卒業パーティーでの婚約破棄とその後
「みんな、卒業パーティーの途中だが聞いてほしい! 私は嫉妬するあまり男爵令嬢に嫌がらせをした婚約者の公爵令嬢ヒーネドーラとの婚約を破棄し、男爵令嬢のキネルートを王太子妃にする。気に入らない人間とはいえ危害を加えるのは許されない。キネルートは私物を壊されたり、階段から突き落とされたりしてもヒーネドーラをかばう心優しい女性だ。未来の国母にふさわしい。おい、ここで彼女に謝罪すればお前の罪は減刑してやる」
「殿下、何をおっしゃっているのでしょうか。私は嫌がらせなどしておりません。したというのであれば、何か証拠があるのですか。どんな証拠を出されても私は全て反論することができます。私は何もやっていないのですから」
「ヒーネドーラ様、お願いです、謝ってください。謝ってくださればチヒュード様は減刑だとおっしゃっているんです。もちろん私も許します。お願いです、頭を下げてください」
「何を言っているの、あなたは。私は謝らなければいけないようなことを何もしてないと言っているのよ」
「ヒーネドーラ様、証拠も証人もちゃんとそろっておりますよ。殿下のお言いつけで私たち側近がちゃんと確保いたしました」
「あら、自分たちが冤罪を作っていると公表しているのですか?」
「もういい、この女を捕まえろ。罪人として牢に入れろ。貴族牢ではないぞ。お前は牢の中で自分の行いを悔いろ。謝罪するまで牢から出さんからな」
「チヒュード様、そんなのやり過ぎです。公爵令嬢としてずっと過ごしてきた人なのですよ。平民の牢で 過ごせなんて、そんなのひどいです。反省するまでお屋敷から出さないということでいいんじゃないでしょうか」
「キネル、君は優しすぎる。そんなに優しくては王太子妃として苦労するかもしれない。でも私はそんな君を愛してるし、守っていきたいと心の底から思うよ」
☆ ☆ ☆
牢の番人の交代時間になり引き継ぎが行われる。
「例の貴族のご令嬢、ああ、元か。いつもと変わらない、一人でずっと喋ってる」
「あの女はあのままらしい。医者が診察して、壊れてもう元に戻らないと言ってたそうだ」
「まあ、そうだろうな。自分の受ける罰の大きさに耐えられなかったんだろ。いずれは王妃になる女性を害そうとしたんだ。当然の罰だろうに」
「罪を犯せば罰がある、平民でもわかることなのになあ。貴族なのにわかんないとは」
牢の中では、元男爵令嬢キネルートが声色を変え一人でずっとしゃべっていた。