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第三章 魔王の生まれる理由

「カティア、行くぞ! ハルデュース・ウィンド!」

「うん! ラクトティア・クール!」


 アンリとカティアが、ほぼ同時に放った風と水の最上級魔法は、レイヴァンセルグへ到達する直前に混じり合い、風と水の属性を持つ、全く別の魔法へと変化する。


 融合魔法と名付けられているこの現象は、人間にとっては珍しいものではない。

 互いの魔力を重ね合わせるこの技は、単体での攻撃力を大きく上回る事から、個体で強大な力を誇る魔族への対抗手段として、広く使われている。


 魔族は、この融合魔法を使わない。

 大きく一括りに分けて『魔族』と呼ばれる存在は、人間と違って多様な種族がおり、宿す魔力に大きな差がある。重ね合わせる事が不可能なほど。


 性格的にも向かない者が多く、また、そもそも必要もないため、実践しようという者そのものがいないのだ。


「獄炎に棲みし魔炎の司ガイドルクスよ! 我が声に応え、業火よ宿れ!」


 その最たる象徴である魔王が、融合魔法の必要のなさを堂々と勇者と聖女に見せつけている。

 叫んだレイヴァンセルグの魔剣が赤く輝き、魔力そのものの炎を纏い、自分に向かって来た魔法を両断し、蒸発させる。


「はぁっ!」

「遅い!」


 自らが放った魔法を追って走っていたアンリが、レイヴァンセルグが魔法を斬ったその直後に懐に飛び込むが、レイヴァンセルグが剣を引き戻す方が早かった。


 澄んだ金属音を立ててアンリの剣を受け止めた時には、魔剣から紅の輝きは消えている。ガイドルクスの炎を宿したままでは、武器を斬ってしまうからだ。それどころか魔剣に通す魔力を自分で抑え、常の鋭さもなく、ただ強度を維持してあるだけだ。


 く、と腕の角度を変え僅かに力を逸らし、ほんの少し、力の行き先を狂わせる。鍔競り合う事も許されず、慌ててアンリが支点を戻そうとした時には遅く、振り上げられた足が脇を蹴り飛ばし、軽くその体をふっ飛ばす。


 同時に反回転し、背後を取ったカティアの長剣をかわし、逆に喉元に魔力を宿した手刀が突き付けられ、動きをそこで封じられた。


「終いだ」

「くっ……」

「あぁ、くそ! 全然底見えねーっ」


 蹴り飛ばされ、地面に転がったまま、アンリはごろりと大の字になって寝転がった。


「当然だ。我は最強の魔王なのだからな!」

「いや、それはもういいから」


 カティア同様、アンリも『世界』というもののスケールに初めは愕然としたものの、すぐに慣れた。レイヴァンセルグがどれだけ途方もない存在かを知っても、カティアの予想通り、アンリの態度に変わりはない。


 そしてやはり、レイヴァンセルグもそれを楽しんでいるようだった。


「なあ、セルグの使ってるその『司』ってやつ、俺達には使えないのか?」

「購う魔力さえあれば使える。しかし、今の貴様らでは司の魔力を呼び出した途端に喰われるであろうな」

「そうか……」


 本気で残念そうな様子で呟いて、アンリは後ろ髪をわしゃりと掻いた。強い力が今すぐにでも欲しいのは、カティアもアンリも同じ気持ちだ。


「イルスカウラは呼べるの?」

「カウラは、使えてせいぜい二割だな。それ以上は奴も喰われるだろう」

「そう……」


 二割でも、呼べるのだ。呼んだ途端に喰われると言われる自分達とは、雲泥の差がある。

 まだまだ存在している途方もない実力差に、カティアは沈んだ息をつく。


「貴方は、完全に使えるの?」

「当然だ! 我は最強の」

「それもういいから」

「聞け! 最後まで!」


 途中で投げやりに遮ったアンリへと吼えて、しかし言い直したりはしなかった。


「しっかし、魔王同士なのにすごい差だな。年の甲か?」

「違う。我が特別だからだ」


 何のてらいもなく、堂々と言ってのけたレイヴァンセルグに、カティアもアンリももう口にするべき言葉が何もなかった。


「では、我は戻る。貴様等も適当な頃合いで戻って来い」

「そうするわ」


 カティアの返事が終わるかどうかのうちに、レイヴァンセルグはさっさと姿を消してしまう。

 カティア達を素っ気なく扱う理由はもう判っているので気にしていないが、不思議ではあった。


「レイヴァンセルグって、そんなに敵が多いのかしら」


 カティアの見る限り、少なくともレイヴァンセルグが滞在している今の星は平和である。

 星、と言ってもカティア達の故郷よりも大分小さく、城と、その城下町しかないような星なのだが。


「そうだよなあ。何たって支配地域の住人すら、自分達を魔王が支配してるとかって知らない所まであるぐらいらしいし、実力と現状考えたら反乱とかも起こらなさそうだが……。魔族にはアリなのかなあ」

「そうね。気に食わなければ戦う事もあるわ。ま、勝てないのに戦うのなんて、馬鹿のする事だけど」

「うわっ!」


 ひょこ、と唐突に上から覗き込んで来た少女の顔に、ぎょっとしてアンリは眼を剥き、寝転がっていた姿勢から、慌てて飛び起きる。


「アリアンローシェ? どうしてここに」

「セルグの気配を探って来たのよ」

「レイヴァンセルグなら、城に戻ったはずだけど」


 行き先を教えたカティアを、アリアンローシェは大変な侮辱を受けた様に眉を吊り上げ、きっと強く睨みつけた。


「それぐらい分かるわ!」

「……そうね」


 カティアの事をアリアンローシェは良く思っていない。それも影響してだろう、大分気に障ったようだった。


 子供っぽい怒った表情を消してすぐに表情を繕うと、アリアンローシェはわざとらしく溜め息をついた。仕方ないわね、とでも言いたげな、上から目線の呆れ顔だ。


「セルグにも困ったものね。また弱点を増やして。本っ当馬鹿なんだから」

「弱点って程じゃないと思うけど」


 カティアもアンリも、自分達がレイヴァンセルグにそんな影響力を持っているとは思っていない。


「当り前でしょう!!」


 どうやらそれも気に食わなかったらしく、先ほど繕ったばかりの表情をあっという間に崩して、更に目を吊り上げアリアンローシェは怒鳴り付けた。


「セルグはそのために作られたんだもの。何があったって迷わないわ。でも、セルグだって心はあるの。情が移った相手を見殺しにするのは気分が良くないわ。だから、貴方達なんか大っ嫌い! 身の程をわきまえて、さっさと消えなさい!」

「――作られた?」


 アリアンローシェが言いたかったのは後半部分だけだろうが、それよりもカティアは違和感を覚える一語を拾ってしまった。


「どういう事?」


 訊ねたカティアに、隠す事でもないと思っているのか、アリアンローシェはさらりと答えをくれた。


「セルグが生まれる前は、この辺りは全然違う所から来た魔王に支配されていたわ」

「どっちにしても、魔王でしょ?」


 別に、どちらでも大して違いはないのでは――と言ったカティアに、アリアンローシェは小馬鹿にするように鼻で笑った。


「本気でそう思ってるの?」

「だって、そうでしょう?」

「馬っ鹿じゃないの。大違いよ。他所の魔王に世界が奪われるって事は、その星はただの労働力になるって事なのよ」

「――あ」

「カティア?」


 アリアンローシェの言葉を聞いて、ふとカティアは思い至った事があった。


「イルスカウラは、私達の世界の魔王だからって、レイヴァンセルグが言ってたわ」

「そうよ。私達魔王の最大の役目は、自分の星を、他所の侵略から守る事。だから、本当は支配者が魔族である必要はないのよ。ただ、一番強い種が、淘汰の最中で魔族と呼ばれる事になるケースが多いだけで」


 君が俺に勝てるならそれで良い――と、穏やかに言ったイルスカウラを思い出す。

 ただし、わざと負けるような事はしない。それでは勝者は、結局外来の敵と戦えないから。

 イルスカウラが言っていた言葉の意味と覚悟が、今、カティアにも伝わった。


「……」

「より強い種同士が交配して行く事で、生命は強くなっていくわ。レイヴァンセルグは、その最高傑作」

「そんな言い方」

「だって事実だもの。セルグの血と肉の半分以上は、全ての魔力の源である司のもの。司に接触して、種を貰うか孕ませるかして、子供を成すの。司の宿す魔力の親和性が高ければ、成功。でなければ失敗。それを繰り返して、全ての司と高い親和性を持たせて生まれてきたのが、セルグよ」


 何故レイヴァンセルグが他の魔王と比べても、高い魔力と司との親和性を持っているかの答えを、本人以外の口からさらりと与えられてしまった。


 特別だからだ、と言ったレイヴァンセルグが――果たして何を思って、その言葉を言ったのか。

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