わたし
カクヨムにて投稿した短編『わたし』をこちらでも投稿します。よろしければご覧ください。
———わたしは、何処にいるのだろう。
「これさぁ、こんなんじゃ売れないよ。前原。いいか?売れるモン書け、売れるモン」
この船は、何処へ行こうとしているのだろう。
「はい。書き直します」
わたし、前原奈々には物語を書く力はない。そんなの百も承知だ。
書いても、「書き直し」、書いても、「書き直し」……。
「全くさ、今の読者は物語に社会性なんて求めてないんだよ!!!最後に言う、書き直せ」
———わたしは、ここにいるのだろう。
「そうそう!!!これだよ!これ!」
そう、書いたのはわたしだが、そこに『わたし』はいない。そこから、"勝手に"書き足され、じぶんがどんどん薄まっていく。そんな気がした。
だけどわたしは、諦めなかった。
「私の書きたい物語はこんなのではありません。たとえ、それが読者にとって薬にも毒にもなろうと私は、『わたし』を書き上げます」
———奈々。よくお聞きなさい。物語というのは性別の壁や人種の壁さえ、越えられる。とても素敵なたからものなのよ。
そこからおばあさんは川へ洗濯に、おじいさんは山へ芝刈りに行ってしまった。
暇になった「僕」は彼女に電話をした。
———こんばんは。原稿進んでる?
ううん、
———そか。今からそっち行く用事できたけど何か買ってきて、欲しいものは?
ハーゲンダッツのストロベリー、
———わかったよ。それじゃあ、行くね。今から。
プツ、プープー、と時代遅れの音が鳴る。でも私はこの音が気持ちいいのだ。ほしのこえや螺旋矛盾?あ、矛盾螺旋か。とかね。地の文は、そうだなあ、太宰府かな??
わたしが旅に出る理由も大体百個、かなぁ。それくらいか、もっと多いかも。だから物書きって面白いのよ。
何にでも成れるから。
あれ?じゃあ、
———『わたし』は、何処にいるのだろう。