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束の間のひととき

 あの模擬戦から十日が過ぎた。 俺は授業後にリリスとレベリングをしていたこともあり、俺のレベルは5まで上がっていた。

 模擬戦で文句を言ってきた奴らも、また何か言いがかりをつけてくるかとも思ってはいたが、余程皆の前で失禁は(こた)えたのだろう。

 今ではすっかりロードン・ガルドスを含む、その取り巻きまで大人しくなっていた。


 そしてこれからは野外演習が始まる。

 俺達訓練生はコーネリア王国から歩いて半日ほど離れた場所[ムルガ森林]に来ていた。

 出てくる魔物は前に倒した初級の魔物、ウルフ、ボア、ゴブリンなどだが、ここでの主な目的は戦闘ではなく野営で、手際よく準備ができるよう練習する為だ。


「よーし。 これなら各自テントを張り、焚き火を作って支給された食材で料理を進めてくれ。 遅れる者がいるなら早めに先生に言うように。 夜になればいくら初級の魔物といえど危険だ。 手際が悪い奴はそれだけで命を落とす奴もいる。 気を抜かずにやってくれ」


 俺達は火を起こすために手頃な木や枝を集めに行くが、リリスは勝手が分からないようで水分を含んだ木や枝も一緒に集めている。これでは焚き火をした時に(すす)が出てしまう。


「なんだリリス。 焚き火は初めてか?」


「え……うん。 初めてって訳ではないけど、私が遠征する時は全部他の人達がやってくれてたから、実はやった事ないんだ」


「そうか。なら一緒にやるか。 一から教えてやるから」


「うん。やってみたい」


 そう言うとリリスは嬉しそうに俺の側にきて一緒に木や枝を拾い始めた。俺は焚き火に必要な基礎知識を教えながら木や枝を集めていった。  

 遠征の時は王国騎士団が全部やっていたんだろう。あの顔を見るとリリスも本当はやってみたかったんだろうな。


 焚き火をするにも、テント張るにもリリスは苦戦しながらも無事に進めることが出来た。

 後は二人で指定の食材を使い料理を作るだけだった。


「何か楽しいね。 こういうのって」


「確かに寮でもリリスといつも一緒だが、何かを一緒に作ったり、完成させたりするのは今回が初めてだったな」 


「そうだよ。 だから嬉しかったんだ。 

 それに分からない私に優しく教えてくれた事も。普段誰かと話す時はアルトって意外と無愛想だから、今回も私がもたもたしてる間に淡々(たんたん)と準備を進めちゃうんじゃないかって少し不安だった」


「野営の準備は皆でやるもんだ。 一人素人がいても大した負担にならないから安心しろ。 それに野営も冒険を楽しむ一つの要素なんだよ。 今では俺もそこそこ出来るが、 最初は酷いもんだった。 リリスは出来た方だ」


「ふふ。 アルトって何でも出来ると思ってたけど、やっぱり最初は出来なかったんだ」


「当たり前だろ。 皆誰でも最初は初心者からだ。 ルークが鍋をひっくり返して全部台無しにした事もあったな。 でもその失敗もいい思い出だ」


 大した事は何一つしていないが、楽しそうに笑うリリスを見ていると俺も少し嬉しくなる。不思議な感覚だ。


「ほら、出来たぞ。 煮込みシチューだ」


「わっ。 ありがとう」


 俺は器に装ってリリスに渡すと、本当に美味しそうに食べている。

 初めて二人で作った料理だが、不器用なりにリリスは頑張っていた。


 こんな事は冒険者をするなら当たり前の事だし、ルークとはよくテントさえ張らずに野宿をした事も数えきれないほどあるがあるが、この当たり前の事を新鮮に感じるのは、やはりリリスが隣りにいるからなのだろう。



 野外演習だから油断をするつもりはないが、たまにはこんな時間も少しくらいあってもいい。


「さてと……」


 料理も片付け、一通りの事は終わったな。

 後は寝るだけだが、まだ俺にはやりたい事がある。


 それは木や枝を拾い集めていた時に見つけた爪痕。

 あの大きさからするとビッグベアよりも強いグリズリーだ。 木には大きい爪痕が一本だけだったが残っていた。

 グリズリーは縄張りを主張する時に木に爪痕を残す修正がある。

 おそらくグリズリーはムルガ森林の奥にいる。


 ビッグベアよりも強いグリズリー。推奨レベルも15だが、弱い相手にも飽きてきた頃だ。この奥にそこそこの相手がいるなら行くしかないだろう。


「くっくっく。待ってろよ」


 それにレベルを一気に上げるには丁度いい。俺は次の標的を定めたのだ。


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