新たな可能性
俺達は今日から始まる基礎の対人戦闘訓練の為リリスと準備を終えると、遅れ気味で訓練場に向かっていた。
俺は歯を磨くくらいで直ぐ部屋を出られたのだが、女のリリスはなにかと出るのに準備がかかったからだ。こんな時女っていうのは不便なもんだ。
「リリス、お前のレベルって今いくつなんだ? 国からの要請で魔物討伐もやっていたんだろう?」
「うん。そんなに要請はある訳ではないけど大型の魔物が出た時とかね。今の私のレベルは21よ。 アルトは?」
「俺はレベル18だ」
「えっ? レベル18ってかなり高くない? この年齢の平均ってレベル10いけばいい方だと思うけど」
「だろうな。 俺はルークと二人でよくガキの頃からウルフやらゴブリンまで隠れて狩りに行ってたからな。だから他の連中よりかなり経験値がある」
「よく死ななかったね。 一歩間違えばゴブリンに囲まれて死んでるよ」
「あいつらは馬鹿だが、5歳児位の知能はあるからな。 何も考えずに突っ込んでれば死んでただろうな」
「何か対策でもして行ってたの? 子供の頃なんてアルト達の力もゴブリンに毛が生えた程度だったでしょ?」
「ルークは金持ってるからな。 武器も防具もそれなりの物が揃えれた。 それに人間の匂いを消す為に身体に獣の内臓やら血を被ってから行っていた」
「うわ……ちょっと引くな……」
「まぁ、最初はな。 だが直ぐ慣れるぞ」
「絶対に慣れないわよ。 アルトもルークも2人とも剣士なの?」
「俺は剣士だが、ルークは剣も魔法も扱える不思議な奴だ」
「えっ? 剣と魔法の両方? それってかなり凄いよね」
「ああ。 魔法は簡単なのしか出来ないらしいが、剣は好きだから振っているらしい」
「おかしい。 普通はどちらか極端になるはずなのに」
「詳しくは俺も知らん。 魔法使いかもしれんし剣士かもしれん。 それに俺も今は剣士だが、今回の件で職種を変えるつもりだ」
「えっ! 何で?」
「この世界は圧倒的に剣士が多い。剣士の上級職が騎士。安定して戦えるが強みも少ない。 俺は前からずっと考えていたんだ」
「でも、安定してるから皆がなろうとしてるんでしょ? アルトは今更何になろうと考えてるの?」
「戦士からの狂戦士だ」
「えっ!! あんな誰もならないような職業を! 絶対に止めたほうがいいよ」
「普通ならな……。 だが今は違う」
「どういう事?」
「狂戦士には勇者すら超える圧倒的なパワーがある。だが、それ以外は並以下で、被弾すれば直ぐ致命傷を負うような脆さもある」
「ほら、だから止めたほうがいいって。 そんな職に変更したら命がいくつあっても足りなくなるよ」
「逆だよ。 だからだよ」
「えっ?」
「追い込まれる程、能力が上がる狂戦士は正に俺にぴったりだよ」
そう。【勇者の加護】【勇者の祝福】を受けた俺には既に全ての能力値アップ(大)が付いている。この加護があれば能力は並以下から並以上に。
そして、状態異常の攻撃を受けたとしても勇者の祝福があれば無効。毒で体力を奪われる心配も、麻痺で自由を奪われる心配もない。
もし体力が減ったときに即死するような攻撃を受けた場合でも最悪瀕死で済む。
しかも瀕死の場合、能力値は最大値まで跳ね上がる。
くっくっく………。
笑いが止まらねぇよ。
死んだら終わりのこの世界では、上級職の騎士や重騎士が数多くいる。
この狂戦士が勇者の加護と合わせると如何に強力になものになるとは、誰もが知らないだろうよ。
そして俺は勇者のリリスともといずれ肩を並べられる存在になる。
俺はそんな事を考えながらリリスと訓練場に着くと、薄々言われるだろうとは思っていたが、勇者と組んだ俺に不平不満を言う輩が出てきたのだ。