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 4-4

「助けてくれたのは本当に感謝してる。私は大丈夫だから、貴方も自分の目的を果たしに行って?」

「俺の目的はお前を連れ帰る事なんだよっ」

「は?」

「あっ!」


 唖然としてカティアは目を瞬き、ガルは口を滑らせてしまった事に慌てて目を泳がせる。


「私を? 何で?」

「いや! 違うぞ! 俺は何も……っ」

「そう言えば、随分タイミング良かったわよね。もしかして、セルグの城にいたの? それからずっと付けて来てたとか」

「うっ……」

「私を助けて、この前襲った事を清算したい、とか?」

「うぅ……っ!」


 呻く以外の声は、ガルからは出て来ない。図星のようだった。


「じゃあ、力を貸してくれるの?」

「い、良いのかよ」

「何で? 私は助かるわ。それに、セルグもきっと口実を欲しがってると思う」

「口実?」

「……や、何でもない」


 レイヴァンセルグもそれなりに寂しがっている――とは、言わないでおく事にした。物凄く調子に乗る様子が目に見えるようだったので。


「まあ、いいや。だったらとっとと行く――っ!?」

「ガル!?」


 不自然に言葉を途切れさせたガルを覗き込み、声を掛ける。

 僅かに体を震わせ、吐き気を堪えるように口を手で覆い、ガルはその場に膝をつく。


「くっ……!」

「ガル!」

「んだ、これ……っ!?」

「これぞ、妾が魔王を討った秘術よ」

『!』


 諦めて、見逃すつもりはなかったらしい。後ろから追い付いてきたラプスミュリアンの声に、カティアとガルは顔を強張らせ、振り向いた。


 ガルにくらった一撃は、彼女の纏ったローブに傷跡を残していたが、その下の体の方は完全に治癒を終えたようだった。


「光栄に思うが良いぞ、獣王ガル=シェリストリード。レイヴァンセルグに全てを振り分けるはずだったものを、僅かとはいえ貴様如きに使ってやるのだから、のう」

「テ、メェ……っ!」

「何をしたの!?」

「呪いよ」


 自分も膝をつき、ガルの肩を掴んで支えながら叫んだカティアに、ラプスミュリアンは薄っすらと微笑む。


「魔力を枯らし、命を削る死の呪い。まあ、貴様にそこまではせん。レイヴァンセルグへ向ける魔力を無駄にはしたくない。少々魔力の流れを阻害してやれば、十分そうであるからのう」

「テメ……っ。舐めんなァッ!!」


 立ち上がり、双剣を取り出し構える――が、剣に魔力の輝きがない。魔力を流せていなのだ。

 その事に、ガル自身も愕然とした表情をする。


 ほくそ笑んだラプスミュリアンに、呪いを受けたままではガルは勝てない、と確信する。逃げるしかない。


「ガル! 本性の方になって!」

「何? 本性って、何で」

「いいから!」

「無駄よ! 変幻では、呪いは変わらぬ!」

「――ちっ!」


 杖を振り上げたラプスミュリアンに舌打ちをし、ガルはカティアに従った。自分でも、敵わないだろう自覚があったからだろう。


「っ!?」


 本性と言われて、ラプスミュリアンはおそらく巨大な獣を想像したのだろう。

 しかし目の高さには何物もいなくて、一瞬、ラプスミュリアンは本当に標的を見失って手を止める。その隙にカティアは黒い子犬の姿をしたガルを拾い上げ、空間を割って逃げ込んだ。


「待て、小娘!」


 待つ訳がない。

 カティアとガルを飲み込んだ空間の裂け目は、ラプスミュリアンの追跡を受ける前にピシリと閉じた。


「おのれ!」


 二人がどこに逃げたのか、ラプスミュリアンには分からない。しかし想像は出来た。


 最も安全な逃げ場所であり、主への警告のために、レイヴァンセルグの城へと逃げたのだろうと判断し、追う事はしなかった。


 苛立たしげに舌打ちをして、ラプスミュリアンはそのまま後も見ずにカツカツとヒールを荒々しく鳴らし、去って行った。

 ――その背後に。


「行った?」

「行ったな」


 何の事はない。ラプスミュリアンの背後へと移動しただけのカティアとガルが、そう囁き合う。


 カティアが空間を割って移動したのは、ラプスミュリアンの背後の、少し先の折れた通路。

 魔力の阻害を受けていても、カティアがやるよりも信用のおける、ガルに気配を隠す隠行の魔法をかけてもらって、ひっそり息を潜めていたに過ぎない。


「よりによってこんな近くに出るたァ、すげえ度胸」


 ガルの口調は、本当に感心しているようだった。なので、カティアも少し悪戯っぽく微笑み返す。


「逃げ込む先があるのに逃げないとは思わないと思って」

「そりゃそうだ。何でセルグん所に逃げなかったんだよ? そりゃまあ、俺はその方が良かったけどな」

「アンリを置いて逃げられないわ。他の皆もここにいるみたいだし」


 全員まだ無事かどうかは、カティアには分からない。だがきっと、アンリはまだ生きているはずだ。


「……」

「何?」

「分かんなかねえけど、お前が無茶するよりゃ、セルグに任せた方が確実だぜ?」


 カティアの道徳心は否定しなかったが、ガルはあまり賛成しない様子を見せた。

 そう言ってから自分の言動にはっとして、


「勿論、俺はセルグの助けなんか要らねーけどなっ!」

「分かってるわ」


 レイヴァンセルグに任せた方が確実だというのも、今はどうか定かではないが、ラプスミュリアンを相手に、ガルがレイヴァンセルグに助力を求める必要がない事も、両方共。


「けど、セルグはそうするべきじゃないわ」

「……そりゃ、まあな」


 面白くなさそうに少し眉をひそめたガルも、分かっているようだった。


「ガル。私は大丈夫だから」

「戻れってか? ふざけんな。俺を呪った時点で、俺にも戦り合う理由は出来てんだよ」


 勇ましく牙を見せて、子犬の姿のままガルはそう言うが、カティアは不安しか覚えなかった。しかし、言っている事自体には頷ける。

 ガルも魔王として、自分の力を示さなくてはならないのだろう。


「分かったわ。じゃあ、やっぱり魔法炉を目指しましょう。囚われている人達を助ければ、貴方の呪いも解けるだろうし――」


(セルグにも、呪いを掛けられずに済むし)


「そうすりゃ、お前の目的も達成だもんな?」

「ええ」


 カティアが言い淀んだ先は、ガルが引き継いで口にした。思っていたものとは違ったが、間違いなく正しくもあったので、カティアは頷く。


「行きましょう」

「おう」

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