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黒眸の剣士と名無しの魔剣  作者: 楠たすく
1、メルボの長い一日
8/14

反撃


 屋敷の外では長身の男が地面に片膝をついてじっとしている。

 ゴーレムが見ている景色を術者は共有することができるので、男は複数のゴーレムたちを使ってガンレイを探していた。

「ちっ、見つからな…あ!さっきの小、ん?」

 屋敷に放ったゴーレムのうちの一体の視界にウィルとシャーリーが入ったのだが、その姿はすぐに見えなくなってしまった。

「あの小僧…!見てろよ!」


「まだいるのね。お母様とお父様は大丈夫かしら…」

 先を歩いていたウィルが廊下を歩いていたゴーレムを一太刀で倒したのを見て、シャーリーが心配そうにつぶやく。

「先にご主人様たちを探そうか?」

 その時、屋敷の中に女性の悲鳴が響き、ウィルたちはすぐに声の方へ走り出した。

 二人が大広間にたどり着くと、悲鳴の理由はすぐに分かった。

 不審な長身の男が部屋の中央に立っており、六体ものゴーレムが部屋の隅に集められた屋敷の人間を囲んでいるのだ。

 その中にはオーウェンとクロエの姿もある。

「やっと来たな、小僧に嬢ちゃん。おっと、その剣は床に置きな」

 男がにやにやと笑いながら魔剣を指差し、ウィルは大人しく魔剣を床に下ろす。

「そうそう、大人しくしてた方がみんなのためだ」

「あんた誰だ。目的は何だ」

「それに気付いたから置いてきたんだろ?伯爵様の所に案内してもらおうか」

「き、君!何でも報酬をやる!だから絶対にそいつの言う通りにしてはならんぞ!」

 人質の中のオーウェンが大声を張り上げると、隣にいたクロエがあらと声を出して旦那の袖を引っ張る。

「君だなんて、何を言っているの貴方。ウィルよね?」

「ウィルだと!よくおめおめと顔を」

「えぇい、うるせぇ!黙ってろ!」

 しびれを切らした男が語気を荒げ近くにあった椅子を蹴飛ばすとゴーレムたちが一斉に一歩人質に詰め寄り、近くにいた侍女がまた小さな悲鳴をあげる。

 一瞬しんと静まりかえった部屋でシャーリーが口を開いた。

「貴方、伯爵が狙いならどうしてうちを滅茶苦茶にしてるのかしら?」

「あぁ?成り行きだ成り行き。ほら、さっさと案内しな、嬢ちゃん」

 その言葉にシャーリーの整った眉がぴくりと動く。

「成り行きでわたしの家を吹き飛ばすなんて、素晴らしい度胸をお持ちですわね…『氷弾(バレット)』!」

 呪文と共に六つの氷の玉が空中に現れ、シャーリーが人差し指と中指をゴーレムに向けると氷の玉はまっすぐに飛んでいき、当たった瞬間にゴーレムたちの体を凍りつかせた。

 一瞬の出来事に全く反応できなかった男は慌ててゴーレムを動かそうと意識を集中したもののすでに手遅れで、ゴーレムは腕を上げることすら出来ない。

「やるだけやって、やられる覚悟はない、なんて言いませんわね?」

 シャーリーの指先が男に向けられると、男は舌打ちをしてから窓に突っ込むとガラスを割って外へ飛び出して、もう一人の男の元へと走っていった。

「ウィル、ゴーレムを斬っておいて!」

 そう言い残すとシャーリーは部屋を出て玄関へと向かう。

「えっ、ちょっと!一人は…えぇい!」

 ウィルは急いで呪文を唱えると漆黒の魔剣で凍っているゴーレムの胸を突き刺してその中の紙を破いていく。

 大広間で捕まっていた使用人たちは呪文と共に刀身と髪の色が変わったことに驚いていたが、やがて全てのゴーレムが崩れると歓喜の声をあげた。

「ウィル」

 窓枠に足をかけ自分も外へ出ようとするウィルにクロエが声をかける。

「あの子をよろしくね?」

「…はい、奥様」

 ウィルは短くそう答えると窓の外へ飛び出した。


「ちっ、何なんだあの魔術…おい、容赦しねぇで屋敷ごとぶっ飛ばしちまえ!」

 その頃には日もすっかり落ちて辺りは辺りは暗くなっており、屋敷の塀の火は駆けつけたメルボの住民たちによってほとんど消されていた。

「で、でも、目立つことはするなって言われ」

「やらねぇと俺たちがやられちまうんだよ!特大のだ!」

 丸い男は覚悟を決めたように険しい目付きで右手を突き出すと、その手のひらの先に小さな火の玉が現れ、少しずつ大きくなっていく。

 火の玉がどんどん膨らんで辺りを煌々と照らしだした時、屋敷の玄関から外に出たシャーリーが男を指差して氷弾を放つ。

 しかし男に届く直前に特大の火の玉は完成し、長身の男が飛び出してきた部屋、まだ皆がいる大広間に向かって一直線に飛んでいった。

 クロエの声を背に窓から降り立ったウィルは、自分ほどの大きさの火の玉が近付いてくるのを見てそれに魔剣を振り下ろす。

 爆発するはずの火の玉は魔剣に当たった途端に消えてなくなってしまった。

「なん、だと!?」

 ウィルは驚愕の表情を浮かべる男たちへ向かって駆け出すと一気に距離を縮める。

 木刀程度の鋭さしかない刃なら怪我はしても命まで奪うことはないだろうと考えたウィルは思いきり魔剣を振り、腹部に一撃を食らった丸い男は悶絶して膝から崩れ落ちた。

 すんでのところで跳び退った長身の男だったが、すぐにシャーリーの氷弾に襲われ地面に這いつくばることでなんとか躱す。

「こ、降参だ!俺が悪かった!」

 男は跪いたまま自分の首からネックレスをちぎるようにして外すとウィルの足元に放り投げた。

「あなたは何者?なんで伯爵を狙っているのかしら?」

 ウィルには魔剣を突き付けられシャーリーには指差されたまま狙われいる男は平身低頭しながら必死の口調で答える。

「お、俺たちは雇われただけだ!金とそのネックレスを渡されて伯爵を殺すよう言われたんだ!」

「魔器、かな?」

 ウィルがネックレスを拾い上げると、不思議な紋章が両面に描かれた特徴的なメダルが付いている。

 男はウィルがネックレスを見つめていることを確認してこっそりと短剣を取り出した。

「こんな所で捕まってたま」

「大人しくしてろって」

 ウィルが立ち上がろうとした男の頭を魔剣で叩くと、男は糸の切れた人形のように地面に突っ伏した。


読んでいただきありがとうございます!

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