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魔導装甲と女神様  作者: 切葉訣子
3/4

第三話 騎士

 「「基礎鍛錬?」」


二人は口を揃えてオウム返しに聞き直した。

はいっ、とケルミアは頷いて、ズビシッと騎士舎から少し離れた小さな部屋を指さした。


と言ってもサイズは学校の教室程のもので、騎士舎を見たせいで小さく見えているだけだ。


「あそこで、基礎からしっかりと学び、反復練習を通して、騎士として一人前になってもらいますっ!」


「座学、ってやつか?」


「その通りですっ」


謙佑は自分で言っておいて、直様うなだれた。

 何を隠そう謙佑は勉強が大嫌いなのである。学校での成績は下から数えたほうが早いレベルであり、陽菜にテスト一週間前から付きっきりで指導を受けることによって、ギリギリ赤点を取らずに済んでいる程度の頭脳の持ち主なのだ。


逆に先程よりも少しだけ元気になったのは、陽菜の方だった。


「まずは、教えてくれる教官さんを紹介しますっ! レガン先生よろしくお願いしますっ!」


そういった直後、ズドン! と激しい地鳴りのような音が数m前で起こった。

粉塵が突如乱れ舞い、思わず陽菜と謙佑はゴホゴホと噎せてしまう。


「おう、こいつらが例のアレか。ふーん、結構いい感じじゃねえか」


砂煙のなかに浮かぶ黒いシルエットが、気さくな感じで喋り始める。

それに対してケルミアは少し怒った様子で一気にまくし立てる。


「何してるんですかっ! 陽菜さんと謙佑さんが思いっきりむせ返ってるじゃないですかっ! だからあれ程騎士舎から飛び降りて遊ばないようにって注意してるじゃないですかぁ!!」


「あーはいはい。悪い悪い」


一ミリも悪びれた様子はなく、男は現れた。

 身長は190cmくらいだろうか。筋骨隆々と言うよりかは、薄くて強靭な、つまり傍目にはひょろっとした様子に見えてしまう体型だ。

しかし、煙る視界の中でも、その瞳からはギラリとした闘志のようなものがありありと見えた。


「よっす。俺がお前らの基礎鍛錬を担当する、レガン・ウィーカーだ。よろしくな」


レガンはニヤリ、と不敵に笑ってそう言った。

なんとか砂煙に耐性を付けて、謙佑が喋る。


「あんた、あの騎士舎から飛び降りてきたのか?」


「ああ、そうだけど?」


「……なんていうか、すげえな」


「褒め言葉かい?」


「そう思いたいならそう思ってくれ。俺は謙佑、隣のこいつは陽菜だ、よろしく」


「おうよ。お前らも丁度良いタイミングだよなぁ。今年から騎士になる新入生の連中も今学んでる最中だからよ、俺の手間も省けるってもんだぜ。いやー、助かった助かった」


「そりゃよかった」


「へへっ。ちと厳しいけど我慢しろよ? 騎士になった後よりも、騎士になる前のが厳しいかんな」


「体力には自信がある」


謙佑はそう言ってにやっと笑う。

陽菜は笑みこそ浮かべなかったが、自信満々なオーラを振舞っている。


その二人の様子を見て、レガンは豪快に笑った。


「ガハハハハ!! こりゃあいいな。後半年で騎士団正式加入になるがぁ…お前らなら半年でアイツ等に追いつけるんじゃねえか? ま、そう簡単じゃねえけどな」


「半年?」


「ああ。後半年すれば今俺が教えてる連中は全員低級騎士になる。そっから戦功次第で階級を上げてくってわけだ。アイツ等は基礎から応用まで、とにかく三年間ぶっ続けで習ってきてる。お前らはそれを半年でやるんだぞ? 分かってるな?」


「ハードすぎるじゃねえか…!」


「ちょっと厳しいわね…」


先程の余裕は何処へやら、二人の顔には不安の色が濃くなる。

しかし、今度はレガンが不敵に笑う。


「大丈夫だ。半年で残る二年半分の遅れを取り戻すなんてのは案外楽だぜ。なぁ、ケルミアさんよ?」


「うるさいですっ! 私はミリテル様の助手になる為に、必修科目じゃない《魔導哲学》を学んだせいで二年半失っただけですっ!」


「え、ってことは…」


「そうそう。目の前のケルミアがその実証例だよ、半年で殆どゼロからスタートして、今じゃ騎士団長になってるってんだから、世の中信じられねえ出来事ばっかだ」


またも豪快に笑い飛ばすレガン。

謙佑と陽菜は畏敬の篭った視線でケルミアを見つめた。

ケルミアは恥ずかしくなったのか、もじもじと体をくねらせ始める。


「あ、あとお前ら何歳だ?」


レガンが唐突に質問してきた。


「17歳、ですけど」


「ほう? んじゃケルミアと同年代か」


「「同年代!?」」


「ああ。コイツは色々と例外でな。本来は騎士試験を受けられるのは14歳からなんだ、しかしコイツだけは10歳から受けてな…。結局団長になった時点で14歳、とまぁ……破天荒なんだな」


「破天荒じゃありませんっ!」


レガンの適当な言い草に必死に異論を唱えるケルミア。

と、そこで話も一区切りついたのか、おもむろにレガンは歩き始めた。


「まぁ、付いてこい。面白いモンが見れるぞ」


そしてまるで自分のスゴ技を披露するかのような満面の笑みでこう付け加えた。


「特にお前らにとってはな」





◆◆◆





 そう言って謙佑と陽菜はレガンに連れて行かれた。


着いた場所は丁度王城を挟んで騎士舎と真逆に位置する、訓練場だ。

そこからは、覇気のある声と、鋭く厳しい恫喝が飛び交っている。


「あれは?」


陽菜はレガンに問いかけた。

レガンは振り向かないままで、棒読みのような返答をする。


「あれは《騎士団訓練場》、主に低級騎士から上級までがあそこで練習する。帝宮騎士と騎士団長、あとは上級騎士の一部は野外で実践練習だ。一日休憩抜きで15時間、それが練習時間に当たる。筋トレに始まり、素振り、組手、座学……騎士団に入ってからも長々と試練は続くんだ」


「へえ…」


「って教科書に書いてあった気がするぜ」


「受け売りかよ!? しかも確定じゃないし!」


感心して損した、と謙佑は心の中で毒づいた。

近寄りがたく離れづらい、そんな微妙な距離感を作っているレガン。

少しだけ苦手だな、と謙佑が思うと同時に陽菜も思った。珍しく想いを同調させていたのだった。


「おーい、ミーアァー!」


「……」


やけに間延びしてだらし無さだけが強調された呼び声に、ピクンと耳を揺らす女性が居た。

 膝までありそうな長い金髪、それが一番最初に目に付いた。そして華奢でありながら、微塵も脆さを感じさせない肉体、加えてそんな肉体にそぐわない可愛らしい顔つき、それが同時に脳内に飛び込んできて、謙佑の脳内キャパシティは飽和寸前になる。先程から美少女に出会い過ぎだろ、と謙佑は口に出したくなるのを必死にこらえる。


その女性が何も映さない無表情を貼り付けた様子で、こちらへやってくる。

そして。


「気安く呼ばないでください。ゲス野郎」


「(まさかの毒舌家!?)」


「いんやー、酷い事言うなよ。昔は結構仲良かったじゃねえか」


「昔は昔です。過去に囚われてばかりでは何時までも先へは進みません、取り敢えず離れてください。はっきり言いますけど、キモイです」


「(二連撃だと!?)」


謙佑は陽菜を見た。

陽菜も同様に謙佑を見た。

二人の心の中に宿った感情は一つ。


「「(レガンのメンタルがタフすぎんだろ!)」」


「ひっでえな、おい。いや、俺も特別近寄りたいわけでなくな、ちょーっちお願いがあるんだわ」


「……何でしょうか」


「《魔導装甲グレイブアーミー》の実演を一つ見せてもらえねえかな? こいつらに」


「…この子達は?」


「新入生だな。他世界からの」


「…そうですか、分かりました。ではこちらもそれなりの人員を配備しましょう」


そう言って女性が立ち去る。その後ろ姿を眺め、陽菜と謙佑はぽーっとしていた。

そんな二人の背中を軽くパシッと叩いて、レガンは促した。


「あいつはミーア・テレシナ。俺と同期なんだぜ、ってか俺の同期は騎士教官か騎士団長様しか居ないんだけどな。とっつき辛いかもしれねえけど、腕は確かだ、見とけ」


「……レガン、あんたは心が無いのか?」


「あぁ? どういう意味だよ。もし毒舌云々の話なら慣れだよ、慣れ。結局アイツの言い草に慣れちまったって感じ」


「そうか…」


「凄いんだね…」


初めて謙佑と陽菜はレガンを尊敬した。

勿論メンタルのタフさ的な部分であり、人柄や態度では決してない。

すると、ミーアが一人の男性と女性を連れてきた。


レガンが問いかける。


「こいつらは?」


「上級騎士でも最強格に当たる騎士です。男女のトップと言ったところでしょう。こちらがミルフィ・ディザニア。そしてこっちがクライン・ボーレアス」


そう言って女性、男性の順にミーアが紹介していく。

 ミルフィと呼ばれた女性は、温和そうな少女だ。茶髪のショートカットは、健全で純真なイメージを持つ彼女にピッタリと言えるだろう。体型もスレンダーで、街中を歩けば十中八九の人間は振り向くであろう程だ。

 クラインと呼ばれた男は、逆に粗暴なイメージが強い。金髪のウルフカットと、見た目にも分かる強そうな筋肉質の体は、心底から男だと認識させる。しかし、目にギラリとした鋭さはなく、全体としてガラが悪く見えるだけなのかも知れない。


「では、実践練習を開始します。こちらへ」


そう言ってミーアが先導した。

それに付き従う形で、謙佑と陽菜、レガン、ミルフィとクラインが続く。




 次にたどり着いたのは闘技場のような空間だ。


四方に40m程度の空間で、特に敷居の類はない。

すると、何も言わないままに、クラインとミルフィが闘技場にあがる。


「見とけよ、すげえかんな」


「レガン、静かにしてください。では、これより模擬戦闘を行います。両者位置について」


抜け目なく注意したミーアが戦闘の合図をする。

すると、ミルフィとクラインは脱力した様子で、その場に棒立ちする。


「…開始!」


その言葉の直後、銀色の薄いカード状の物体を取り出す。

そして。


「「《召喚サモン精霊機工エレメントシールド》!!」」


同時に、一字一句違わず、二人は口を揃えて叫んだ。

 すると、二人の足元に魔法陣が展開される。ミルフィは青で、クラインは赤の魔法陣だ。そして、魔法陣が一層輝き、一瞬二人の姿が光に埋もれる。そして次の瞬間には、完全に違う姿になっていた。


と言うのも、多少肌の露出があるが、体の殆どを機械に覆われた姿だったのだ。


「なんだあれ!?」


「まー、後で教えてやるさ。今は見とけって言っただろ」


謙佑の無知な叫びは、レガンにしれっといなされる。

そしてそこからが、戦いの始まりだった。


「《封式展開》! 《獄炎ヘルフレイム》!!」


「《滅式展開》! 《雹瑞アイスダンス》!!」


先に仕掛けたのはクラインだ。

さっと右手を伸ばし、数秒後に出現したバスケットボールサイズの火球を投げつける。

すると、火炎は増大し、まるで大玉のように体積を上昇させた。


そしてそれを受け流したのは冷たい吹雪のような一撃だ。

氷塊に包まれた両腕を使って、火球を殴りつける。


バァン! と巨大な破裂音が鳴り響き、二人は何事もなかったかのように距離をとる。


そして、今度は近接戦闘だ。

 刃が抜いてある鉄剣を、両者が薙いで、払って、叩きつける。一進一退の攻防を広げる二人、まるでただの殴り合いに見えるが、それは確証ある実力と、積んできた経験に裏付けされた、ある意味では美とさえ感じてしまう戦闘である。


永遠に続くかと思われたその剣戟の打ち合いが、とある一撃で変化していく。

クラインが剣を叩きつけた直後、クラインの鉄剣が一瞬で氷塊と化したのだ。


「(!!)」


「出たな、《創造魔法》の実力が」


「な、なんだそれ?」


「簡単な話だ。魔法ってのはバカスカ打ち放題の代物じゃねえ。魔力を練って、精密に、正確に魔法という形を作る。しかし、それをあいつは「創造という想像」で補う。想像、つまり考えた形式を魔法として創造、つまり作り出す。天性の才能ってやつだな」


「ち、チートじゃねえか…!」


思わず謙佑は叫んでいた。

魔法とは色々な制約がある、それを毛ほども気にせずに使いこなす。

謙佑の凡庸な表現を借りるのならば、まさしくチートと呼べるべき、最強の力だ。


しかし、レガンは意地の悪い笑みを浮かべてこう言った。


「だが」


瞬間、氷が一瞬で溶け出し、逆にミルフィの剣に流れ込む。

すると、ジュウ、と嫌な音を立てて氷から液体になった物質が、一瞬で高温のマグマになる。

その上、相手の剣に絡みついた直後、一瞬で冷却され、黒い溶岩と化す。


「《逆錬成》、こりゃまた厄介な…」


「さっきから何が何だか…」


「要点だけまとめてやろう。クラインは炎の魔法の使い手、剣に魔力を通すのは騎士の基本だ。そしてあいつの司る属性は火、形式によって流れ込む力というのは変わる。風ならば風、雷なら電気…と言ったようにな。そして、あいつは剣に炎の魔法をあらかじめ流し込んでおく」


「それで…?」


「そして、ここで《逆錬成》が使われる。相手の氷塊を溶かし、逆に相手が錬成した氷から分解された水を通して熱量を加える。すると水は沸騰し気化する、が、あいつは沸騰すら飛び越えて一瞬でマグマにするような超熱量を瞬時に加える。そうして、水がマグマになり、相手の剣に絡みついた瞬間に、相手自身の剣に宿る水の属性によって急速冷却、一瞬で溶岩化するってわけだ」


「化物か…」


謙佑は驚いた様子でそれをぼーっと見ていた。

そして、ちらりと気になって視線を巡らせると、陽菜の顔がある。

その顔には、何とも言えない色が浮かんでいた。

 楽しい、嬉しいと言った完全な正の感情ではなく、逆につまらない、悲しい、という負の感情でもない。自分を戒めつつも、楽しむのを止められない、そんな表情だ。


「(陽菜……?)」


「いい表情ツラじゃあねえか」


レガンはそれを見て嬉しそうに笑った。

そして、こう付け加えた。


「もう決着だぜ」


「え?」


謙佑が陽菜から目線を戦闘中の二人に向ける。

それと同時に、ガンッ! という鈍く硬い音が響いた。


受けたのは、ミルフィだ。


「勝者、クライン!」


ミーアが無感情な声を張り上げる。

クラインとミルフィは定位置に戻り、礼をする。

そして、闘技場とは名ばかりの円形のフィールドからこちらへ歩いてきた。


「いんやー、こりゃまた大合戦だな」


「いえ、レガン先生には及びません」


「何を言ってるのかね……」


「そうですよ、レガン先生には適いませんって」


クラインの謙虚な態度に、負けたとは思えぬ程陽気に便乗するミルフィ。

そして、チラリとミルフィはクラインを見る。

クラインはその視線に気付いてか、ふぅ、と息を一つ吐いて、口を開いた。


「分かったよ。それは後でな」


「わーいっ。さっすがクラちゃん!」


「クラちゃんと呼ぶな!」


謎のやり取りの直後に大喜びするミルフィ。

 そしてそこで謙佑は感づいた。もしやこれは、デキてるのか? と。今まで数多のアニメを視聴し、本を読破し、ゲームをクリアしてきたヲタクの筆頭たる謙佑の勘が囁く。これは早急に聞くべきだな、と謙佑はスケジュールにメモをとる。


「凄かったですね、お二人共」


陽菜は手放しに絶賛していた。

それに対してクラインは頭をポリポリと掻き、ミルフィは体をもじもじとくねらせる。

誰がどう見てもハッピーエンド、と言うかいい感じの終わり方である。


はずだったのだが。


「よーし。んじゃお前ら、半年後にはこいつら越せよ」


レガンのとんでも発言が飛び出し、一同が騒然となる。

 勿論渦中の人物である謙佑と陽菜は驚いて声も出ない。加えて比較の物差しにされたミルフィとクラインもまた、驚きを隠せずにいる。ただ一人、レガンを除いてミーアだけは無表情を浮かべていた。


そして謙佑がごもっともな反論をする。


「お、おい!? 俺達は低級騎士になる連中に追いつけって話じゃなかったか!?」


「追いつけ追い越せ、ってのは何時の世も変わらねえんだよ。アホ」


「なぁ!?」


「実際無理ですよ! 私達は素人ですし…」


謙佑の言葉に陽菜が便乗する。

すると、やはりお得意の不敵な笑みを浮かべてレガンを親指をつきたて、自分に向ける。


「だーかーら、俺が居るんだろうが」


こうして、レガンによるスパルタ超特訓は幕を上げたのだった。


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