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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第4話 『待って、ちょっと俺が恥ずかしい』


「あら?これサチエちゃんの上履きだわ?学校で使うものよね?忘れていたったのかしら?」

「上履きなんて毎日履くモンじゃないんですか?俺は学校土足だったからよくわかんねぇっすけど?」

「うちの子は学期が終わる時に持って帰ってくるからねぇ?毎日履くと思うんだけど?どうしましょう。まだ追いつくかしら?」


 屋敷のパートの佐藤さんが珍しく残業をしていた。そして、サチエよりも遅い退勤となったこの日。サチエの忘れ物に気づいた。そしてそれをサチエの上長となった椿が受け取った。休憩室から出て屋敷の廊下を佐藤さんと歩きながら話していたが、渡された上履きの感触がおかしいことに気づいた。

 

「いいっすよ、俺が明日の朝学校に届けますって。あれ?これ、底切れてるじゃないっすか?」

「あらー!やだぱっくり!あ、なんかで切れちゃったから持って帰ってきたのね!」

「何踏んだんだよ、サチコちゃんの足の裏は鋼か?!」


「切られたんだろう」


「ウエェっ?!お前いつからそこに?!」

「あら!楓さんおかえりなさい!講義お疲れ様です」

「見せてみろ」

「え?!上履きだぞ?!お前他人のコートすら触りたくないって言うくせに!」

「お前のコートは汚いだろう」

「上履きよりかは綺麗だろう?!」

 言って、楓は椿の手から上履きを取った。


「これは切られたんだ」


 この場にいる三人の空気が一瞬だけ重くなった。それを気にしてパートの佐藤さんが口を開く。

「やだ〜!あんなに良い子なのに!もしかしてイジメ?!」

 ただ核心を言っただけだった。


「ちょっ!佐藤さんそんなダイレクトにイジメだなんて・・・!!あーでも、サチコちゃん自分のことインキャだとかブスだとか言ってたもんなぁ・・・そう思うって事はやっぱり虐められてるってことか?」

「え〜!でも入学してまだ一ヶ月ちょっとですよ?!早くないですか?あの子、人の嫌がることどころか人と関わることを積極的にする子じゃないじゃないですか!」

「あ、そうだなぁ。極力人と関わりたくないとか言ってたもんなぁ・・・」

 椿と佐藤さんがいつものごとく軽快なリズムで会話をする。このままやりとりが続くかと思いきや



「だからだろう。話をしない奴、愛想が悪い奴は爪弾きにされる。そうでなくてもあの容姿は人から目をつけられやすい。小太りに長い三つ編みに眼鏡だ。()()()()()()から見たらあの見た目は格好の餌食だろう」


「うーん・・・まぁ、そういうのってありますよねぇ。私の娘が高校生だった時もそんな感じでしたし・・・」


 楓や佐藤さんが言うことは世の中で大半の人がなんとなく理解してしまう感覚だ。清潔感があってもそのように標的にされる。そこに清潔感を欠いたらもっと言われる。椿もそう思ったその矢先にハタと楓が今言った言葉を思い出した。


「・・・お前今、()()()()()()はって言ったよな・・・?」


「———はぁ?まさかお前わからないとでも言うのか?節穴かその目は?医療チームに頼んで眼球作ってもらうか?」


「悪口が酷いって!!えっ?!マジなにその目?!」


「あら?!どう言うことかしら!楓さん私に教えてくださるっ?!」


 佐藤さんがおばちゃんパワーで教えを乞うた。普段、楓にこのように話しかける人は少ない。ある意味佐藤さんは貴重な人材だ。


「・・・まぁ、個人情報も含まれるので全部開示するわけじゃないですが・・・。彼女の両親は有名人です」

「えええ!!そうなのーーー!!」

「だからこそのあの彼女の肌の美しさです」

「おまっ?!意外とちゃんと調べてんのな?!履歴書とか見たん?!」

「そして、彼女の眼鏡・・・あれはかなりのハイブランドです。髪の毛もツヤも良ければ髪質もとても良い。持っている物がいちいち高価だ。あれは両親のセンスで買い与えた物だろう」


「・・・そんな金持ちの家なら、なんでバイトなんてすんのさ?高時給にした途端メイドやるって言ってきたけど?」


「だから、その理由が()()なんだろう」


 楓が言って上履きを指した。


「小遣いの範疇でも余裕で買えるだろうが、イジメでダメにされたものを再び買うことに、親からもらった金をわざわざ使いたくないんだろう。そういう考えのやつがいたってなんらおかしい事は無い」


「え〜・・・でも、太ってることが原因でいじめられるんだったら出勤前のオヤツ辞めれば良くない〜?」

「でも!それは個人の自由ですよ〜!サチエちゃん、本当に美味しそうに食べてるんですからぁ〜!」

「あー、うー、前食ってるの邪魔した時ものすごい顔されたしな。本当に至福のひと時なんだろうなぁ・・・あれ、じゃぁ、これ家とか学校に届けるの良くないって事?」

「ご自宅に届けるのはね・・・ご両親に隠してたとしたらバレちゃうと可哀想よね。でもだからって学校に持って行ったら、椿さんみたいなイケメンが届けたとなったらサチエちゃんもっといじめられちゃうかもしれないわっ!辞めましょう!!明日も出勤ですから!明日来た時に気づきますって!」

「じゃぁ、そのままここに置いておきますか!」



「いや、俺が持ってる」




「「へ?」」



 椿と佐藤さんの間抜けな声が廊下に響いた。






・・・———



 翌日。



 サチエはいつも通りの時間に屋敷に到着して支度を終えた。そして、今日はツナマヨネーズのおにぎりとハッシュポテトを食べた。明日は明太子のおにぎりとアメリカンドッグにしようと思いながらタイムカードを切り部屋を出た。



 出た廊下にいたのはこの屋敷の次期当主候補である楓だった。



「おはようございます。おかえりなさいませ。本日もよろしくお願いいたします。お鞄とジャケットをお預かりします」

「コレ、お前のだろう」

「おはようございます。おかえりなさいませ。はい、昨日持って帰り忘れた私の学校の上履きです。大変申し訳ございませんでしたがなぜ今おかえりのタイミングでそちらをお持ちで?」


 おはようございます。とおかえりなさいませ。に対して返事がないので、回答を貰うまでサチエは言い続ける。


「底が切られてた」

「おはようございます。・・・あぁ、もう夕方ですからね。こんにちは、おかえりなさいませ。はい、切られましたので新しいのをもう購入してます」


 言って、上履きだけ先に受け取る。


「入学して一ヶ月だ。いじめをするような人間がいる学校で三年間過ごすつもりか。早々に転校した方がいいのではないか?」

「こんにちはっ!!おかえりなさいませっ!!いいえ転校は致しませんっ!!」

 サチエの声量が格段に上がった。


「っ・・!わかった、”ただいま帰った”・・・!!なんで転校しない!!」

 このような態度も対応もされた事がない楓は若干イラつきながらも、話を先に進めることが目的のために譲歩してサチエの挨拶に返答した。


「自分でその学校がいいと思ったからです。一緒の時期に通う人間のことまでは知りませんしどうでもいいです。多分、楓さんの学校だっていくら金持ちの上品の集まりのように見えたって、裏じゃ女性はみんな一緒です。中学生、高校生なんてみんな一緒ですよ。私がどこの学校行こうが変わらないんです。今度ご自身の学校の女子が、女子だけで集まってるところにでもこっそり覗きに行ってください。口悪いですよ。とりあえずお鞄とジャケット下さい」


 なんなんだこの女は。今までのメイドと違って態度も失礼・・・いや、挨拶を返さないで話をいきなり始めた自分の方がどちらかと言うと落ち度がある・・などと珍しく省みた楓。言われた通り鞄と制服のジャケットを渡す。それを受け取り管理するのが彼女の仕事だからだ。



「お前、今の学校にいるのもったいないだろう。ウチの学校に来たって良い。編入の手引きだって椿にさせる。頭は悪くないんだ。学力的にも入ってからそこまで苦労はしないだろう」


 左手に鞄を持ち、右手でジャケットの襟元を持つ。もちろん皺にならないように指数本で。


「大丈夫です。お気遣いなく。私はここで自分の仕事を全うするだけです。私を憐れんでいるのですか?それはあくまでも貴方の価値観がそう思っているだけです。私はかわいそうなどと自分の事を思ったりしません。私に失礼ですから。逆に私に対して嫌がらせをしているなら、その嫌がらせをしている人たちを『かわいそう』と思います」


「・・・たまにそういう人がいるよな。でも俺はいつも思ってた。負け惜しみなんじゃないかって」


「だからそれが貴方の培ってきた価値観だけで計算された感覚や感情と思考の話です」


「お前、高校生らしくないな」


「貴方も似たようなものでしょう。私、もうタイムカード切ってて勤務中なので、私に関する無駄話はこの辺にしてください。鞄とジャケットはいつものところにかけておきます。今日はこの後談話室でどなたかと会うんですよね?行ってらっしゃいませ。では失礼いたします」


 そう言ってサチエは長い廊下を歩き出した。しばらくサチエの後ろ姿を見ていた楓。サチエが角を曲がり見えなくなった途端、口から言葉がこぼれた。




「面白い女だな」



 サチエが曲がった角と反対・・・楓の後ろの角からその光景を見ていた者が実は一人いた。


「・・それ、実際に言ってるやつ初めて見た。待って、ちょっと俺が恥ずかしい」

「椿、ぶっ飛ばすぞ」

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