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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第16話 『 何も言ってません』


 フリーズした頭を強制的に再起動させるサチエ。

 そうか、この人は目の前の人間が何を考えてるかが大体わかってしまうから、渡された時の相手の気持ちに下心や裏があると気づいてしまうのだと。

 一般の人が喜ぶ場面で素直に喜べない、なんなら腹が立ったりすることもあるだろう。素直に気の毒だと思ってしまった。


「まぁ、そう思うよね」


 感じ取られてしまった。このように”気の毒だ”と思った事が伝わってしまう。それに対してまたも”気の毒だ”と続けて思う。気の毒のループが止まらない。気の毒だなんて思うなんて失礼なのだが


「はい、気の毒な場面が多かったと思います」

「はっきり言うね」

「取り繕われた方が嫌じゃないですか?気の毒、大変そうだと思いましたが”かわいそう”とは思ってません。きっと、得した事だってあるでしょうから」

「さっぱりしてるね。そうなんだ、人の気持ちがわかるって良いことばっかりじゃ無いんだけどさ。でも最近サチエに会って、結構読み取ったこと隠さずに話してるけど、ちょっと前まではちゃんと隠してたんだよ」

「良い使い方がないと思われるなら、その方が良いと思います。双葉さんのためにも」


「いやいや、人の気持ちがわかりやすいんだから俺の事はどうでも良くない?だからさ、わかる分、”人の気持ちに応えないと”って思うようになってさ。よく言うじゃん。人の気持ちを考えなさいって。人が望んでることを、他の人よりは俺の方が気持ちを汲み取れるだろうから、本人の希望するように叶えてあげられるじゃん?多分だけど」


「そう・・・ですね。他の人よりはわかるかも知れないですね」



 先週末感じた違和感はこれだろうか?近いけどちょっと違う。そんな感じがする


「サチエ、なんか悩んでる?困ってる?」

「多分そうだと思います。でも、自分でもなんかわからないので、説明は出来ません」

「そう?なんかできることあったら言ってね?」

「・・・いえ、言いません。逆です、私がメイドなので、何かあれば私に言って下さい」

「違うじゃん!サチエの悩みの解決のためだよ!!」

「わかりません、わからないのでとりあえずそのお菓子を食べましょう。食べて解消です」



 一般的に、学生のプレゼントは”ネタ”として面白いものを渡される事もあるが、大体は相手のことを思って喜んでもらいたくて選んで渡すものだとサチエは思っていた。もちろん、渡す相手によっては下心がゼロではないだろう。学生の男女なら恋ごころをこめて渡している・・・場面を見たことがあった。

 しかし、目の前の彼・・・彼らは、そういった甘酸っぱい話じゃない。生まれた家が家なだけに、他人の”期待”と

”汚い下心”。そして”圧力”さえも込められる時がある。


 それが、彼らにとっての当たり前。更に察しの良い彼にはそれが包み隠さずに伝わる方が多い。




・・・———




「あ!サチコちゃんごめん!楓と双葉の夏服持って行ってくれる?今郵送で届いたんだよ!俺は他の奴らの部屋にこれ持ってくから!」

 執事室に戻ると、ちょうど椿が楓たちの学校の夏服を持っていた。夏服とはただの半袖のワイシャツかと思いきや

、まさかのちゃんとデザインされた制服だった。夏服なのに少し厚みがありちゃんと型が崩れないような生地と造りである。


「・・・希有(けう)なデザインですね」

「あー、そっか。俺もこのデザインだったか気にしなかったけど他の学校じゃただの半袖ワイシャツだよね。テレビのドラマで見たことある」


 ドラマでかいな。と心の中でサチエは突っ込んだ。


 部屋を出たばかりの双葉の元へまた戻り、手渡しをして次は楓の部屋へと向かった。





「サチエ、双葉はどうだ?大丈夫か?」

「何がですか?双葉さん何かあったんですか?」

「いや、考えを読まれる事への不快感があるかどうかだ」


「あぁ、大丈夫ですよ。バレたくないものもちょっとはバレましたがそんなに影響はないですし。万能で考えたことが全部わかるわけじゃなさそうなので。同時に複数の思考を巡らせると読み取りずらい模様です」

「研究熱心だな。サチエが不気味に思わないならいい。たまには構ってやってくれ」

「たまににしたいのですが会う度に構ってちゃんを発動されてる気がします」

「・・・すまない」

「いいえ。はいどうぞ、夏服です。大丈夫です。私、ああいう人嫌いじゃないんで」

「そうだ、サチエ。お前・・・」



「だーーー!!うっせぇなっ!!夏服取りに来ただけだよ!!離せって!!」

 楓の言葉を遮るようにして怒鳴り声が響いた。


「いいえ、なりません。今日はお父様も夕方には戻られます。お話し合いをなさって下さい」

「誰がするかよ!!お前もサイボーグみてぇにしてんじゃねぇ!離せって!!」



 自室の中の扉の前にいた楓が廊下に飛び出すようにして出た。



紅葉(もみじ)っ———!!帰ったのか?!」

「楓っ・・・!夏服届いてるってクラスの奴に聞いたから取りに来ただけだよ!!明日から着て良いんだろ?!湿度高ぇから長袖だとうざいんだよ!!で!!離せって!!」


 髪色が真っ赤な少年が、長身の黒服に腕を掴まれていた。


「楓さん、このタイミングで申し訳ないのですが、彼はこの屋敷の方ですか?制服は楓さんと同じですが」

「あぁ、あいつも同じ年の生まれ。神部 紅葉(もみじ)。年明けからあまり家に帰って来てないんだ」

「強者ですね」


「なになに?なんかあったの・・・おぉ!!紅葉じゃん!」

「双葉っ!校舎違うから中々会わないな!ちょっと久しぶりじゃん?!」

「・・・で、捕まったと」

「そうだ!おい!離せよ!!親父が帰ってくる前に俺帰るから!!おい椿どこだよ?!夏服だけ頂戴って!!」

「なりません。一度談話室へ行きましょう」

「行かねぇって言ってんだろ?!」


 そのまま紅葉は談話室に連れて行かれた。



「嵐のようでしたね。それよりあの方、『親父が帰ってくる前に俺帰るから』とおっしゃってましたが、どちらへお帰りに?」

「多分、連絡なしに神部の他の屋敷を内密に一部屋借りたりとか、友達の家を渡り歩いてる感じだね」

 双葉が言う。


「神部の屋敷なら良いのでは?」

「良くないんだよねーこれが。話すと長いし面倒だし。それに見てわかるでしょ?あの髪の毛の色、鞄の他に持ってたあのデカいケースなんだと思う?」

「楽器ですか?」

「そう、ギター。紅葉はね、バンド組んでて将来はそっち方面に進みたいんだって」

「・・・紅葉さんは御二方と同じ生まれで同じ教育を受けて来たのでは?」

「「もちろん」」

「ほぉー・・・」


 神部 紅葉は、他の神部の者と同じ教育を受けてきた。他の同じ年の神部の者が、『今後の神部を支えて行く』と思っている中、紅葉だけは別の道を見つけて歩み始めたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「こうならないために、神部の教育は徹底しているのですね」

「そういう事ー」

「音楽ならピアノやバイオリンもあったのに。もしくは好きになったのが虫とかの方がまだマシだ。虫の研究だったら将来的には科学的、動物学的や環境保全とかで何かしら家の者が納得してくれる可能性があったのに。なぜ、よりによってバンドだったのか」




「良いんじゃないですか、紅葉さん」




 楓と双葉はサチエをみた。目を見開いている。


「良いじゃないですか。ごく当たり前で、何もおかしい事なんてないですよ。彼が怒鳴るのも、家に帰ってこないのも、自然なことじゃないですか?むしろ好感すら持てます。あなた方二人は他人の心を優先しすぎているからですよ。まぁそこに、自分にも得することとか良いことがあるからかも知れませんけど。紅葉さん、別におかしくないと私は思いますけど」



「サチエは紅葉みたいな男が好みなのか?」

「ヒモ男が好きなのか?!まぁアイツは金には困ってないけど?!」

「双葉さんの駆け出しバンドマン=ヒモは何処から得た情報ですか?」



 その後、サチエが仕事を終えて帰るまでにまた屋敷が騒ぎ出した。

 なんでも、談話室で鍵をかけておいたはずなのに紅葉が脱走した。入れられていた部屋は2階だ。窓から木を伝って逃げたらしい。


 サチエが着替えを終えて更衣室を出ると、双葉が待っていた。


「・・・」

「いや!話したい事があったからで!!まぁ・・・待ち伏せみたいなのは認めるよ」

「何も言ってません」



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