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勇者の秘密

 俺は戸惑っていた。何故なら勇者リリス・アストリアと今日から共同生活を共にする為に学園から少し離れた寮の二人部屋に来ていたからだ。


「私に話しかけるな。触れるな。干渉するな。そして見るな。 最後に息をするな」


「無茶なこと言うな。 生活する以上多少の干渉や会話は必要だろう?」


「ふんっ。 そんなものは必要ない」


 おいおい。薄々分かってはいたが、なんだよその態度は。

 それに息をしなかったら死んでしまうだろうが。


 それにしても勇者ってのは歴代からこんな奴ばかりだったのか?

 これじゃ周りが可哀想になるくらい振り回されてきた事だろう。

 俺の勇者のイメージが頭の中でどんどん壊れていくな。


 俺に冷たい視線と言葉を浴びせ寮部屋に住む準備を進めるリリス・アストリア。


「はぁ〜……」


 本当に上手くやっていけれるのだろうか。心底不安になる。



 時は半日前に(さかのぼ)る。

 授業を進める中で教官から言われたのはお互いの実力の近い者同士がペアを組み、共同生活を共にする事だった。

 勿論混合ではなく同性同士でだ。


 卒業すれば冒険者や騎士団などに各自所属し遠征する事が出てくる。

 その一つの練習としてペアを組まされた訳だが。試験の内容、実力から俺が勇者とペアに選ばれたと言う訳だ。


「どうしろと言うんだこの状況を……。俺をゴキブリか何かとでも思っているのか」


 何やら床にはテープの様なもので境界線を引かれ、俺との間には間仕切りが作られている。


 互いの絆を深めるやら歩み寄る努力なんてものは相手にも歩み寄る意思があるから成立する訳で、はなから意思のない奴に歩み寄ることなんて不可能な事だ。


「3年か………苦労しそうだ」


 俺は仕方なく夕食の時間に間に合うように寮での生活の準備をする事にした。




 なんやかんやで時間も経ち夕食の時間に差し掛かり俺はリリス・アストリアに声をかける。


「おい。もうそろそろ飯の時間だぞ。 お前も一緒に行かないか?」



…………。


 返事がない。聞こえてはいるだろうが俺とは会話もしたくないってか。とことんイヤなヤロウだ。

 だが何やらカーテンの向こうで側で何かをやっている音は聞こえる。


 ん? (ふで)を走らせる音?


 あの勇者が勉強でもしているのか?

 いや、あのわがまま勇者様に限ってそれはないだろう。

 そう思いながら仕方なく俺は勇者を置いて一人で夕食に向かう事にした。




 学食の時間は比較的短い。俺は大喰らいな為、幾つも料理を頼んで食べたがまだ勇者は来ていない。


「アイツ晩飯を食べないつもりなのか?」


 流石にこの時間になっても来ないのはおかしいだろう。あと30分で閉まっちまうぞ。


 俺は皿に残った飯をかき込み、足早に部屋に戻る。これからの生活では体力が基本だ。飯抜きなんてものは勇者であろうがあり得ないだろうが。


 少しの苛立ち(いらだ)を覚えながら部屋に戻った俺は部屋を確認するがリリス・アストリアの気配がない。


 …………いや。いる。


 気配のするのは間仕切りの向こうのベッドや机が置かれている方ではなく、浴室の方だ。


 浴室といっても風呂がある訳ではない。簡易的な脱衣場に洗面台、そしてシャワーがあるだけの何処にでもあるような簡易的な浴室。

 時間も10時迄と夕食を食べてからでも充分間に合う事は分かってるはずなのに。

 

 「それを今、入るとかやっぱ頭おかしいんじゃないかあいつは!」


 俺は勢いよく浴室の扉を開けリリス・アストリアに声をかける。当たり前だがこのままちんたらシャワーを浴びていたら間に合わないからだ。


「おいっ!! リリ…ス……?」


「えっ………」


 俺の手と同時に思考が急停止する。


 目の前の扉を開けた向こうには勇者リリス・アストリアと思われた男ではなく、背中まである金色の長い髪をした上半身半裸の女性ではないか。


 濡れた髪は肌に貼りつき、少し赤みを帯びた肌は妙に艶がある。それと豊満とは言えないが充分満足出来るくらいの胸の膨らみ。

 隙間からは一瞬だが乳房が見えたかのようにも見えたが思考回路が停止した今の俺ではもはやそれすら怪しい。


 そしてほどよくくびれたウエストから見えるのは純白の下着。


 あ…あれはおパンツ。


 履く種類によっては女を何倍にも美しく見せれる事のできる魔法の下着。


 しかも白とは、正に王道中の王道。


 何と神々しいのだろう。初めてご尊顔(そんがん)したが、こんなにも尊く(とうと)儚く(はかな)美しいものなのか。


 時間にしたら僅か(わず)2秒位だったろうか。絶叫にも近い声が浴室に響き渡った。

 

「み…み……見るなぁ〜〜っ!!!」


 女性は慌てて胸を隠し、顔を背け(そむ)その場にしゃがみ込んだ。

 タオルで隠そうとしてはいるが純白の下着に包まれた可愛いお尻までは隠しきれていなかった。

 

 思考停止した俺でも分かる。この声は紛れ(まぎ)もなくリリス・アストリアだ。


「おま…リリ……スか?」


 俺にバレてしまった事に驚いたのか、一瞬だか肩がビクンと反応する。

 もしかしたら女であることを隠すために俺が夕飯を食べに行っているその間にシャワーを浴びようとしていたのかもしれない。

 だが、まだお互いの行動が分からないからタイミングを見誤ったのか。

 それから少しの沈黙から語られたのは


「……私はリリスではない。ただの通りすがりの女だ」


……おい。動揺しているとはいえ、いくら何でもその設定は無茶過ぎる。何処に通りすがりの女が男子寮に入ってきて男の部屋で勝手にシャワーを浴びるんだよ。それに声を今さらちょっと変えようとしても遅いんだよ。


「いや、お前はリリス・アストリアで勇者だよ……」


 そう俺が見たままを伝えると次には再び肩がプルプルと震えだし立ち上がった。何やらその拳には殺気が込められている。イヤな予感がするのは気のせいだろうか?


「ならば選べ。お前の記憶を消すか、存在を消すか、どちらがいい?」


「こえーよ! それに一旦落ちつけ!な?」


 殺気を放つリリス・アストリアを(なだ)めようとすると同時に背後から足音が聞こえてくる。

恐らくさっきの叫び声が原因だろう。騒ぎを聞いた寮生がこの部屋に来たのだ。


まずい……。


 俺は咄嗟(とっさ)に動いた。俺が女を男子寮に連れ込んでいるからまずいと思った訳ではない。そんな事は理由を説明すれば誤解は直ぐ解けるだろう。

 それよりも恐らくリリス・アストリアは女であることを隠している。理由は分からないが男としてこの学園に入学してきたのだろう。

 浴室のドアを勢いよく閉め、俺は勇者リリス・アストリアと同じ浴室に隠れるが二人は(もつ)れ、同時に浴室に倒れ込んだのだった。

元A級冒険者のおっさん少女を拾う。〜アイテムボックス持ちのエルフ少女と一緒に王都で自由気ままにスローライフ〜

連載開始してます。もしよろしければこちらも読みにきて頂けると嬉しいです。

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