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魔導装甲と女神様  作者: 切葉訣子
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第四話 夜の密会

 「…魔法はこうして、作られる。いや、魔法っつーか、魔力ってのか? まぁ、そんなとこだ」


大雑把で要領を得ない説明が、教室に響き渡る。

と言ってもここは日本ではない、あくまで、異世界ワース大陸なのだ。

そんな中、謙佑は隣で勉強に勤しむ陽菜を傍目に体勢を崩す。


「(…なんでこんなことに)」





◆◆◆





 あの上級騎士達によるレベルの高い模擬戦の後。


既に時刻は昼を回っており、夕暮れも近い。

それに関係して、陽菜と謙佑は自分が所属する騎士舎へと向かったのだった。


謙佑が向かった騎士舎。

 そこはやはり男達の暑い空間だった。しかし、不快感はなく、どちらかといえば好感を持てる、そんな暖かく強い雰囲気。騎士達は全員、騎士候補生も含めて仲がいいらしく、上下関係こそあれど、叱責する姿や恫喝をばらまく姿はまったくもって見受けられない。


しかし、それでも突然の編入という事もあり、騎士達も反応に困っていた。

理由も伏せる必要があり、一定地位以上の騎士以外は、時期はずれの転入生程度にしか認知してない。


「えー、陽川謙佑と言います。騎士候補生、です。まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします」


取り敢えずテンプレを継ぎ接ぎしたような常套句を述べて、その場は散開となった。

 そこからの行動は目を見張るものがあった。何故なら、そんな得体の知れない謙佑に、親しげに何人もの騎士達が群がってきたのだ。興味本位か、それとも敵意害意を感じないからか、彼らの表情に嫌悪は全くない。


「ケンスケだな! 俺はルーンハート・アルデリオ! よろしく頼むぜ!」


「俺はクレイブ・マクレイだ! 俺もルーンハートも、此処に居る皆は騎士候補生だ! 仲良くやろう!」


「おうともよ! 一度ツラ突き合わせて話でもすりゃあ、そりゃ立派な友人だぜ! よろしくな、ケンスケ!! 俺はフィーガル・アンドリュー、で、こっちがサドレス」


「自己紹介くらいさせろよ! 俺はサドレス・ビビアン! ケンスケ、よろしくな!」


それは怒涛の勢いだった。

しかし、そこに薄っぺらい悪意はない。

あくまでナチュラルに、元々そういった気風なのかも知れないが、彼らは接してくる。

まるで、10年来の旧友と話すかのような感覚で。


だからこそ、謙佑も。


「…あぁ! よろしく!」


こうして、謙佑の騎士舎到着後の不安は吹き飛んだ。

逆に、明日からの時間が楽しみにさえ感じてしまうほどである。


その時、陽菜は……。





◆◆◆





 「はーいっ。皆さん、転入生さんですっ! どーぞーっ」


何となく間抜けな、しかし表情は真面目なケルミアが、陽菜を呼んだ。

騎士舎の基本的な造りは同じなのだが、女性の騎士舎だからか、かなり綺麗な状態にある。

また、男子騎士舎とは違い、ありとあらゆる甘い匂いが、至る所に漂っているのだ。


くらくらするわ……と陽菜は思わず毒気づいた。


しかし、ここで第一印象を悪くするのはあまりよろしくない。

ファイト、その掛け声と共に、陽菜は騎士舎の食堂に突入した。


「え、えーっと、鴇沢陽菜って言います。歳は17です、皆さんみたいに上手に魔法を使うことはまだ出来ませんが、お手柔らかにお願いします」


一応礼節を尽くしきった、と言わんばかりの表情で陽菜は下げた頭を上げた。

そこにあるのは色々な顔だ。

 嫌悪する者、排斥しようとする者、歓迎する者、好意的に見る者。しかし、今でこそこう言った状態にあるかもしれないが、何時かは仲良くなれるだろう。陽菜はポジティブシンキングでその場を切り抜け、ケルミアの指示に従って空き椅子に腰掛けた。


「はーいっ。皆さん仲良くしてあげてくださいねっ! では、私はこれでっ!」


手早く纏めたケルミアは、そそくさとその場を去った。

残るのは何とも居づらい雰囲気、陽菜は引きつった愛想笑いを浮かべて硬直。


そんな状態を打破する女子生徒が現れる。


「ヒナちゃん、でいいかな?」


声を掛けてきたのは、一人の女子生徒。

しかし、その女子生徒の動向に全員からざわめきのような複数の声が漏れる。

 その少女は絵に描いたような美しさだ。美しい金髪はセミロングで、しかし艶やかに煌く流水の如きその髪の毛は黄金の糸を思わせる。体型も女性らしさ溢れる魅力的なプロポーション、顔つきはやや童顔で、俗世にはロリ顔などと呼ばれる類だろう。


そんな彼女だが、排斥・嫌悪するような感じは一切感じない。

陽菜はそれを感じ取り、曖昧に微笑んで言葉を紡いだ。


「ええ。貴方は?」


「私はね、カレア。カレア・ドレイフ。同じ騎士候補生だよ、仲良くしようっ!」


「…ありがと。カレアちゃん、でいい?」


「どうぞどうぞー。良かった、ヒナちゃんがもっと取っ付きづらかったらどーしようかって思ったよ」


「そう見えるのかな…?」


「んー、なんか神秘的っていうか、不思議って感じ? 近寄りづらい、というよりはなんか近づくのが恐れ多い、って感じかな」


「……ん~? そう、かな」


陽菜は心当たりがないようで、何度も首をかしげる。

その仕草にクスリ、と笑うカレアは、目を大きく見開き、ポンと手を打った。


そして手招きで数名の女子を掻き集める。


「ほらほら皆! 自己紹介しよ!」


「え、えーっと、ナタフィア・アレグリアです。同じ候補生なので、よ、よろしくっ!」


「わたくしは、アルファ・ビヨネッテと申します。誉れ高きビヨネッテ家の王女ですので、以後お見知りおきを。同じく候補生ですわ」


「ヒナちん! ウチはマーシャ・アルグロン。マーシャって呼んでねっ! ウチも候補生だから!」


「え、えーっと…。取り敢えず、皆よろしくね」


若干弱腰で、陽菜は笑った。

先程の薄っぺらい笑顔ではなく、謙佑によく見せる太陽のように眩しい笑顔だ。

それを見て、四人の頬も少し緩む。どうやら緊張していたらしい。


「んじゃー、まずはヒナちゃんの部屋から案内しよっかー!」


多少馴染めた様子の陽菜を見て、カレアが提案した。

特別断る理由もなく、逆にもっと親しくなりたい陽菜は、素直にその提案を快諾。


こうして、数名の友人が出来たことに陽菜は安堵しつつ、ワース大陸の夜は更けていく。





◆◆◆





 夜ももう終わる、満月が美しく夜空に冴えていて、まるで祭りの終わりの花火のようであった。


それを見ているのは謙佑だ。今いる場所は王城の特設ベランダである。

 数十人規模ならばパーティでもできそうな程に広いベランダを謙佑は独り占めしていた。と言うのも謙佑は騎士舎から抜けてきたのには幾つか理由があった。


一つは陽菜とお互いの近況報告をする為。

もう一つは何となくホームシックに駆られてしまった、からである。


「(我ながら情けない…。どうせ帰れないんだ、覚悟決めろ。機械あるぞ、魔法もあるぞ、男としてこの対応はどうなの…)」


自分が思い描いた世界、ワース大陸はそれをなぞったような、綺麗なまでの幻想の複写だ。

だからこそ現実味が欠けるのだろうか、謙佑は思考の深みに嵌りそうになる。

そんな背後に、ゆらりと近寄る影。


勿論ドツボに嵌ってしまった謙佑は気づくことはない。

その影は、ゆっくりと手を伸ばし、掛け声と共に肩に手を置いた。


「わっ!」


「!?」


定番の威かし文句は、思いの外謙佑にクリティカルヒットした。

背後には、悪戯に成功して喜ぶ子供のような無邪気な笑みを浮かべた陽菜が居た。

謙佑の鼓動は今現在、進行形で早鐘を打っている。


「……たぁく、陽菜かよ」


「悪戯大成功ー!」


「…マジで心臓に悪いぜ」


「どーしたのさ、そんな暗い顔して」


「お前のせいだよ!?」


まるで今突然訪れました、と言わんばかりの顔で陽菜は問う。

叫びにも似たツッコミは空気に溶けて消えていく。

自然と、二人の間には笑いが溢れていた。


「はぁ。ほんっと参った…」


「どうかしたの?」


「んー、何ていうのかな、馴染めたんだけど、ちょっとノリが良すぎるっていうか…」


「あー、分かるかも…」


陽菜も心当たりがあるのか、溜息を一つ吐く。


「悪い奴らじゃねえんだけどなぁ…」


「そうよね…。ってか良い人だけどね…?」


「ああ、なんか、ハブとかしなさそうな感じだし。俺としては取っ付き易いかな」


ぽろりと謙佑の口から出た言葉に陽菜は過剰に反応した。

 と言っても少し身構えた程度で、大袈裟なリアクションをしたわけではない。ただ、陽菜の中で、もし自分が取っ付きづらくて付き合いづらい人間だったらどうしようか、という気の迷いと言うべきか、恋の病と言うべきか、言い振る舞いに困る感情が溢れ出たのだ。


『近づくのが恐れ多いって感じ?』


何気ない発言だったのだろうが、カレアの言葉は以外と陽菜の心に突き刺さっていた。

勿論、人見知りだから云々と言うのは幾らでも直せる。

しかし、長い付き合いになる謙佑がそう思っていたらどうしよう。


そんな逡巡が体を硬直させる。

思考がフリーズし、だからこそか、謙佑の声が聞こえていなかった。


「……な?」


「……」


「…陽菜?」


「……」


「おーい、陽菜っ」


目の前で手を振ったかと思えば、謙佑はぐいっと顔を近づけた。

 流石に陽菜の視界にも映ったのだろう、陽菜はハッと自我を取り戻したように前を見据え、目の前に何時も以上に至近距離に迫る謙佑が居ることに気づく。体が熱を帯び、頬を火照る。

それを見て謙佑は余計に心配したのか、陽菜の額に自分の額をくっ付ける。


「熱あるんじゃないか?」


「へっ!?」


「…うーん? 特にはないっぽいけどなぁ」


「ちょ、ち、ちか、ちか…!」


「ん?」


「こ、こ、この…ド変態!!」


「何故にッ!?」


謙佑は思い切り突き飛ばされて地面をヘッドスライディングする。

ハゲたらどうすんだ、と言う反論が出る間も無く、倒れ込んだ体にずしりと重圧が掛かる。

勿論それは陽菜だ。陽菜が踏みつけているのだ、謙佑を。


「あんたねぇ…! いきなり顔近づけるなッ!」


「ば、ばっかお前、そりゃ、あれだよ! なんか顔赤かったし? 熱あるんじゃねえかって心配したんだよ!」


「し、心配って……あ、あう、え、い、いらないもん! 大丈夫だし!」


「ならいいじゃん!? そろそろ足離してくれよ!? 痛い痛い!!」


「ふ、ふんっ」


フィニッシュ、と言わんばかりの鋭い踵踏みつけによってお仕置きタイムは終了した。

無情だ、この世は冷酷非道だ、と心中で忌まわしき世界を呪いつつ、謙佑は立ち上がる。


すると陽菜が石像のように硬直した様子で、一点を見つめて目を離さない。


「?」


そうして謙佑も視線を巡らせると、そこには。


「おやおやぁ? こんなお時間になになさってんですかねえ、お二人さん?」


何時もの三割増し程度の勢いで、意地悪そうな笑みを浮かべたレガンが居た。

謙佑は取り敢えず事情を説明し、その場を凌ぐ。


「はんはん、なるほどねえ。確かに必要っちゃ必要か。そんじゃ、俺からも救済案を出してやろう」


「…はい?」


「お前らはそもそもとして騎士候補生の数倍長い時間を費やすんだ、騎士道的なモノに対してな。だから午前中は候補生達と一緒に色々訓練しろ。午後はお前ら二人だけで特訓だ、いいな」


「え、えーっと、ハードになってないっすか? レガンさん」


「ったりめえだろうが。ハードが嫌ならベリーハードにしてやるぞ?」


「誰も難易度の釣り上げを望んじゃいねえよ!!」


文脈から察しろ、そんな雰囲気をオーラのように纏う謙佑。

しかしそれを何処吹く風で受け流し、レガンは陽菜に近寄ってそっと耳打ちした。


「(てなわけで、頑張れ)」


「へっ!?」


「(…ま、長年教官やってりゃ、多少はカンが鋭くなるってもんよ)」


「ち、ちが、違います! そんなんじゃ…」


「(そーいうことにしといてやろう)」


否定の言葉を繰り出そうとする陽菜の目の前で、人差し指を立ててレガンは笑った。

喋る必要がない、そんな笑顔だ。包み込むような柔らかい笑みに、思わず陽菜は見とれてしまう。


謙佑は取り敢えず黙っておくことにしたらしく、そんな感じの二人を負のオーラを発しつつ見守る。


「ってぇわけで、よろしく頼むぜ、期待の新人ッ!」


ガハハハ、と豪快に笑いながら、レガンは元来た道を戻っていく。

何しに来たんだろう、と謙佑は心の底からレガンの行動の意味を深く考えた。

思わぬハプニングによって、時間はかなり削がれた。


そろそろ帰らないとな、謙佑が歩き出すと、陽菜が歩き出す謙佑の裾を引っ張る。


「け、謙佑…」


「おう?」


何時もの気丈な上から目線っぽい声音ではないことに、謙佑は思わず驚いて振り返る。

そこには少し熱っぽく潤んだ瞳で、上目遣いに謙佑を見上げる陽菜が居た。


「え、えっと…。明日も、さ…その、話したいかな…って」


「別に構わないけど、それよかお前、ほんと大丈夫か?」


「な、なんのこと…?」


「いや……何でもないならいいんだけど」


調子狂うな、と謙佑は頭をガシガシと掻いた。

 しかし、先程の表情は謙佑にも一応効力はあったらしい。気軽に顔を近づけたりする行為をしていた謙佑も、少し自重しようと省みた。意識とは呼べない程度の無意識、しかし、それでも進んだ一歩に変わりはないのだ。


「取り敢えず、んじゃ明日もこの時間帯な」


「う、うんっ」


「そんじゃ、また明日」


「わ、わかったっ! 明日ね!」


そそくさと立ち去る陽菜を見送り、謙佑も騎士舎へ向かう。

今日この場面までは、最高に良い状態であると言える。


だが、翌日。





◆◆◆





 騎士候補生は全員で授業を行う。


男女入り混じっての40名、そこに謙佑と陽菜を加えての42名だ。

 勿論それは午前中の限られた時間のみである、それでも謙佑にとって退屈な時間であることに変わりはないのだ。その上ノートを取ることはしないようで、余計に暇だと感じてしまう。


「(…なんでこんなことに)」


さっきから的を得ない、何とも説明力不足なレガンの授業が続いている。

陽菜は真面目な様子で聞き耳を立てて、しっかりと学んでいる様子だ。

あー退屈、とは冗談でも言い出せない雰囲気なので、謙佑は黙って机に突っ伏す。


「(………暇やなぁ)」


思わず関西弁になるほど、謙佑の暇度メーターは上がっていた。

 そもそもとして学校というシステムが謙佑はあまり好きではない。特別友人が居るわけでない、苦痛を強いられる空間に強制収監されているようなものだ。勉強とはその苦痛の筆頭である。


不機嫌にはならないものの、やはり退屈さを隠しきれない謙佑。

それを見かねて陽菜が声をかけた。


「(あくびしすぎ)」


「(悪いかよ…。俺がこーいうの苦手なの知ってんだろ?)」


「(そりゃあ、そうだけど…)」


「(寝ようかなー)」


コソコソと呟き合う謙佑と陽菜。

すると、レガンは持っていた教科書らしき書類を教卓に投げつけ、背伸びをする。


「よーっし、これから魔法の実践演習だ。全員付いてこい」


レガンは唐突に授業を切り上げ、さっさと教室を去っていった。

あまりの手早さに謙佑と陽菜が呆気にとられる。


「おーい、ケンスケ、行こうぜ!」


「ヒナちゃん! 行こっ?」


謙佑にはルーンハートが、陽菜にはカレアが別々に声をかける。

呼ばれた本人である二人は顔を見合わせ、クスリと吹き出した。


「あー、行くよ。ちょっと待っとけ」


「カレアちゃん、ちょっと待ってね」


二人は立ち上がると、即座に友人の元へ向かった。

こんなの本当に久々だな、と謙佑の心に嬉しさの感情がふつふつと湧き上がる。


そうして気分が良いまま、異世界一日目の魔法演習授業が開始された。


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