第9話 『今日は学校サボりましたけど』
バリッ。
ザクザクザク———
「楓さんに寝ていただきたいのでサクッと話ますね。まず、私の上履きの件は誰も悪くありません。以上」
「絶対切った子たちが悪いって!!」
「なんで悪くないと思える。腹は立たないのか?お前何もしてないんだろう?」
主人が一度蹴ったローテーブルの位置を戻し、再度拭き、サチエはそこに飲み物とお菓子を置いた。楓と椿が隣同士で座り、向かいでサチエが立ちながら、食べながら話をしている。
ザクザクととても硬い音が部屋に響く。
「真相はわかりませんが、真相はどうでも良いんです。想像です。まず、上履きを切った人たちをいじめっ子と呼びましょう。いじめっ子たちが過去に”私とそっくりな見た目の人間に”イジメられたり仲が悪かったり・・・まぁなんか過去になんかあったりしましょう。似てるだけで腹が立つなんて事、よくあります。原因はそれかも知れない。
他にも、高校生になったら、”大丈夫そうなやつを見つけてイジメをしてみたい”って考えてり人だっています。それかも知れない」
「えー!そんな理由?」
「逆にそんな深い理由があると思います?入学して初めて顔を合わせて一ヶ月も経たなかったのに?」
「確かに!!」
「もしくは、サチエ。お前が覚えてないだけで相手とは昔会っていて何かあったとか?」
楓が考えて発言した。
「・・・その線は考えなかったですね。相手の名前を聞いてもピンときませんでしたし。でも、私が忘れているだけでその線もあるやも知れません。なるほど。新発見ですね。とまぁこう言った感じで、別に私が気にしてない時点で良いんです」
「え?!それで片付くの?!サチコちゃんの気持ちは?!」
「腹はもちろん立ちますけど、怒っても仕方ないですからね。だから新しい上履きを買うお金が欲しいわけです。既に筆箱やシャーペンは一回破壊されてますからね。親のお金で買い直すのがなんかムカついたんでバイト始めたんです。だから、時給が高ければ高いだけ私は嬉しいんです。中学の先輩からもらったドクターグリップを壊された時は流石に仕返ししようかと思いましたけど、まぁケーキ3つ食べて怒りをおさめました」
「なんで親の金を使いたくなかったんだ?」
「親はお小遣いをこう言って私にくれたんです。『好きなことに使いなさい』って。好きなことどころか腹立つ事の尻拭いとか補填に使いたくなかったんです」
「そうか」
「納得したのお前?!」
「で、次。従業員の気持ちを考えなくて良いとは?」
いじめ問題も少しは興味があったが、サチエという現在進行形で自分の近くで働いている”従業員”の立場の意見を聞きたかった楓は続きを促した。
「もちろん、ちゃんと人間として扱ってほしいって思います。”雑に扱って良い”という意味ではありません」
「あ、なるほどね。よかった。従業員をボロ雑巾のように使っていいって意味かと思った・・・」
「そんなわけありませんでしょう」
言って、またローテーブルから一本お菓子を取って食べる。
「全部、自己責任なんです。会社は立派な理念の元、たくさんの人たちが従業員を含めて利益とかなんか色々考えて考えて考え抜いてるわけじゃないですか。楓さんが最近沢山悩んで大変な思いをしたこと、他の従業員の方は知らないんです。でも、それは双方悪くないんです。
会社員の方って、毎日同じ時間に出勤して何時間も働いてて偉いですよね。立派です。
楓さんも、今学生の時から将来の会社の事を考えて、それでも学校も毎日行って、立派ですよね。
今日は学校サボりましたけど」
「サチコちゃん!!今日は多めにみて!!」
「従業員って、文句多いんですよ。私生活も合わせて上手くいかないことが多くなると特に。って、母が言ってました。だから、比べることは良くないとは言ったものの、他よりも明らかにいい思いをしている状況だって、欲が出てまた文句を言う。文句を言えば言うだけ状況が好転する可能性があるならみんな文句言いますよね。
あと、これはおばあちゃんが言ってました。人間は不変を好む節があると。変わるのが面倒だと思うらしいです。制度とかやり方が変わると文句言いますよね。増税は確かに困っちゃいますけど、それ以外、確かに誰かが望んだから変わった制度なのに、結局他の人からしたらどうでもよかったり、とにかく最初はイチャモンつけたかったり、本心と違うことでも文句言ったり。
なんなら、変わった制度が本当は嬉しくて嬉しくて仕方ないのに、周りが文句を言うから一緒になって文句を言うっていう人だっているじゃないですか」
「それめっちゃわかる。かなりわかる。超わかるんだけどサチコちゃんいくつ?」
「ですからおばあちゃが言ってたんですって。私で言うなら、中学校の時に体育祭の他にも謎の運動系のイベントがあったんです。それが私が中学校2年の時に廃止になりました。大ブーイングです。でも私は心底喜びました。
多分、大体の人が本当はイベントがなくなって嬉しかったと思いますよ。イベントをやるならやるで練習の時はみんな文句言ってましたし。こんなに不評なら無くなりゃいいのにって思ったら翌年には廃止。喜ぶかと思ったらみんなブーイング。人間なんてそんなもんです」
「なるほどな」
「待って、じゃがりこってめっちゃ美味しいんだけど?!」
「とにかく人は文句を言う、状況を変えて欲しがる。本当に他力本願ですよね。人生って自己責任なんです。それを小さい頃から実は練習させられてるんですよ私たちって。あ、お二方は違うかも知れませんが」
「何?どう言うこと?!ってかじゃがりこって他にも味あるの!?超気になるんだけど」
「わかりました、明日チーズ味買ってきます。で、会社に入ってから、『想像してたのと違った』とか『やっぱりやめよう』とか考えますよね。いいんですよ。すぐに辞めたって。よく年上の人は言いますよね。『少なくとも三年くらいは頑張らないとさ』とか。その理由もわかります。始めてすぐに完璧にできる人なんていませんからね。でも、やっぱり三年経ってもできない、慣れない、雰囲気が良くないとかで辞める人いますよね。ここではメイドさんがまぁ理由は違いますけど直ぐに辞めますよね。
私の体験から言うと、習い事でそういう子もいましたから」
「何習ってたの?」
「裁縫です」
「スッゲェ?!」
「会社のココが合わない。仕事内容はいいけど人は良くない。逆も然りだとこれは父が言ってます。関わる会社との関係性とかも家で言ってます。『もうちょっと調査してから提携を結ぶべきだったなぁ』とか。私は経営者でもなければ経営学を学ぶ気もありませんが、お二人ならわかるんじゃないですか?」
「あぁ」
「ちょっとね」
「もちろん、実際に会社に入社をしないとわからない事、提携して関係を深めないとわからないこともあると思います。でも、事前に調べられることとかっていっぱいありますよね。
これ、受験と一緒なんです」
「「受験?」」
「お二人は受験をしたかどうかわかりません。あの有名学園なら幼稚園の入学時に一回面接してからずーっと人生エスカレーターなのかも知れませんが、私たち一般人は、中学受験や高校受験があります。
特に、公立の中学校に通ってから、高校受験をする人が一般的に凄く多いと思うんですけど、その”高校受験”が社会人になるための一歩なんです。
『自分で見つけて』
『自分で選んで』
『自分で決める』
で、入った後に『こんな校則だったのか』とか、『こんな行事だったのか』とか、自分に合わない校則やイベントがあったとして初めて思うんです『もっとちゃんと調べればよかった』と」
「確かに、俺達はそういうのなかったね。全部兄弟とか身内から聞いてたし、全員同じ学校に入るもんだと思ってたからね・・・」
椿がボソッとつぶやいた。
そう、神部家の子供達のほとんどが同じ私立学園に通う。当たり前のようにだ。
「そして、ちゃんと調べた子は思うんです『ちゃんと調べててよかった!』と。自分が、自分で、自分にどれだけ貢献したかです。学校選びに失敗したら、次は大学選び、そして会社選びに慎重になるでしょう。
アルバイトもそうです。最初のアルバイト選びに失敗したら、自分で条件をつけて次はもっといいところを探そうと思うでしょう。そう、全部自己責任なんです。
自分で選んで入ってきた会社です。そこで、"全部が悪かった"なんて事ないんです。そもそも神部なんて、お給料が信じられないほど良いでしょう。みんなそこで働いているだけでお金もらえるんだからいいんですよ。嫌な事をどうするかはその人の人生、辞める辞めないも自己責任。
少なくとも、今と同じような経営を続ければ、世の中の価値観がひどく変わらない限りはなんとかなるでしょう。そんなに気負いしなくていいのでは?って私は言いたかったんです。あれ?なんか結局めっちゃ話した気がするんですけど」
そう言って、テーブルに置いていた飲み掛けの1リットル紙パックを持ち、勢いよく吸った。
「従業員のためにじゃなくて、楓さんが『自分がなりたい経営者』をまずは考えるべきなのでは?」
「なりたい?」
「あれ?小学校の時とか『何になりたいですか?』って書きませんでした?そう言うことしない学校でした?」
楓は少し視線を下に向けて考えた。なりたい自分・・・どんな経営者になりたいのだろうか。
「難しく考えないでくださいね。それを実現するにはまずこうして〜とかいらないですよ。辻褄とか合わなくて良いんです。想像してください『どんな経営者』になりたいんですか?」
「・・・めちゃくちゃ余裕で遊ぶ時間も取れてたまにあえてサボってる経営者」
「いいじゃないですか、決まりです。じゃ、今から余裕ぶちかまして行きましょう」
「急に楓のIQ下がったんだけどっ!?」
疲れ顔には変わりはないが、楓の顔つきが変わった瞬間だった。




