役不足と言われ続ける日々
「役不足なんだよ、引っ込んでろ」
体格のいい少年は声を荒げていた。
雲一つない空、日差しが眩しく、闘技場を照らしている。
そんな場所でのひとコマ。
「わかったよ、しょうがないなぁ」
俺はニヤニヤしながらその場から離れた。
周りはこの状況を見て唖然としていた。
ということはない。
いつもの日常の風景なので、皆、呆れ返っていた。
「あいつ、また逃げたわよ」
「根性なしが」
「学園を早くやめてくれないかな」
等様々な悪口を言っていた。
彼が学園に来て5年模擬戦の度にこの光景が見られる。
皆、彼に悪口を言うのはやめてあげてくれ、体格がいいとはいえ、俺よりも弱いんだから仕方ないんだ。
そう俺が強すぎるのがいけないんだ。
彼だって皆の前で「あなたのような優秀な方には実力のない私の相手は役不足なので戦う事が出来ません。下がってください。」なんて言わなきゃいけなくなってしまった。
俺は罪な男だ。
一人の男の人生を卑屈なものにさせてしまった。
そして皆、同じように俺との対戦を拒否してしまう為、模擬戦成績は常に0点になってしまう。
「困ったものだ。」
と言いながら顔はニヤけてしまう。
俺の成績は常に下の下、筆記も実技も上の中、150人居るこの学年で25位に入るだけの実力がある。
だが模擬戦の成績は0点、そして筆記100点+実技100点=模擬戦200点なので
例えば、筆記75点実技75点を出しても150/400点なので半分にも届かない。
因みに、150点未満は落第で150点以上が及第になり進級出来る
つまり200点以上になることのない俺は常に下の下なのだ。
成績については学園の成績の決め方に問題があるので致し方ない。
相手が降参して居るから模擬戦をしていないのに、評価がされないのだ。
最近俺は学園にいる意味があるのかさえ疑問に感じている。
しかし、学園を卒業しなくては騎士職に付けないので学園に居続けるしかなかった。
そして、今までと違い、卒業には試験で300点以上を取るか、なにかで評価されて加点されて結果300点以上にするかだ。
よくある加点の仕方は、筆記が苦手なものは補習を受けて、実技が苦手な者は実技の補習を受けて加点してもらったりする。ただどちらか片方しか補習を受けられない。つまり俺はオール100点じゃないと300点には届かないし100点を取った者が補修を受けるなんてことが出来るのかも疑問だ。
強すぎるがために常に敬遠されてきた俺だが漸く活躍の場が訪れた。
それは、世界最悪の災害級モンスター『空飛ぶカバさん』が学園のある王都にやってきたからだ。
「これで卒業出来る。」
俺は思わず声を上げてしまった。
『空飛ぶカバさん』を討伐すれば、間違いなく加点されるはずだ。
学園でも生徒が災害級モンスター『空飛ぶカバさん』討伐のために学園の最上級生と若い教師達は『空飛ぶカバさん』の予想進路に配置されていた。
もちろん最上級生っていうのは俺の学年なので
俺はその最前列で『空飛ぶカバさん』が来るのを待っていた。
来ない方がいいと普通の奴は思うのだが、俺にそれは当てはまらない
「なんで、お前はこんな前にいるんだ、お前じゃ役不足だから下がってろ。」
模擬戦の時の体格のいい少年が声を掛けてきた。
そんな「お前は俺たちの大将なんだから後方でどっしり構えてろ」なんて、全くいい奴だな。
「でもな、そんな時こそ、最前線で戦わなくてどうする?」
決まった、決まってしまった。
そう、男って奴は背中で語る。
大将が後方に居るなんてダメだろう、大きな背中を見せて鼓舞するもんだろ。
「なにわけわからないことを言ってる、お前じゃ役不足だって言ってるだろ。」
皆も少年の言葉に頷いている。
全く、全く、ニヤニヤが止まらなくなっちまうだろ。「戦いたいのはわかるがお前が相手するほどじゃないだろ」なんて、災害級モンスター『空飛ぶカバさん』を相手に大きく出たもんだ。
「だが、譲れない時もある」
そう、こんなところで学園の皆を死なせるわけにはいかない。
弱らせてから倒すなんて俺の役じゃない。
俺は最初足止め役だ。
危険が大きく、足止め出来れば、後は皆で総攻撃出来る。
俺は特注の斧を構えた。
模擬戦では殺傷能力が高すぎて使えない。
大斧だ。騎士で使う者もほとんど居ない。
騎士は剣や槍が普通で斧を見ることもないだろう。
俺は小さい頃からこの『空飛ぶカバさん』や災害級と呼ばれるモンスターを倒すためにどの武器がいいか考えた末、出した結論が力を最大限に生かす大斧を振り回し怯ませる事だ。
災害級相手では騎士は役に立った歴史がない。壁役にしても踏み潰されて終わりや騎士が食べられてる間耐え切って、災害級は騎士を食べるのに満足して去っていくなど。
結局なにも出来ていない。なにも対処できないだから災害級なのだ。
そんなことを考えていると『空飛ぶカバさん』は現れた。
体長10m体重は数トンといったところか。
顎はワニのような強靭さで閉じることに特化しているような形、でも顎の広さがあり3m程だった。
『空飛ぶカバさん』は地面を下顎で抉りながら進んできていて、学園の皆はその姿に後ずさりしていたり戦意を喪失していたり逃げ代たりと様々だった。
俺は腰を落とし、両手で大斧を地面と水平になるようにどっしりと構えて、『空飛ぶカバさん』が来るのを待った。
まぁ目の前に来るのに時間は掛からなかった。
気合一発。
「はああぁぁぁぁ!!」
渾身の力を込めて横一線で振り抜き、勢いも止めずにそのまま体を回転させた。
今度は上に大斧を持って行き体重も乗せるために飛び上がり、落下の勢いも合わせて振り下ろした。
最初の横一線で『空飛ぶカバさん』は口を閉じて顔を仰け反らせた。
体を仰け反らせるのが普通なんだろうが『空飛ぶカバさん』は顔は体の半分近くを占めていたため顔を仰け反らせたという表現になってしまった。
仰け反らせた結果『空飛ぶカバさん』の勢いを止めることに成功した。
次の一撃で『空飛ぶカバさん』は顎を地面に叩きつけられることになった。
その勢いのまま、『空飛ぶカバさん』上に乗り大斧を振り回し続けながら叫ぶ。
「今だぁ、ありったけの力で
「止まったぞ、俺に続けぇ。」
だ。」
俺が倒すんだ。って言って決める所でしょ、焦りすぎだよ、かぶってるよ。
俺は泣きそうになりながら『空飛ぶカバさん』に攻撃を続けていた。
攻撃を開始してから数時間暴れる『空飛ぶカバさん』の上で攻撃したり。
『空飛ぶカバさん』の意識を俺に向けるために頑張ったが、最後に大暴れした『空飛ぶカバさん』に振り落とされて遠くに飛ばされた。
戻ってくる間に『空飛ぶカバさん』は力尽き、大歓声が上がっていた。
俺が戻ると、「逃げてたくせに倒したとたん戻ってくるんじゃない」とか言われ
何故か俺が逃げ出したことになっていた。
確かに足止め役だと思ってたけど。
足止めの記憶すらみんなには無いってどういうこと?
何故か学園の最上級生で俺だけ城に呼ばれず、学園の者だと城に行ったら
「騎士を目指す者が斧とか何の冗談だ」
と追い返されてしまった。
俺は結局何の評価も得ず、卒業の為の加点も認められず。留年した。
翌年、普通に模擬戦に参加をして力加減を間違えて生徒を殺めてしまい、
その罪で戦闘奴隷となり、戦場へ送られて敵大将打ち取る
「俺にとってこんな戦場じゃ、役不足だ。」
大将の首を振り回して叫んだ。
が埋め尽くさないばかりの味方の矢で全身を貫かれて俺は人生の幕を閉じた。
読んでいただきありがとうございました。