3.光と影の融合
目覚めた場所は薄暗い部屋だった。慣れない空気に少し胸が詰まる。
まだ頭がぼうっとして、ただでさえ暗い部屋の中を確認することなどできない。ただわかるのは、自分が固い床の上に転がされているのではなく、味わったことのないほどの贅沢なベッドに寝かされているということくらいだ。
知らない場所のはずなのに、不思議と懐かしい匂いが鼻をくすぐる。早く起き上がってここから出なければと思う反面、心地よさにもう少し……なんて馬鹿げた考えが体の動きを鈍くする。
それでもむくりと起き上がったイオンの脳裏には、今日の昼に見た光景が浮かんだ。西の国の光の姫。その姿は人の領域を超えて白く、まさに光。人々を魅了してやまないその姿は自分とは無縁のものであるはずだった。でも、奇跡の一瞬、目があったあの瞬間にイオンにはわかったのだ。
「アーシュ………」
つぶやきは素早い動きによって流れた。薄暗い部屋の中にするりと入りこんできた影が迷いなくイオンの横たわるベッドめがけて飛びかかってきたのだ。その影は暗がりの中を器用に動くものの、軽やかさがなく、イオンが素早く退いたために空になったベッドの上にぶわりと着地する。
布の擦れる音などから、おそらく纏っている服が長いか大きいかであってそのものの体自体は普通の人間なのかもしれないが、暗がりで確認できないイオンには得体の知れない恐怖でしかない。魔物か何かが襲ってきたと勘違いしたために体が素早く動いたのであれば、もうそれでもいい。とにかく逃げなくては。イオンは必至の形相で駆け出そうとした。
しかし今さっき目覚めたばかりの足が思ったように動いてくれるはずもなく、イオンは気持ちが急いているせいで余計に足がもつれ無様に転んだ。そこにすかさず影が飛びかかってくる。イオンはせもてもの抵抗と、覆いかぶさってくる影を押さえにかかった。相手の姿はつかめなくても、どこかしらにしっかりと手がかけられれば自分が上になるように相手を返せるかもしれない。
誰かに武術を教わったわけでも、独学で柔術を会得したわけでもないが、昔から体力と器用さにかけては自信があった。だから今回もなんとかなる。そう踏んだイオンだったが、その考えはあっという間もなく粉砕された。影はつかもうとするイオンの手をするりと避けてのしかかり、的確としか言いようのない動きでイオンの腕をとり片手で喉を息のできるギリギリまで絞めた。
もちろん声は出せない。非常にまずい状態にもかかわらず、イオンは上にのっている影が意外に軽いことに冷静に驚き、次にその影から発せられた声を聞いて絞められる前に息が止まりそうになった。
「……フレイド…」
一気に全身の力が抜けるのがわかった。唇が微かに震え、指の先は自分のものでなくなってしまったかのごとくぴくりとも動かない。その名で自分を呼ぶのは世界に二人しかいない。母親と、双子の妹。そのどちらなのかは声を聞けばわかる。いや、声なんて聞かなくても、ゆっくりと触れ合えばそれだけでわかるのだ。
影の方もイオンが逃げないとわかったのだろう。すっと力を緩めて手を放す。手を放しても体は退けず、しばらく奇妙な体勢で向かい合う。
「アーシュ……なの?」
体を起こしながらとりあえずの疑問形で聞く。本当は聞くまでもなくわかっていること。今息がかかるほど近くにいるその人は、間違いなくあの日引き離された自分の片割れだ。
「アーシュ、どうしてここにいるの?なんで?なんで………」
「ごめんね。こんな方法でしか会えなくて……」
「こんな方法って……アーシュ!君が……」
その時偶然にも雲が切れ、巨大な月が部屋の中を照らした。薄青く窓の形に切り取られた明るい空間がイオンの視界をクリアにする。そこで再び息を呑んだ。目の前に座り込む人物はやはり自分とうり二つで、間違いなくずっと一緒だった兄妹で、瞬きを忘れそうになるくらい美しく輝く、光の姫だった。
「やっぱりあれはアーシュだったんだね。僕は屋根の上から見てたんだ、君が通り過ぎていくのを」
「知ってるわ。あのとき目があった。すぐにフレイドだってわかった……」
アーシュは泣きそうな表情に見えた。静かに腕を伸ばすとイオンの頬に当てる。
「ずっと探してたの。絶対に生きてるって、だから私がこの手で見つけるって……。ごめんね、荒っぽいことして。でも、こういうやり方しかなかったの」
「こんな拉致みたいなやり方じゃなくても、なんかあったと思うけど……」
「フレイドって相変わらずね。……そんなに単純なことじゃないのよ」
ふいと視線を外したアーシュを見て、イオンは突然置いて行かれたような気持ちがした。何かが変わってしまったのだと感覚的に頭が理解する。体も大きくなり、生きるために様々なことを学び、あの頃より格段にたくましくなっているのは間違いないが、アーシュはイオンとはまったく別の何かを、ここにくるまでに体の中に取り込んでいる。それは今のイオンには想像もできないもので、自覚のあるアーシュだけがふいと目を逸らすのも仕方のないことだった。
「可哀想なフレイド。こんなに影が進行して」
アーシュの指はイオンの頬に浮き出た模様をなぞっていた。服の下にはもっとたくさんの黒い模様が体中を這っている。どんなことをしても消えず、時とともに増え続ける模様はやがて忌子の証となり、イオンの生活に影を落とした。それでもこうして生きてこれたのは幸いだったと思う見方もあるが、客観的に見ればやはり可哀想な人生だったかもしれない。
「なにが原因かわからないんだけど、どんどん広がっていって…。やっぱり気持ち悪いよね」
「べつに平気よ。私がすぐに消してあげるわ」
「え?消すって……アーシュが?」
「簡単なことよ。他の人にはできなくても私にはできるの。フレイドがどんなに頑張ってもダメなの。私がいなくちゃできないのよ」
アーシュはもともと近かった距離をぐっとさらに近づけた。目が慣れたせいもあるし、光の姫の持つ独特の白い輝きが闇を打ち消すせいもある。月が再び雲に隠れても、イオンにはもうはっきりとアーシュの姿が見えていた。
「私たちは離れちゃいけないの。ずっと一緒にいなくちゃいけないのよ」
「僕もアーシュとは一緒にいたかったよ。でも、いなくちゃいけないなんて……」
「何も知らないフレイド。これから全部教えてあげる。私が光であなたが影であるという事実を。光と影はそれだけでは存在できないという真実を。そして私たちが歩まされる残酷に歪んだ現実を。ねぇ、フレイド。私と一緒に歩んでくれる?」
「アーシュ……どうしたの?せっかく会えたのに、どうしてそんな泣きそうな顔してるの?嬉し泣きならいいけど、そんな風には見えないよ……」
「嬉しいよ。だって、ずっと探してたんだもの……」
体を預けるようにしてさらに距離を縮めるアーシュに対し、イオンは無意識に後ずさろうとしていた。しかし足の上にアーシュが乗っているような状態でできるわけもなく、心持首を引く程度になる。
「一人じゃダメなの。フレイドがいてくれないと、私………」
「待って、アーシュ。ごめん、よくわからないよ」
「そのうち嫌でもわかるわ。私たちが一人ではダメだってこと」
「説明してよ。訳が分からないままじゃ……アーシュ。待っ………」
言葉を無視してアーシュの唇はイオンに重なる。家族の間で交わされるような軽いものではない。しっかりと存在を確かめるように深く口づける。
イオンは気が動転して何が起こっているのか途中で考えるのを放棄した。アーシュから離れるそのときを静かに待つ。
やがて離れたアーシュは呆然とするイオンをそのままにして一人ベッド脇のテーブルに近づいた。そこに用意されていたキャンドルに火を灯す。
「ア……アーシュ……?」
月明かりとはまた違った明るさが部屋の中で揺れる。
「なんで……その、急にこんな……」
揺れる炎に影をつくって、アーシュは薄く笑う。その表情はイオンが知っているどの表情とも違って初めて見るものだった。
「もしかして、初めてだった?」
「はっ?べっ、べつにキスくらい……って、そういうことじゃなくて」
「こっちに来て。鏡で見ればすぐにわかるわ」
話を聞いてくれる様子はない。仕方がないのでイオンは言われたままにアーシュの隣に並ぶ。そこで鏡に映った自分の顔を見て言葉を失った。
あれだけいろいろなことを試しても消えなかった模様がきれいさっぱり消えている。イオンは信じられないといった様子で頬をこする。はっと思いついて急いで服の袖をまくってみると、そこにあるはずの無数の模様は跡形もなく消え去っていた。
「全部確かめたければここで脱いでもいいわよ」
「脱いでまで確かめなくても十分だよ」
再び近くなった距離でアーシュを見たイオンはさきほどとは違う姿に見えるアーシュに首を傾げる。服も姿形もなんら変わりないのに、どうしてそう感じるのか。
「もっと明るかったら分かりやすいのにね。明日の朝にはびっくりすると思うわよ」
その視線を感じ取ったアーシュが意味深なことを言った。
「アーシュ……。いったい何をしたの?」
「べつに、キスしただけよ。それによって私の光とフレイドの影は融合し、お互いの存在を明らかにすることで正常な状態に戻ったってだけ」
「……わかるように言って」
「いいけど、一晩で足りるかしら。ねぇ、ディック」
アーシュの呼びかけによって初めてそこに人の気配を感じたイオンは、はっとしてそちらを見る。いつからそこにいたのだろう、キャンドルの明かりが届くギリギリのところにすらりとした背の高い男性が立っていた。
「セドリック。私の専属執事よ」
「あ……あぁ。初めまして」
いきなり紹介されて戸惑ったイオンは、とりあえず頭を下げてみる。
「こちらこそ。それにしても、本当によく似てらっしゃいますね」
「当然よ。そうでなくちゃ困るもの」
アーシュがふふっといたずらに笑う。訳がわからないままのイオンは二人を交互に見て怪訝な顔だ。
「少しずつ、嫌でも知っていくことにはなると思うけど、必要なことは教えてあげなきゃいけないわね。私からは何を話しましょうか」
「待って。その前に、すごく単純なことなんだけど、アーシュはその……お姫様なの?」
「……そうよ。私は王族の人間だったの。その考えでいくとフレイドは王子様になるわね。でも、現実は違う」
「違う?アーシュは王族で僕は違うっていうなら、僕らの血は……」
「それはないわよ。いくらなんでもこんなにそっくりな他人がいるわけないじゃない。私たちは正真正銘の双子。だからフレイドにも王族の血が流れてる。でもね、その肝心のフレイドはもういないことになってるの。フレイドは、死んだことになっているのよ」
「僕が……死んだ……」
衝撃は少なかった。アーシュの言うことは十分にあり得ることだった。あの日、川に突き落とされた日、フレイドは死んでいてもおかしくなかった。それでも生き延びたことこそ奇跡といっていい。
「私は生きてるって信じてた。だからずっと探して……そして見つけた。でも、フレイドが生きていることは決して国に知られてはいけない」
「どうして?」
「私たちは光と影の子なの。王族の血筋に双子が生まれることは珍しいことじゃないけれど、その双子がまれに光と影を宿して生まれることがある。私たちはまさにそれ。光と影はそれ単体では存在することができず、引き離されることで力の安定性を失う。光の子は己の身に降りかかる厄〈わざわい〉を糧に取り巻く世界に幸福を導くとされ、影の子は取り巻く世界に厄をもたらすことで己の身を守るとされる。ようするに、光の子は国を豊かにするけど、影の子は国を不幸にするといわれているの。だから王族に光と影の子が生まれたときは二人が決して離れないように塔に閉じ込めてしまう」
「塔って、まさか……」
「そうよ。私たちが丘の上から見ていた、あの高い高い塔。その天辺に二人閉じ込められて一生表には出られない」
「そんな……聞いたことないよ、そんな話」
「みんな知らないわ。王族の人間しか知らない真実なんだから」
「どうしてアーシュは大丈夫なの?表に出してもらってるんだよね?」
「私は光の子だから。光と影が存在する場合、力の安定を優先して二人を閉じ込めてしまう。でも、もし片方だけが存在する場合、光の子はその身が消えてなくなるまで国のために光を与え続ける。そして影の子は、国に不幸をもたらさぬよう、国の力で消滅させられる」
「消……滅…」
「殺される、ということです」
アーシュの代わりにセドリックが答えた。あまりに抑揚のない声に実感がわかない。
「僕は、殺されるの?」
「いいえ。でも、もし生きていることが知られれば、私たちは閉じ込められてしまう。あの塔の上に」
アーシュは窓の外に視線を投げたが、ここからでは西の国の塔は見えない。イオンはアーシュの視界をふさぐように前に立った。
「アーシュ。どうしてそれを知っていながら僕を探していたの?僕を見つけてどうするつもりだったの?」
「アシュリア様はあなたを助けるために探していたのです」
横から口を挟んだセドリックを、アーシュはぎろりとにらんだ。イオンは内心ぎくっとなる。いつからこんな顔をするようになったのだろう。自分の知らないアーシュは少し恐い。
「違うわ。私は自分を助けるためにフレイドを探してたのよ。もしフレイドが見つからなければ、私はもうすぐ消えてなくなるところだった。ただそれがフレイドにも当てはまるってだけの話よ」
「どういうこと?」
「私たちはね、それぞれの持つ光と影にその身をむしばまれて、やがて消えてなくなる運命なの。光には影が、影には光が必要で、お互いがその存在を証明し合わなければ生きていけない。私の体、人間とは思えないほど白く光って見えてたでしょう?あれは私の体が光に浸食されていた証。フレイドの体を黒い模様が覆い初めてたのは影が浸食していた証なのよ。あのまま放っておけば、やがて全身が侵されて存在自体が消滅してしまう。この世から、跡形もなく消えてしまうのよ」
信じがたい話ではあったが、アーシュが嘘を言っているようには思えない。
「僕は、これからどうしたらいいの?」
アーシュから離れては生きられず、かといって存在を明かすこともできない。こんな自分が国で普通に生活できるとは考えられない。
「フレイドには進むべき道がもう決まってるのよ。私の言うとおりに、それしか術はない」
「アーシュの言うとおりに……。どうすればいいの?」
その言葉を聞いて満足げに笑顔を見せたアーシュはイオンに再び顔を寄せるとじっと目を見た。
「あなたは私を守る騎士〈ナイト〉になるのよ。私が死ねばフレイドもやがては消えてしまう。だからあなたは自分が生きるために私を守るの。私たちはいつだって死と隣り合わせ。誰かに殺されるくらいなら、私を守って死んでいって」
イオンはうなずくこともできず、ただ目を見開いて聞いていた。自分の知らないアーシュがここにいる。お願いだから本当の気持ちを言って。そう言いたかったが、声にはならなかった。
こんなに近くにいるのに、まるではるか遠くにいるかのように手が届かない。あの川に落とされた運命の日、死ぬはずだった自分は生き、代わりにアーシュの何かが死んでしまったのではないだろうか。
「国に帰ったら準備を始めるわ。まずはこの町から国に帰るまで私をしっかり守ってちょうだい。これからのことはディックに聞いたらいいわ」
突然話をふられた執事のセドリックだったが、まったく動じる様子もなくちらりとイオンを見ただけだった。アーシュも何を考えているのかよくわからないが、このセドリックという男はもっとわからない。内心を汲み取ろうにも要素がなさすぎる。イオンが出会ってきた人たちの中にはないタイプの人間だ。
「あ、あの……」
「アシュリア様はもうお休みください。私たちは隣の部屋で待機しておりますので」
「そうして。今日は達成感でいっぱいだから気持ちよく寝られそうだわ」
言うが早いかアーシュはベッドにもぐり込んだ。目覚めたときにいい匂いがすると感じたのはアーシュの部屋だったからかと、イオンは今更ながら思った。
隣の部屋に移ったとたん、イオンはセドリックに食い入るように見つめられた。
「なっ、な、なんですか?」
「本当によく似ている。影に覆われていたときはさほど感じなかったが、ここまでとは。しかしこの年になって男らしさを感じさせないというのは、なんとも……」
意外と失礼な人だなと思う。見た目に関しての反論はしない、というかできないが、女々しさはないはずだ。
「僕は男です」
「気に障りましたか。ですが」
ふいにセドリックはイオンの腕をつかんだ。
「この細腕ではアシュリア様を守るのは無理です。これからもっと鍛えていただく必要がありますね」
すっぱりと切り捨てられて不本意ながら肩を落とす。イオンだって与えられていた仕事の関係上、力がないとは思っていない。しかし、さっきのひと場面をとっても、アーシュに簡単に上をとられセドリックの気配にも気付けなかった。自分の知らない世界にはすごい人物がたくさんいる。これからそんな世界の中でアーシュを守れというには、今のイオンでは役不足に他ならない。
「そんなに心配なさらなくても、あなたは強くなります。ただ、私の指導に泣いて逃げ出さらなければ、の話ですが」
表情ひとつ変えないのがむしろイオンの不安を煽る。この執事はいったい自分に何をするつもりなのか。
「そういえば、名前はどうしましょうか。フレイド、というのは少々都合が悪いので」
「……イオン」
「イオン?」
「それが今の僕の名前です。この世で僕をフレイドと呼ぶのは、アーシュと……母しかいません」
「あなたには親以外に名付け親がいるようですね。まぁ、特に興味はないのでお話いただかなくて結構ですが。イオンですか……。今のあなたには似合いの名前かもしれませんね」
イオンが自分を拾ってくれた人の元飼い犬の名前だと知っているはずはないのだが、セドリックにお前は犬だと言われているようで勝手に嫌な気分になる。この男、さっきから言葉の端々に微妙な棘を感じる。ひねくれてるなぁ、と上から目線で思うが、こうでもなければアーシュの相手はつとまらないということをイオンはまだ知らない。
「あぁ、それと、あなたの母上はもういませんよ」
「え?」
「数年前に亡くなりました」
重さというものを欠片も乗せない声でセドリックはあっさり言った。なぜだかアーシュも同じ調子でそう言うような気がして、イオンは心に風が吹いたように寒さを覚えた。イオンでさえ自分を突き落とした母親が死んだことを知って、心の奥では寂しさを感じているというのに。
「気が向いたらアシュリア様の口から話を聞けるかもしれませんが、あまり追及されない方がいいかと。アシュリア様はマリーナ様のことはあまり話したがらないので」
「セドリックさんは母のことを知っているんですか?」
「えぇ。私はマリーナ様からアシュリア様のことを任された身ですから。ですが、マリーナ様のことはあまり知りません。お二人がお城に来られてから、私はずっとアシュリア様の傍にいましたから。ですからあなたに伝えられることは、マリーナ様はもういないという事実だけです」
嘘だと思った。でもこの男は発言を簡単にひるがえしたりしないだろう。誰のために知らないと言うのか。おそらくはアーシュのためだろうと思うが、知らないと言った以上この先詳しい事情は絶対に口にしてくれないはずだ。
「セドリックさん、僕はあの町を出て本当に西の国に行くんでしょうか」
ここがどこかは確認できていないが、西の国へ帰る途中のどこかの町だろう。イオンを夜のうちに運んだことを考えると、そう離れていなそうだが、イオンが世話になっていた町でないことはわかっていた。もしかしたらイオンを連れてくるために、アーシュがあえて近い町に早々に宿を確保していたのかもしれない。
「どうしました。あの町に未練でもおありですか?」
そう言われると、下人としてひどい生活を強いられていたあの町にいたい理由なんて、語れるほどには思いつかない。もし気になることがあるとすれば、共に過ごしていた子供たちのことだ。しかし、たとえあのまま過ごしていたとしてもいずれ別れが来ることはわかっていたのだから、こうして離れたことくらいで気持ちがそれほど揺らぐとは思えない。ただ自分は戸惑っているだけなのか。それともこれから訪れる新たな生活に不安を感じているからなのか。
「僕は西の国でいったい何ができるんでしょう」
「アシュリア様がさっきおっしゃったとおりです。あなたはアシュリア様を守るのです」
「守るって、何から?」
「アシュリア様はいつも危険な環境に置かれています。王族というだけで命を狙われることもあります。しかし、アシュリア様の場合は特に危ない。先ほどの話でも出ましたが、光の子は己の身を厄にさらしてとりまく世界を光に導くのです。まぁ、これからは少しましになるでしょう。影の子であるあなたが傍にいることで力の安定性は増し、厄も減ると思われますので」
「アーシュは今まで危ない目にあってきたってことですか?」
「移動の際の過剰な護衛を見てもわかるとは思いますが、いつ命を奪われてもおかしくない生活を送っています。本当はお城から出ることも控えた方がいいのでしょうが、アシュリア様は国のために自らの身を危険にさらしてでも成すことがあるとお考えです。そして今のお城ではその考えを押しとどめてでもアシュリア様を囲い守ろうという流れはありません。こうして護衛はたくさんつけていただくものの、国はアシュリア様を供物として捧げ、光を得る道を選んでいるのです」
「そんな………」
「だからあなたが守らなければならないのです。たくさんの者がアシュリア様を守ろうとしていますが、アシュリア様は誰よりもあなたを望んでいるのですから」
アーシュが僕を………
イオンは自分の両手を見つめた。この手でいったいどこまでできるのだろうか。
次の日セドリックと共にアーシュの部屋を訪れたイオンは、昨日とは違うアーシュの姿に驚いてしばらく声が出なかった。
「どうしたの?ひどい顔してるわよ」
驚きのあまり口を半開きで止まっているイオンの顔は間抜け面であった。あわてて口を閉じると恐る恐るアーシュに近づく。
「髪も目も、綺麗な金色だ……」
「フレイドの影が消えたのと同じで私からは光が消えたからよ。白光してきていた目も、透けて白っぽくなってきていた金髪も、肌の色だって元通り。昨日明るければもっと分かりやすいって言ったでしょ。そうだ、フレイドももう一度鏡を見てみたらわかるわ」
引っ張られるようにして鏡の前まで連れていかれたイオンは、自分の姿を改めて見てまた驚きに口を開いた。
「……そっくりだ………」
イオンの姿は体中から黒い模様が消えているばかりでなく、灰色がかっていた髪は輝く金色に、オレンジとブラウンの間のような曖昧な色だった瞳も透き通るような金色に変わっていた。
「これがフレイドの本来の姿なのよ」
隣にぴったりとくっついて鏡をのぞくアーシュと見比べても、本当によく似ている。
「ここまで似るものかな」
「特別なのよ。だってめったに生まれることのない存在なんだから」
ふふんと楽しげに鼻を鳴らして、アーシュはイオンから離れた。
「でも、そんなに急に変わっちゃったら、みんな不思議に思うんじゃないのかな?」
「そうね。普通は気付くわね」
「呑気に言ってていいの?僕の存在がバレちゃうかもしれないよ?」
「それはないわ」
アーシュは言い切った。考える間もない即答だった。
「なんでさ。僕らが元の姿に戻ったのはお互いの存在があったからなんだろう?だったらアーシュの姿が変わったのは影の子の影響があったからだってことになるじゃないか」
「フレイド、見ない間に賢くなったのね」
「元からこれくらいわかる程度には賢かったよ」
本気で感心した様子のアーシュにイオンは少しむくれる。ほんの少し子供の頃に戻った気がした。
「でも、それに関してはそんなに心配いらないと思うわ。だって光と影の子がお互いの存在の融合によって正常な状態に戻るなんて、きっと誰も知らないもの」
「え?」
「私の姿が変わったのも、なんでかわからない不思議な現象ってことで片付けられるんじゃないかしら。もともと不思議な存在だし、何が起こってもおかしくないしね」
ふぅん…となんとなくわかった感じの返事をしそうになってはっと気づく。もしかしたらアーシュの言うとおり、本当に賢くなったのかもしれない。
「誰も知らないことを、どうしてアーシュは知ってるの?」
「…………」
アーシュはぴたりと動きを止めて不思議なものでも見るような顔を向けてきたかと思うと、ほんの一瞬だけ悲しげな目をして、すぐに意味ありげな笑みを口元だけに乗せて言った。
「それは秘密」
「なんで」
「もう時間がないわね。道中の指示はディックから聞いてわかってるわね。くれぐれも派手な事を起こさないようにね」
「アーシュ」
「それと、私のことは姫様かアシュリア様って呼ぶこと。私たちは双子であなたは王子の資格を持つ存在だけど、現実問題あなたはこの世にいないことになってるの。だから今フレイドと私の関係は姫とその従者でしかない。それがアーシュなんて気安く呼んだら大変なことになるのはわかるわよね」
「わかるけど……さっきの話……」
「ところで、あなたのことはなんて呼んだらいいかしら」
そこでセドリックが答えた。
「イオンと」
「イオン?」
アーシュは噛みしめて呑みこむようにもう一度小さく繰り返す。
「僕を最初に助けてくれた人がつけてくれた名前なんだ。目が覚めてしばらくは記憶がなくて、自分の名前も覚えてなかったから……」
「そう……。いい名前じゃない」
アーシュは思い出したくないことを思い出したかのように、ふいと視線を逸らした。
どこまで知っているのだろう。いったいなんと聞いているのだろう。あの日起こったことは自分でもよくわからない。アーシュは何が起こったと思っているのだろう。いつか話さなければ。イオンは思った。
町がすっかり明るくなったころ、アーシュを乗せた馬車の一行は西の国への道を歩き出した。
イオンは顔が隠れるような深いフードを被って、荷物をひとつ背負った状態で馬車の左後方について歩いた。皆から姿を隠すには馬車の中が一番だが、どこの者とも知れぬ者を一国の姫と同じ空間に入れるわけにはいかない。それこそ怪しさ満載だ。
とにかく地味に歩けと言われているが、意識して地味に歩くのは非常に難しい。今までいなかった人物が加わっているのだから、周りだって気付いている。ただアーシュが連れてきたということで何も言わないだけだ。そのうっすらと感じる視線を浴びながら、イオンはうつむき気味でひたすら歩くしかなかった。
(どうか、どうか誰も話しかけないで)
声をかけられても無難な返事しかしてはいけないと言われている。しかしイオンにはいまいち自信がなかった。もともとの気質だろうが、周りを寄せ付けないような雰囲気を醸し出すこともできなかったし、寄ってきた相手を冷たくあしらうことも苦手だった。だからこうして、ひたすら願っているのである。
そんな中、遠慮する様子もなく馬車のすぐ横に来てアーシュに声をかける人物がいた。
「姫様」
アーシュは気付いて馬車の小窓を開ける。
「なに?リンクス」
「あれ、何者ですか?」
リンクスと呼ばれた男は、これまた無遠慮にイオンの方を指差す。かなり興味深々な様子だ。
「西の国に行くっていうから一緒に連れてきたの。ただの荷物持ちよ」
「へぇ。そういう扱いにしておけばいいってことですね」
「……リンクス。わかってるなら聞かないでよ」
「お城に帰ったら紹介してくださいね」
「しばらくは無理よ」
そっけなく言われてリンクスは追及を諦めた。訳あり。それだけは確かなようだ。
また何を考えているんだか……。リンクスはセドリックとはまた違う立場でアーシュの傍に控えてきた一人だ。今までのアーシュの行動に驚かされ、巻き込まれてきた者として、突然現れた知らぬ人物がただの荷物持ちだなんて思えるわけがない。
「言っとくけど、変なちょっかいかけたりしないでね」
「そいつは難しい注文だ」
「リンクス。本気で許さないわよ」
「姫様、それは逆効果ですよ。そこまで言われて興味を持つなという方が無理ってものです」
アーシュはぐっと言葉に詰まって、恨みがましくリンクスを睨んだ。
「仲良くは、してあげてほしいの……。きっと、独りだろうから………。けど、探るようなまねしたら、いくらリンクスでも見逃さないわ」
「言われずとも、そのつもりでしたよ」
リンクスはふわっとやわらかい笑みを浮かべて馬車の横から離れた。グレーの髪が光に透けて輝きながら、小さな小窓分の視界から消える。
ああは言ったものの、アーシュは少し不安にかられた。リンクスは面倒見もよいし、他人をむやみに傷つけるようなことはしない。執拗に相手の懐に探りを入れて触れてほしくない部分にまで踏み込んだりしないだろう。しかし、彼には約束というものが通用しない。きちんとした方法で交わされる契約などは別だが、口約束などはあってないに等しい。守るのも破るのも、そのときの状況で決められてしまうのだ。そのことをよく知ったうえで、アーシュはリンクスをずっと近衛の騎士、白の騎士として傍に置いてきた。彼は次々と消えてゆく白の騎士の中でただ一人変わらず残っている人物で、そのやわらかい表情とは裏腹に、非常に強く、ある意味恐ろしい。
「そんなに心配でしたら私が見ていましょうか」
「……いいわよ。いずれは関わる相手なんだし」
言葉とは裏腹に表情は相変わらず晴れない。そわそわしているのも丸わかりだ。リンクスを信用していないわけでも、イオンを頼りなく思っているわけでもなく、離れていた時間がそうさせてしまうのだろう。
セドリックは小さく息を吐いた。
「なによ」
「可愛らしいなと思いまして」
「バカにしてるのっ?」
「可愛らしいという言葉のどこにバカにする要素があるのです。ひねくれすぎですよ、姫様」
アーシュはぐっと黙ったが、バカにされているという思いは変わらなかった。やっと会えたのにこれが普通でいられるもんですかっ。心の中だけで叫ぶ。
そんな思いを知る由もなく、イオンはただひたすら足元に視線を落として歩き続けた。
西の国まで半分ほどきたところで、一行は馬を休ませるために川のほとりに寄った。
一息つける反面非常に困ったのはイオンだ。休むと決まった途端におろおろし、一行がそれぞれ休憩に入る隙にそそくさと人目につかないような木の陰に隠れる。その辺に黙って座ってでもいたら絶対に話しかけられてしまう。
ここで頼れるのはアーシュとセドリックだけだ。しかし二人の傍にいることほど不自然なことはない。イオンなりに頭を使った結果だった。
だが、この男にはそんな健気な努力は無意味だったようだ。
「やぁ、少年」
「うわっ」
ほっとしたのもつかの間。イオンは誰かに肩を叩かれて飛び上がらんばかりの声を出した。
「そんなに驚かなくても」
「あっ……あの………、すいません……」
イオンは声をかけてきた相手を見ることもなく、フードをぐっと引っ張って顔を隠すと小さくなった。関わらないでほしいという精一杯の表現だったつもりだが、相手は去ってくれる様子もない。
「そんなに邪険にしないでほしいな。俺はただ、君と仲良くしたいだけなんだけど」
(それが一番困るんだってばっ)
心の中で絶叫しつつイオンはさらに固くなる。この状況をどう振り切ればいいのかわからない。
(ど、ど、どうしよう。無難にってどうやればいいんだよ。アーシュ、僕には無理だよ)
固く手を握り合わせて妙な汗をかくイオンを見た相手は、我慢できないとでもいうように急に笑いだした。いかにもおかしそうに笑うので、最初こそぎょっとしたイオンだったがなんだか腹が立ってきた。
「なっ、なにがおかしいんですか」
「いや、うん。ごめん、ごめん。君があんまり必死になっているから、かわいいなぁと思って」
(かわいいって、僕は男だ)
セドリックに男らしさがないと言われたことが重なり、イオンは思った以上にショックを受けた。男としての自信が崩れ去りそうになる。
思わず声をあげてしまったついでに相手の姿をちらりと見る。自分よりもずっと背が高い。白を基調とした服は金と黒の縁が際立っていて、気品がありかっこよかった。腰に下げている剣には柄の部分に真っ赤なルビーがはめ込まれていて、光にきらきらと輝いている。あぁ、こういう人を騎士というのだろうなと、イオンはなんとなく思った。
「ずいぶん警戒しているね。あぁ、無理もないか。名乗ってもこない相手を前にして警戒するのは当然だ。俺の名前はリ……」
名乗ろうとしたところに血相を変えた姫様が現れた。
「リンクスっ!あなた、人の話を聞いてたのっ?」
「おっと。名乗る前に名前がわかっちゃったね」
ははは、と呑気に笑うリンクスと、厳しい目で睨みつけるアーシュとのあまりの温度差にイオンは呆然とする。そして、この人はいったい何者だろうと思った。アーシュ相手に対等ともみれる態度だ。アーシュがお姫様だとすると、この人も偉い人なのだろうか。
「ちょっかいかけないでって、言ったはずよ」
「仲良くして、とも言ってましたよ」
「今はダメなの!」
「もう、わがままだなぁ。それより姫様。姫様がここにいると、ものすごく注目が集まりますけど」
はっとして振り返ると、今まで明らかに興味の視線を向けていたであろう一行が一斉に視線を逸らすのがわかった。
「そんなに隠しておきたいんだったら、荷物箱の中にでも詰め込んで連れていけばよかったんじゃないですか?」
「イオンは物じゃないわ」
「へぇ、イオンっていうんですか」
しまったという顔をしたアーシュだったが、時すでに遅し。リンクス相手にぼろぼろと秘密を溢してしまっている。自業自得だが、忌々しいことこの上ない。
眉間に皺をよせて、渋い顔をしつつアーシュがその場を離れようとしたときだった。
イオンには風が巻き起こったとしか感じられなかった。瞬きをした次の瞬間には目の前にリンクスの姿はなく、あるのは揺れる草だけだった。彼は移動すると同時に剣を抜き、アーシュの前に立っていた。足元には二つに割れた矢が転がっている。
憩いの場が騒然となった。皆それぞれに武器を構え、一気に緊張が走る。
「アシュリア様」
その中にあって冷静に呼ぶのはセドリックだった。その手には大きな弓が握られており、アーシュの姿を確認すると躊躇〈ためら〉うことなく投げてよこした。矢と共に受け取ったアーシュは素早く構える。
「なめんじゃないわよ」
低く呟いて、アーシュは目一杯弓を引くとリンクスの後ろから矢を放った。狙いを定める時間などなかったのではないかというほど早い動きだった。
矢ははるか遠い木の枝にむかって勢いよく飛び消えた。
「どう?」
「右腕に当たったようです。致命傷ではありませんが、あれでは矢は放てないでしょう」
傍に寄ってきたセドリックが答える。
「相変わらずいい目をしてるわね」
「俺には的もよく見えてないのに当てる姫様の方がよっぽどすごいと思いますけどね」
そう言うリンクスは飛んでくる矢を真っ二つに切り落とした人物だ。
イオンは一人顔を真っ青にして固まっていた。命が狙われるということを目の当たりにした恐怖ももちろんあったが、それよりも衝撃だったのは目の前にいる者たちの尋常ではない動きだった。アーシュを守る立場にいるであろうリンクスとセドリックはまだわかるとしても、相手に矢を放ったのは守られる立場のはずのアーシュ本人だ。
「ア……アーシュ」
思わず声を漏らしたイオンにごほんっ、とすかさず咳払いがかぶさる。セドリックのナイスフォローを受けて、アーシュも渋い顔をイオンに向けている。
「あっ、アシュリア様」
慌てて言い直したイオンだが、相変わらず顔が青白い。気持ちの悪い速さで脈打つ心臓は、なかなか落ち着いてくれないようだ。
「びっくりさせちゃったわね」
気遣わしげに言ってくるアーシュに、イオンは言葉もなく俯く。びっくりってなんだ。命を狙われてびっくりするのは僕じゃなくて君だろ。ただ心の中だけでつぶやく。
「大丈夫よ、イオン」
「………はい…」
たくさんの言葉が泡のように沸いてきたが、すべて口から出ることもなく消えていく。アーシュは変わった。自分の想像していたどの姿とも違うかたちで変わってしまった。嘆くべきなのか、喜ぶべきなのか、イオンにはわからない。ただはっきりとわかるのは、今のアーシュはイオンがいくら手を伸ばしても触れることすらかなわないような遠くにいるということだった。
「姫様、もう出発しましょう。どうやら狙ってきた奴は一人のようですが、この緊張感で休憩もなにもなくなってしまいましたから」
「そうね」
リンクスの言葉にアーシュは頷くと、馬車の方に向かって歩き出した。すぐ後ろをリンクスが続く。
唇を噛みしめたまま立ち尽くしていたイオンがふと顔を上げると、一緒に行ったと思っていたセドリックが静かな眼差しでこちらを見ていた。何を思っているのか読み取れない無機質な表情だった。
「なにもできなかった僕を、情けないと思っているんですか?」
「べつに。それはあなた自身が思っていることでしょう」
ずばりと言い当てられてぐっと詰まる。
「アシュリア様が弓をひかれたことがそんなに不思議ですか」
「不思議ってわけじゃ……」
「あの方は確かに多くの者に守られていますが、ああしてご自分で身を守らなければならない場面を何度も経験してこられました。不甲斐ない話ですが、私や白の騎士たちだけでは守りきれないほど、光の子に降りかかる厄は強い。アシュリア様が今まで無事でこられたのは、あの方自身が人並以上の苦労をしてきた結果なのです」
「僕に……彼女を守るだけの力があるでしょうか……」
思わず漏れた弱音に、セドリックは優しい言葉をかけることもなく、あっさりと切り捨てた。
「それを聞かれて、なんと答えろというのです。守れなければ姫様が死ぬ。ただそれだけです」
なんと冷たいことを言うのかと、イオンはむっとした顔で見上げたが、セドリックは応じる様子もなくさっさと背を向けて歩き出した。振り返ることもなく冷たい声で「置いていきますよ」と言われ、イオンは納得いかない表情のまま後ろに続いた。