スパイ大作戦
「はい、というわけで放課後ぉ!」
「言われなくてもわかってるつーの」
校門の前でテンション高く宣言した舞の言葉に、そーが熱めの突っ込みをいれる。
太陽が西にやや傾き、空にはとっくに月が輝き始めていた。
「…まぁ、そうの気が乗らないのは分かるけど」
「気が乗らないってわけじゃないんだぜ?ただよぉ…」
「なら、やめておきますか?相田さんを尾行するの」
「まぁ、あれなら昨日みたいにうちの黒いの使ってもいいんだけどね」
舞の言葉に反応し、黒服のおっさんA~Fが壁影から、天井からどこともなく姿を現した。
「いや、やるよ。自分のことだしな。このままじゃヤバイことは分かってるんだ」
そーの表情が真剣なものに変わる。
このままでは、『クラス替え』になってしまう。
そうなっては、このメンバーとも離れ離れになる。それだけは、さけなければならない。
「でよ…。何で皆ついて来るんだ?」
「「楽しそうだから」」
そーの問いかけに彼女たちの嬉々とした声が夕暮れの校門に響いた。
「こちら、スカルA、こちら、スカルA。各自状況、応答願います。どうぞ」
ザザッ。
「こちら、スカルB。ホシは、現在、校門北道に爆進中!!!!
所定位置に移動します、どうぞ!」
ザザッ。
「ちょ…、そー。そんな大きい声出したら、ホシに見つかるじゃん。どうぞ」
ザザッ。
「お、すまねぇ、すまねぇ。ハハハ。どうぞ」
ザザッ。
「…相田が来たわ。路地裏に今入った、あ、あとスカルプC」
「いや、もも。そんないきなりボケないで。あくまで尾行中なんだから、どうぞ」
夕暮れの若月町に、トランシーバーの音が響き渡る。
ザザッ。
「…尾行というより、単なるストーカー。
…あと、スカルナイトC。攻撃力1000。もうすぐDに到着どうぞ」
「だから、もうイイって」
舞が飽きれたような口調で呟く
そして…
コツッ。
ホシが、来た。
慌てて、澄香は壁際に隠れた。
澄香のいるところまでは、直線、道なりに進むしか無い。
ここで、道が二股に分かれていて、そのどちらに進むかによって、今後の作戦が変わってくる。
革靴の歩む音がだんだん近づいてきた。
コツ、コツ、コツ。
ふぅ。
息を一つ小さく吐き、壁にもたれかかる。
微かな緊張が、軽く胸を掴んだ。
微かな愉悦が、軽く口元を歪ませた。
澄香は、自分自身が、どこかこの状況を楽しんでいる事に、何となく気づいた。
コツッ、コツッ。
足音は、更に近づいてくる。
邂逅の時は近い。
相手に気づかれないよう息を潜めた。
コツッ。
コツッ、コツッ。
コツッ、コツッ、コツッ、コ…
「え……?」
突然、足音がパタリと消えた。
気づかれた?
澄香は、思わず、石になったかのようにじっと身を固めた。
動かない。
動かない。
動か…
ザザッ。
「こちら、スカルA。スカルD。応答願います。相田拓人の姿が見えないんだけど、
報告願います。どうぞ」
え?
舞の突然の報告に澄香は、思わず路地に飛び出した。
そこには、今にも沈みそうな夕焼けに照らされた一本道が、佇むだけ。
ザザッ。
「スカルD。応答願います。どうぞ!」
何も無い空虚な街路。
そこに、トランシーバーの音だけが、鳴り響いた。




