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第2話『いえ、お断りします。』

「おい、サチエ。なんであんな事言われて黙ってるんだよ」

「何言ってるんですか。何も言わない契約ですよ。私を契約違反させたいんですか?無理ですよ?こんな高時給手放すわけないじゃないですか。と言うか、あの子達怯えてましたよ、今回のは不問にしてあげてくださいね」

「気が向いたらな」



屋敷に入った神部(カンベ) (カエデ)の後を追い、部屋まできた"メイド"の【サチエ】。

そう、彼女はこの屋敷のメイドである。そして、年齢は神部楓と同い年。つまり、彼女も高校生なのである。

サチエは話しながら、楓の鞄、次いで脱いだ制服のジャケットを受け取りる。


「それより本当に女子の制服は全身真っ白なんですね。男子はジャケットだけが白ですけど。この白い制服ってお母さん泣かせですよね。あとミートソースパスタとカレーうどん絶対食べられないですよね。学食にないんですか?もしやカレーうどんどころかカレーもないんですか?あれ?カレーって知ってます?」

「お前一昨日カレー作ってただろ、馬鹿にしてんのか」

「あぁ、そうでしたね。他の方から一般家庭の料理が食べたいって言われたので作りましたね」



神部家で働く者は、情報管理を徹底する事を雇用の際に言われている。先ほどの件では、"神部"と表札が出ているので、神部の家である事は公開しているが、

神部家の誰が住んでいるかまだはあえて口にしない様に言われている。他にも神部の屋敷は数戸あり、ライフスタイルに合わせて途中で住む屋敷を他の屋敷に変える者もいる。

また【神部】はあまりにも有名な為、週刊誌などに張られる時がある。余計なことを話さないように教育されるのである。

「家の事は別としても、同い年で自分を全く知りもしない奴に失礼な事を言われたんだぞ?それに関しては言い返したって違反にはならない。なんで言わない?」

「慣れてます。いじめら歴が長いので」

「変な言葉作るな」







サチエが神部家で働く様になって、5ヶ月が経つ。サチエは、高校に入学して1ヶ月で働き始めた。






ーーーーーー……






「えー…(アキ) 幸枝(サチエ)さんね。あぁ、高校入ったばっかりなの?へー。あ、清掃員の希望ね。ハイハイ」



(アキ) 幸枝(サチエ) 15歳。高校一年生。入学して1ヶ月経った5月のGWに、神部家に清掃員の面接にやってきた。

面接はベテラン執事風のおじいさんが行っている。

「私の家は、父も母も働いており、家事は私がやることが多いです。妹と、家を汚し盛りの小学生の弟がおります。掃除は好きですし得意です。よろしくお願いします」

「家でも家事掃除やってるのにうちで働く時間あるの?」

「お金が必要なので」

「あれ?なんか追われて」

「ません。個人的にお金が欲しいのです」

「まぁ、高校生はアルバイトして稼いだお金で欲しいもの沢山買いたいお年頃だからね」


お金が欲しいサチエは、時給の高い求人に飛びついた。しかし、それは詳細を伏せて"清掃員"とだけ表記されていたので、恐る恐るだった。結果、大企業の神部の豪邸清掃員であった。

大豪邸で清掃員、つまり、決まった人としか話さなくて良い事に人見知りのサチエは喜びを覚えた。

学校が終わったら神部家へ向かう。

途中のコンビニでおにぎりと安いホットスナックを一つずつ買って行くのがお決まりのルーティーンである。


屋敷の奥に、勤務する人たち用の休憩部屋や更衣室がある。そこで食事をして、着替えてタイムカードを切る。そして、黙々と豪邸の窓枠、壁、廊下の電球などを磨き上げていく。

高時給で人と話さなくて良い。天職だ!!とサチエは掃除に燃えていた。






清掃員のバイトを楽しくこなしていたある日、

可愛らしいメイドさんが泣きながら他の職員に連れられて従業員部屋に向かった行った。

その様子を、電球掃除をしていたサチエは脚立の上から眺めていた。眺めながらにして手はしっかり動いている。サチエが神部家にきて1ヶ月。短い1ヶ月の間にこの光景を数回見た。全員若い女性だ。全員メイドだ。

これは、規則を破った女の子の行く末の姿なのである。



現在、神部グループの稼ぎ頭は40代が中心である。

今の稼ぎ頭と言うのは、グループ会社の各社長達や重役である。その、40代前後の稼ぎ頭の子供達がサチエと同じ年代である。子供と言う事は、次世代の会社を担う者達である。

稼ぎ頭の親は仕事で忙しい。だからこそ、この神部家では執事、メイド、料理人、清掃員がいるのである。

特に、メイドには学生の子供達のサポートをしてもらっている。

そして、そのメイドのアルバイトにかこつけて迫り、玉の輿を狙う女性が多いと言う事だ。


全員が将来有望、眉目秀麗。

女性たちは、徐々に次世代たちと仲良くなろうと頑張るのだが、あまりにも反応がない為か次第に焦りだす。業務に関係のない必要以上の会話が増え、個人の連絡先を聞こうとしたり、ボディタッチを行う。

これらは全て禁止事項である。一般的、社会的にも行為自体は問題のないものもあるが、神部家で働くアルバイトは禁止事項として扱っている。

これを決まりとして説明を受けた上で契約をしているのだ。しかしながら、この決まりを皆破ってしまうのである。



そんな光景を見ていた時、ある執事がサチエに話しかけてきた。その執事は、この神部家生まれでありながら後継候補を辞退し、執事をしている【神部(カンベ) 椿(ツバキ)】である。


「いや〜、今の大学生のメイドさんがね、規則を破ってアイツらに迫っちゃった訳よ!確かに一生懸命仕事頑張ってたし、本当によくやってくれてたんだけどさぁ〜、決まりは決まりだし、てか迫っちゃダメだよねぇ!?


って事で、ぶっちゃけこう言う事続きで次世代達のメイドいないの。ね?ほら、アイツら金あるし顔もいいし美味しいしって思うでしょ?」

サチエがこの光景を初めて見たと思った彼は説明がてらに簡単に、軽く話しかけた。

「美味しいってなんですか。美味しく頂いちゃダメな規則じゃないですか。『ね?』って何ですか」

「って事で頼むよ!アイツらのメイドやって!!ほら!メイド服って女の子の憧れなんでしょ?」

「いや、会話のキャッチボール出来てません」

「フリフリ着れるよ!!」

「いえ、お断りします」






ここ一週間、サチエはイライラとしている。

それは、あの大学生メイドさんの泣きながら連行の日以来、神部 椿にしつこくメイドをやってくれと言われ続けているからである。

「頼むよ〜!あんなこと続きだったから採用の募集要項を見直すって話になって、修正が入るから、その間のメイドがいないと困るんだって!ちょっとの間だけで良いからさ!」

「人はそう言って都合が良くなった場合、ずっとさせるんですよ。そもそも私にメイドは務まりません。私のサイズのメイド服なんてないでしょう」

「・・・ちょっとで良いから痩せてくれない?」

「訴えますよ」

ふくよかサイズのサチエが着れるメイド服があるかどうか、言われて一瞬たじろいだ神部 椿はあろうことかサチエ側にサイズ変更をするように頼んできた。



その翌日

「あーあ!メイドがいないから!メイドがいないから!楓が制服をその辺に放り出してシワに・・!!シワがついてしまった!!これじゃ予備の制服を出さなければ・・・!」

わざと下手な芝居じみた事を、窓拭き掃除中のサチエの横で言い始めた。

「予備あってよかったですね」



その翌日

「誰か・・・!誰か学生たちの布団を干してくれる人はいないか!?」

「というか、貴方は執事ですよね?貴方がやれば良いんじゃないですか?」

「サチコちゃんはここに学生が何人いると思ってるのさ!」

「サチエです」



その翌日

「そろそろ衣替えなのに・・・」

「それはメイドはなく個人の範疇では?」



その翌日

「ねぇ!流石に俺に冷たくない?!」

「採用の募集要項の修正まだ終わらないんですか?」



ことごとく神部 椿を蹴散らしているサチエだった。清掃員の仕事は、毎日掃除箇所が決まっており、指定された場所を清掃するだけで良いのである。もちろん、掃除自体は簡単な箇所や掃除方法の日もあれば、薬品を使ったり、高所の清掃をする日もある。しかし、一人で黙々と作業が出来て高時給のこの仕事が好きなサチエはどうしても職種を変えたくないと頑なだった。


(だって、目的のモノも余裕で変える時給で、毎日コンビニのホットスナックが買ってもお釣りがくるこの高時給。人に気を使わない天職。私のための仕事だわ)

そう思いながら休憩室に行くと、調理のパートのおばさんが先に休んでいた。

「あら!サチエちゃん!久しぶりね〜今日も掃除してて偉いわねぇ〜」

「佐藤さん、こんにちは。お疲れ様です。掃除楽しいですよ」

「私なんかもう、腰も肩も痛くてねぇ、そろそろ辞め時かしら。寸胴とか重くて持ち上がらないのよ」

「あの寸胴30リットル入るやつですよね。持てなくても何にもおかしくないですよ」

「孫の抱っこももう辛くてねぇ」

「お孫さん9歳って言ってましたよね。寸胴と大体同じくらいですよ。抱っこできなくてもおかしくないですよ」

「そういえばサチエちゃん、メイドに誘われてるんだって?」


休憩時のおやつとして買っておいた新作のグミをコンビニの袋から出したところでメイドの話をされた。

「そうなんです。そもそもおかしくないですか?メイドで雇うのって、大学生の若い人たちばっかりです。そりゃこの家の若い方たちは狙われますよ。というか、メイドという嫁探しをしているのかと思ったくらいです。正社員で20代中盤の方や、パートでいいなら主婦を雇えばいいのにって思ってます」

言って、グミの袋を勢いよく開けた。そして佐藤さんに二つ渡した。


「それはね、大学生あたりの優秀な女性を見つけたいんですって!前に執事長が言ってたわよ!」

「・・・じゃあ、メイドとして雇って様子見て、理想の働きが出来る人だったら《神部》のどこかしらの会社で正社員としてオファーするって事ですか」

「なんかね!そんな感じみたいよ!」

「(だから大学生が多いのか)」

と思いながらサチエはグミを口に入れた。

そして衝撃を受けた。



「佐藤さん、このグミめちゃくちゃ美味しくないですか?!私はすごく好みです!」

「私も〜!やだこれ美味しい〜孫に買って帰ろうかしら。なんてグミ?」

「レモンのふりしたオレンジグミって書いてあります」


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