双子雪の降る日
空から、贈り物と呼ばれる白いものが嫌になるくらい降ってきている。やがて積もって、世界を隠してしまうのだろう。
世間は冬休み。クリスマスイブだ何だと騒がしくはあったが、学生は特に何をするわけでもなくただお年玉を待つばかりだ。
望は、軽く溜め息をついた。自分でも聞き流してしまうほど小さな溜め息を、同じ顔の愛が聞きとがめる。
「……どうして、溜め息をつくの?」
「……いや……」
望は、自分と同じ顔のはずなのに何故だか可愛らしい愛を一瞥して短く返事をした。
ただ退屈したから、という簡単な理由ならば話すのだけれど、彼女には絶対に話すわけにはいかない。
――愛、お前はもう死んでいるんだ。
なんて言った所で、双子である姉も信じてくれるかどうか。
たとえ双子でも、無理だろう。自分が死んでいるなんて言われてああそうですかと信じるほうが不思議だ。
愛は、事故にあった。
一緒に歩いていて、赤信号に気がつかず渡った愛が、死んだ。望は助けようと走ったのだけれど、間に合わなかった。ただそれだけのこと。それだけのことで、愛は死んだ。
両親と同じように死んでしまった愛の事を思うと、心が痛くてたまらない。同時に一人になってしまったという孤独感が、自分を襲う。
「――なぁ」
「なに?」
相変わらず窓の外を眺めている望の背中を呆れたように見ながら、愛は返事をする。澄んだ声は望の耳に、確かに届くのに。
「……俺達、いつまで一緒にいられるんだろうな」
「……望。望にとって、何が一番いいことなの?私といること?だったら、それは……とても悲しいことだと思う。だって、望には沢山大切なものがあって、沢山夢がある。……なのに私だけしか見えていないっていうのは、凄く……寂しいこと」
びくり、と望の体が震えた。
彼女は、知っているのだろうか。自分が死んでいるということに。気がついているのだろうか。
もしそうだとしても、自分に何ができる。気付いているのかどうか、確かめる勇気さえない自分に。望は心の中で自分をあざ笑った。
「……だよな……。愛、あのさ」
「望、私の事は気にしないで。私は一人じゃない」
ああ、やっぱり。
彼女は気がついているのか。
「だから――早くここからいなくなった方がいい」
一瞬、全ての音がしなくなった。まるで望を捉えていないかのように、彼のまわりだけ、音がなくなった。
愛は真っ直ぐに望を見上げる。
「いつまでも、私の側にいていいことなんて、ないと思うから」
「……ちょっと待てよ、まるで俺が死んだみたいな……事故で死んだのは、お前だろ?」
確認するように問うた望に、いいえと短くも衝撃的な返事をする愛。
「覚えていない?私を助けようとした望は車に轢かれたの」
つい先日の事故。愛が死んだと思っていた事故。今日と同じ雪の日。
愛は赤信号に気がつかず渡った。助けなければ。助けなければ。気がついたら、俺は愛を押していた。自分が逃げるのには、時間が足りなかった。
よぎる、フラッシュバック。信じられない。信じたくない。
けれど。
「ああ……俺のほうだったのか」
けれど、よかった。
愛は助かっていた。ずっと、苦しかった。姉が死んだという事実が。
望は窓を開けて、雪を掴もうとした。
感触も冷たさも、何も感じない。ただ見えるだけ。
「……ここにいるのに、ここにはいないんだ。俺に見えるものすべて、俺が見えていない。……いなかったのは、俺の方なんだな」
「ごめんなさい、愛。私があのとき……」
「いいんだ」
これでいい。そう言うかのように、優しい笑みを浮かべて、望は。
「……ごめんなさい……望。……ありがとう……」
部屋の中に入って来た雪と共に、消えた。
愛は悲しげに微笑み、窓の外の雪を見ながら呟く。
彼の死を悼むように、ふわり、ふわり、雪は踊り続ける。
つたない文章ですが、読んでいただき有り難うございます♪
かなり悩んだんですがこれって……ぶ、文学……?いやファンタジー……って妖精出て来るんじゃ…(偏見)いっそ恋愛にして兄弟愛ってことにするか!?
悩んだ挙句その他になったんですが分類するって難しいですね。