもう俺の大切な仲間である。一人だって喪いたくないし絶対に負けられない。
「いかに敵を近づけさせないかが鍵だな」
「そうですね。エルフ達は弓や魔法を得意としますからね。それに男手も少なく接近戦では分が悪いです」
「先の戦いで壊滅させられたらしいからな
。ダンジョンマスターが指揮をほっぽり出して先陣に立ち吶喊とかどうかしてるだろ!?」
「愚策ですね」
前ダンジョンマスターであるシャロンの父は、今回の俺たちのように四方を敵に包囲され戦闘が泥沼化するのを恐れ遊撃部隊の先陣に立ち敵陣に向かったらしい。
タワーディフェンスで攻め手が勝つには物量と兵の質。それがオープンワールドのダンジョンだとすると尚更、単純だ。
エリア全てを守り切るのは不可能なので攻め込み放題。
守り手に不利になるのは目に見えているからこそ頭を使えと前ダンジョンマスターに言ってやりたい。
素手で勝てないから武器を持つ。
一人で勝てないから群れをなす。
効率良く群れを運用する為に策がある。
前ダンジョンマスターと部下達の命を代償にした吶喊が成功したから良かったものの下手したらただの犬死になっていたかもしれないのだ。そんなものは愚策でしかない。
要するに簡単に命を捨てる前に頭を使えって事。
「それで、サラさんの姿が見えないようですがどこに?」
「女王と一緒に迷宮の核がある神域に向かわれました」
「え?なんで?」
「..........纏核武装をシャロン様と解放しに行くと言われて部屋を出て行きました」
「..........」
纏核武装?
何のことだ?
まぁいい。今は置いておこう。
話を無理やり切り替える。
「この戦いの勝ち筋は見えてるか?」
「残念ながらまだ不明瞭ですね。決定打に欠けている分、筋が不安定です」
「あぁ俺もだ。外線戦略を考えるとこちらの主力を1方面で受け持ち膠着状態に持ち込む。主力を拘束している間に各方面を圧迫、各個撃破その後、主力を包囲殲滅ってところか?」
「よろしいかと思われます。この戦いのポイントは2つ。一つ目がこちらの遅滞戦による継続戦闘可能時間とあちら側の突破力。二つ目がこちら側の主攻であるミノタウロスの膠着状態を打ち破る打撃力と方面間の移動速度ですね」
「その状況分析能力は本当にたいしたもんだ」
「ありがとうございます」
要約するとミノタウロスがもたつけば遅滞戦で時間を稼いでいる各方面の戦線が疲弊し突破される可能性が出てくるということだ。
各方面はいかに長く敵の進行を防げるかがポイント。
主攻であるミノタウロスはいかに早く各方面に向かい敵を殲滅するかがポイント。
不安定だが勝ち筋としてはこんなところだろう。
問題はゴブリンとオーク、二つの勢力を裏で操っている者が存在するということだ。
そうでなければこんなに都合良くオークとゴブリンが侵入してくる筈がない。
裏でこの戦いを画策した人物は必ずいる。
「それにしても厄介な事になりそうだ」
「そうですね。敵の戦略家はこの戦いの着地点をどこに見出すのでしょうか?」
「この敵の作戦は本気でこちらを追い込むものだ。目的としては人的資源の摩耗か。最悪の場合、我々の殲滅だと解釈できる」
「では我々の最善手はどのように?」
「次の一手か。戦局が動いてないこの段階では難しいが上手くすれば敵の裏をつく事も出来るよな」
如何でしたでしょうか?
感想お待ちしております。