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神部家のメイド、サチエです。 〜清掃員からメイドになりました〜  作者: 杉崎 朱


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第15話 『 涙が出る話ですね』 『出してから言ってもらっていい?』


「あんなに懐くか?」

「はいー!それ嫉妬って言いますー!」

「フォッフォ」



 執事室の人口密度が増えているここ数日。

 執事長のじいや、椿、楓が話している。

 そこに出勤してきたサチエと、サチエを待ってた双葉だ。双葉の懐きように楓が思わず口に出した。


「サチエ!今度これ買ってきて!お金は経費精算して!じいやも良いでしょ?!」

「・・・お金と自由はあると思ってたのですが、そんなに行動を制約されてるんですか?」


 サチエに買い物を頼みたいと言う依頼だ。


「俺たち、学校は車で送迎だからさ。寄り道できないんだよね。しかも乗り合わせだからさ、他の奴と何人かで一緒に帰ってくるの!」

「送迎なんて楽で羨ましい限りだと思ってましたが放課後の自由は無いんですね」

「そうなんだよ!!学校帰りにラーメンとか食べれないからさ!!せめてこの漫画雑誌を買ってきて!見てみたいんだって!」

「休日に参考書買うって言って外出して本屋で買えば良いじゃないですか」


「サチエさん、当屋敷の制約はとんでもないのです」

 ここでじいやが喋った。助け舟かと思いきや

「えーじいやも敵ー?」

「双葉さん、残念ながら、教育方針まではじいやも変えられません」

「マジかー」


 この一族の教育の徹底ぶりにサチエは昨日の事を思い出した。

 双葉にチーズバーガーを1/3分けてしまった。やはりバレたらクビかもしれない。メイドをクビなら良いが、清掃員にも戻れないと次のバイトを探すのが面倒だ。黙っておこうと心に決めた。


 きっと、漫画など自由な発想のモノを子供に与えたくないのだろう。この人たちは神部を継がなくてはならない。余計な情報を入れて”なりたいもの”を見つけられては困るのかもしれない。これは洗脳の一種かもしれないが、よそはよそ、うちはうちである。そう、なんと言われようと教育方針に口を出すのは良くない。


「あー、まぁ、洗脳っちゃ洗脳だよね、うちの教育って」

「・・・っ!!」

 サチエが双葉の方を勢いよく振り返った。

「・・・双葉。サチエの思考を読んだのか!」

 楓が眉頭を寄せた。


「あぁ!!ごめん!悪い!いやぁ、洗脳とか面白い表現だなって思って!別に家のことを悪く言ってるつもりがないのわかってるから」

「なんてこと言うんですか。言わなきゃバレないのに。反逆者扱いされたらどうしてくれるんですか」

「ウチは異質だから他からなんて言われても仕方ない。問題はそこじゃない、他人の思考を読むな。読んでも口に出すな」

「ごめんてー。サチエもごめん」

「クビにならなければ問題ありません」

「サチコちゃんドライー!」



・・・———



「洗脳って、言われてみればそうだよね。じいやも俺たちが洗脳されてるっていう風に思ったことある?」


 楓、双葉、サチエが執事室を出た後に椿がじいやに話しかけた。

「・・・当たらずとも遠からずの事は考えたことがあります。本当に、やりたいと思うことに出会えないとしたらそれはとても悲しいことです。でも、出会わなければ、悲しむ事もありません。複雑ですね。とびきり相性の良い仕事や楽しい事があるのやもしれませんのに。

 だからこそ、できない今の環境で出会ってしまったら、本当に悲しいですけどね」


「それねー本当」


「・・・紅葉さんも、良き方向に行けると良いですね。ご本人も、一族も納得できる方に」

「そうだね」




 椿はそう返事をしながら窓の外を見た。新年度になってそろそろ二ヶ月が経つ。梅雨も入った。季節が一つ変わるこのタイミングで、入学してからろくに帰ってこない弟分の事を思う。見上げた曇り空に暗さに、今後を重ねて少し不安になった。






・・・———



「そんなに深いことまで聞いて良いんですか?」

「いいよ、サチエだから」

「多分夏休みあたりにはただの清掃員に戻りますけど?」

「いいよ、サチエだから。清掃員になっても話しに行くから」

「いや、私は仕事中なので・・・」

「なんでそこ冷たいんだよ!!」


 双葉の部屋で、双葉は机に向かいながら、サチエは雨が入らないように少しだけ窓を開けながら掃除をしている。


 昨日会った、双葉の母親の話の続きだ。



「それで、俺が小学校4年の時くらいかな?屋敷から追い出されてね。妊娠中の相手によくもそんなこと出来たもんだよ。だから、その後に生まれた妹とはそんなに遊んだこと無い。で、さっきも言ったけど学校終わったら迎えがいるから帰りに寄り道して会いに行くこともしないし」

「・・・そもそも、それを守ってる時点で偉いですね。でも、ストレスたまりません?」

「溜まるって!!だから買ってきてもらいたいものあるの!サチエから貰えば合法でしょ!昨日のハンバーガーも美味しかったし!」

「絶対にバラさないでくださいね。バラしたら私の肉でバーガーを作られそうな気がします」

「あははははは!!!」



 長い定規で線を引きながら笑う双葉。湿気を気にして窓を閉めたサチエ。そのまま会話が続く。


「でさ、別に金はあるっちゃあるんだけど、良いところ住むとまた問題の火種になるからって母さんは狭くて安いアパートに住んでるんだよ。だからさ、俺が設計した、とっておきの家に住んでもらいたくてね」

「涙が出る話ですね」

「出してから言ってもらっていい?」

「それで建築コースに?経営の方は関わらなくていいんですか?」

「多少は関わるさ。経営は経営で大事だけど、その会社のビルとか、子会社とか、施設作る時に建築士や設計士が必要でしょ?外部の人間に細かい説明と文句をつけて修正を繰り返すより、そもそも一族に建築士を抱えた方が早いって話」

「・・・建築は、双葉さんのやりたい事では無かったのですか?」


「うーー・・・ん。他よりかは建築とか設計してる方が楽しいかな。一応、経営と建築以外も選択肢はあったけど、興味ないものばっかりだったから。医者とか俺嫌だし。建築なら、家を出された母さんにも何かできるかなって思って。そんなに家を恨んでるわけじゃないけど、母さん追い出して、俺たちの将来を勝手に絞り込んだんだ。追い出した母さんが幸せに暮らせる材料に俺がなったら神部からしたらなんかムカつくって思わない?」

「ムカつかれたいんですか?」

「ちょっとはザマァみろって思う」

「いい性格してますね」





「大きい出窓で、綺麗な庭が眺められる家を設計したいんだ」

「じゃあ綺麗にするために庭師が必要ですね」

「サチエやる?」

「月30万円頂けるなら勉強します。あと、同僚は要らないです」

「一人で頑張ってよ。二人って・・・庭に60万円は流石に俺も払わないかな」


 一見冗談ばかり言って軽そうな双葉だが、心が読めるからか、他人への思いやりも強そうだとサチエは感じた

しかし同時に何か心に違和感を覚えた。



「庭師は庭の規模にもよるが一般家庭一軒だけにつきっきりで月30万円は高いだろう。やるならこの屋敷分もやれ。だったら俺が払う」



「「・・・」」



 喋ったのは楓だ。


「おかしいですね、いらしたんですか」

「嘘っ?!お前いつからそこにいたのっ?!」

「最初からいただろう。一緒に入ってきたんだ」

「そうでしたか、双葉さん、私はバーカーになるそうです」

「ちょっ!大丈夫だって!楓だって広島焼き作ってもらったんでしょ?!お相子でしょ?!」



・・・———




 土日を挟んで新しい週。月曜日、またサチエは学校が終わってからすぐに屋敷へと向かった。

 コンビニでいつも通り調達をする。今日のおにぎりは角切りチャーシュー入りにしよう、そしてホットスナックのスパイシーなチキンも買ってしまおうと考えていた。

 そして、お菓子のコーナーの前を通った。



 「・・・お菓子くらいなら」







「うわっ!マジで?!漫画じゃないけどすげぇ嬉しい!!」

 双葉が大喜びした。サチエからお菓子の差し入れだ。

「えー!現金支給で良い?経費精算はダメってじいやも言ってたし!」

「え、要りませんよ。差し入れです。課題も大詰めだって聞いたのでこれで糖分摂取して頑張ってください。あ、ごみはこの袋に入れておいてください。明日の掃除で回収して従業員用のゴミ箱か私の自宅で捨てておきますから。屋敷のゴミにするとバレてバーガーにされる可能性があるので」

「ゴミまで漁るかよ、大丈・・・差し入れ?」

「じゃあプレゼントって事で」

「・・・」

「え?そんな変なこと言いました私?」


「いや、言葉以外の感情が読み取れないから」

「はぁ?」


 言葉の意味を一瞬理解できなかったサチエ。

 

「(何言ってんだこの人)」

「今、俺のこと”何言ってんだこの人”って思ったでしょう」

「読み取れてますね。能力が消滅したわけじゃありませんね」

「でも、純粋な差し入れとかプレゼントって気持ち以外読み取れなかった」

「???だから、純粋な差し入れとか、プレゼント以外の気持ちが無いからですよ。何言ってるんですか?」



「え、だって、他意のない品物なんて貰ったこと無いから」



 サチエの頭が一瞬フリーズした。

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