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黒眸の剣士と名無しの魔剣  作者: 楠たすく
1、メルボの長い一日
7/14

魔剣


 金属ではない材質で作られた刀身は白く、まるでずっと前から使っていたかのように違和感なく振ることができた。

 しかし切られたゴーレムがダメージを受けた様子はない。

 刀身をよく見てみるとその刃は木刀程度しか研がれておらず、果物すら切れそうにない。

「じっちゃんが鈍刀を作る訳はないんだけど…」

「ウィル、これ!」

 シャーリーは消えゆく魔方陣の中に落ちていた紙をウィルに見せる。

「リーアムの字だ…『染まれ烏羽玉(うばたま)』?」

 ウィルが紙に書かれた文字を口にした瞬間、白かった刀身が一気に闇色へと変わった。

「魔剣…なのかな?」

「ウィル!?どうしたのその髪!?目も!」

 呪文を唱えた直後、唯一昔と変わらず赤かった前髪も黒くなり、その青い瞳も刀身同様に闇色に染まっていた。

「とりあえず体は何ともないよ。他にはなんて書いてある?」

「えっと、汚すぎて読めないわ」

「…しょうがない」

 魔剣を構えたウィルに向かって全身を硬化させたゴーレムが腕を伸ばす。

 ウィルが魔剣でゴーレムを受け止めると、その硬化した腕の肘から先が斬り落とされる。

 その切れ味に一瞬驚いたものの、ウィルはすぐに魔剣を振るってゴーレムの首に斬りつける。

 呆気なく頭を無くしたゴーレムにもう出来ることはなく、ウィルに胸を突かれると人型を保てなくなって体はあっという間に崩れた。

 ウィルが大きく息をはきながら魔剣を鞘に収めると、その瞳と前髪の色も元に戻った。

「シャーリー、早くこの部屋を出よう。火性の魔術師もここを攻撃してくるかもしれない」

 ゴーレムを倒したからといって安心していつまでもこの部屋にいるわけではいかない。

「そうね。さぁ参りますよ、ガンレイ伯爵」

 名前を呼ばれてやっと我に返ったガンレイはゴーレムがいなくなっていることに気付くと部屋を出ようと駆け出し、シャーリーは自身の服と財布だけを鞄に放り込むと、紙が挟まっていた木箱を拾い上げた。


「なんだと…!?」

「ど、どうしたの兄貴?」

「あいつら、ゴーレムを倒しやがった…あの部屋だ、やっちまえ!」

 長身の男がシャーリーの部屋を指差したが、元々はガンレイ襲撃は隠密の計画だったため丸い男は少し躊躇する。

「で、でも…えぇい、『爆ぜろ』!」

 丸い男がシャーリーの部屋に向かって手をつき出すと、拳大の火の玉が宙に浮かびあがって一直線に飛んでいった。

 規模も速さもそれほどでもない火の玉だったが、シャーリーの部屋の窓に当たった瞬間に大爆発を起こした。


「伯爵をどこかへ隠さないといけないね」

「とりあえず厨房がいいんじゃないかしら?」

「な、なぜ私が隠れる必要があるんだいミルカ?」

 困惑に満ちた瞳を二人に向けるガンレイに対しため息をつきそうになるのを懸命に堪えながら、シャーリーは頭の中で今一度「貴族の娘」の仮面を被り直す。

「あのゴーレムは伯爵を狙っていましたわ。間違いなく敵は再び襲ってくるでしょう。だから伯爵には隠れていただくのです」

「伯爵ともあろうこの私が、悪党からただ逃げるわけにはい」

 少し強気な口調でガンレイが言い返していたちょうどその時、男が放った火の玉がシャーリーの部屋で爆発しその爆風で部屋の扉が吹き飛んだ。

 ウィルとシャーリーはとっさに警戒して周りを見渡すが、一方のガンレイは頭を抱えたまま床に這いつくばっている。

「無理しないでください伯爵」

 ウィルはガンレイを立たせるとシャーリーを伴って厨房へと向かった。


「や、やったかな?」

「分からねぇ…とにかくガンレイをさっさと見つけないとこっちもまずい」

 長身の男は残りの紙切れを全て取り出すと再び呪文を唱えた。


 一方のウィルたちは厨房でメリッサに会った。

 シャーリーが状況を説明するとメリッサは全てを理解した表情でガンレイを食料貯蔵庫に押し込める役を請け負ってくれたので、二人は改めてリーアムが送った紙を読み直すことにした。

 ただでさえ字が上手ではないリーアムが急いで書いた文字は難解で、見慣れたウィルでなければ半分も読むことができないだろう。

「えっと『染まれ烏羽玉、と唱えれば魔を喰らう剣となる。』…魔を喰らうって何だ?」

「風性の魔法にそんな効果あったかしら?」

「あぁ、俺、もう風は使えないんだよ」

 ウィルはラゼルに襲われた日にルプスがどのように二人を助けたのかをシャーリーに簡潔に話した。

 もちろん、自分はどうなってもいいからシャーリーを助けてほしいとルプスに頼み込んだことは伏せておく。

「ウィルのコアがわたしの中にあるなんて不思議…」

「俺も最初に聞いた時はびっくりしたよ。えっと、その箱は…シャーリー宛てみたいだね」

「わたし?じゃあ読んでて。こっちは見ないでね」

「え?」

 見るなと言われて思わず振り向いてしまつたウィルは、シャーリーが何をしようとしているかに気付いて慌てて目を背けた。

 シャーリーは鞄の中からメリッサに用意してもらった服を取り出すと、着ていたドレスを脱ぎ始めたのだ。

 ウィルは微かに聞こえる衣擦れの音に顔を真っ赤にさせながら文字の解読に集中する。

「『これは水と風を合わせた魔力を使う助けとなる。その力は水より固く、さらに冷たい』…だって。何が入ってるの?」

「腕輪…みたいね」

 シャーリーは内側に不思議な文字が書かれた銀色に光る腕輪を取り出すと、着替え終わってから右手に付けてみた。

 今までシャーリーは魔法を使おうとする時には柔らかく淀みなく流れる水をイメージしていたのだが、それを心の中でリーアムの指示通りに少しずつ変えていく。

 すると、かつて水の魔法を自在に操っていた頃と同じように自分の中の魔力が強く反応するのを感じた。

「すごい、いけるわ!ねぇ、どうかしら?似合う?」

 改めてウィルが振り返ると、そこにいたのは貴族の令嬢「ミルカ」ではなく、ウィルがよく知る魔術師「シャーリー」だった。


読んでいただきありがとうございます!

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