忙しい人のための「PanDemonicA/4」パンデモニカ第4部
2024/8/16時点です。本編の進展に合わせて更新します。
──あらすじ──
物語は、チューヤがウサコという少女と出会うところから始まる。ウサコは家出少女で、マフユを経由してチューヤに預けられた。
チューヤは、マフユ、ウサコとともに上野動物園の境界化に巻き込まれ、ケートの助けを得てなんとか生き残る。そのまま上野界隈のミッションを処理するなかで、東京のヤクザに絡んだ事情を解きほぐしていく。
鍋の日。大事な料理人のリョージが、姿を現さない。どうやら月島で、ツヨシという少年が引き起こそうとしている事件に、巻き込まれているらしい。
ツヨシの存在は舎人公園の案件とも絡んでおり、彼がオンラインゲーム「オマリーメーカー3」で作成したトロルの呪いをかけたコースは、現実世界にも影響を与えているようだった。
チューヤたちは、リョージを助けるため月島へと赴く。事件の背後には、ツヨシの父親が関わる「無限増殖炉」の存在、そしてツヨシとダークウェブ「バロック」との関係が浮かび上がってくる。
その流れに沿う形で、小岩の過去にある事件に挑むことになる。それはナミとイッキがたどる、10年前の「藤テリア通り虐殺事件」の記憶と重なっていく。
この事件は、引っ越しババアと呼ばれる萬田家の老婆の行動が引き金となり、コンラッドという殺人鬼が街を襲ったものだった。
事件後、住民たちは街を離れ、ナミは研究者として、イッキはホストとして、それぞれの道を歩んでいた。そうして離散した家族のなかに、ツヨシの家族もあったのだった。
彼らの行動は、東京のエネルギー問題、そして世界の運命を左右する事態へと発展していく──。
──作品の宗教的見地からの考察──
この作品は、善と悪、光と闇といった単純な二項対立ではなく、より複雑な力学によって世界が動いていることを示唆しています。
宗教、特に一神教的な価値観に対する批評性が、作中の様々な要素に見られます。
●歴史上の人物の解釈と利用:
作品では、菅原道真のような歴史上の人物が、時代や人々の思惑によって「学問の神」や「怨霊」といった全く異なる側面を持つことが描かれています。
これは、宗教における聖人や預言者といった存在もまた、解釈や利用によってその意味や価値が変化しうることを示唆しています。
●宗教組織の欺瞞性:
神学機構は、表向きは神の教えを説く組織でありながら、その実態は「支配」を目的とした権力機構として描かれています。
過去の異端審問のように、自分たちの都合の良いように教義を解釈し、恐怖によって人々を支配しようとする宗教組織の負の側面が浮き彫りになっています。
●宗教と政治・経済の結びつき:
作品では、宗教団体である舎利学館が、政治や経済と密接に関係していることが示唆されています。宗教が純粋な信仰心だけでなく、利権や権力と結びつくことで、腐敗や堕落を生み出す可能性を示唆しています。
●多様な価値観の共存:
作品には、キリスト教、イスラム教、仏教、神道など、様々な宗教や宗派が登場します。
それぞれが異なる価値観や教義を持つ中で、主人公たちは特定の宗教に盲信することなく、状況に応じて柔軟に対応しています。これは、現代社会における多様な価値観の共存と相互理解の必要性を訴えかけているようにも解釈できます。
●絶対的な正義の不在:
作品には、「善」や「正義」を体現するような絶対的な存在は登場しません。それぞれの登場人物が、それぞれの立場や信念に基づいて行動しており、何が正しくて何が間違っているのか、明確な答えは示されていません。
●個人の選択と責任:
宗教や思想に絶対的な拠り所を見いだせない状況下で、主人公たちは自らの選択と責任によって行動しています。
これは、現代社会において、個人個人が自分自身の価値観や倫理観に基づいて生きていくことの重要性を示唆しています。
これらの要素を通して、作品は既存の宗教観や価値観を相対化し、複雑な現代社会における人間の生き方や倫理観を問いかけるものとなっています。
──本作における「境界」概念の象徴的な意味合い──
本作における「境界」は、単なる物理的な空間の隔たりではなく、登場人物たちの内面、社会の矛盾、異なる価値観の衝突などを象徴的に表しています。
●内面における境界:
登場人物たちは、それぞれ過去やトラウマを抱え、それが「境界」となって他者との間に壁を作っています。
特にヒナノは、過去の出来事から心を「境界化」し、他者との距離を生み出しています。
●社会の矛盾を映し出す境界:
東京という都市は、華やかな表の顔と、貧困や格差など、光が当たらない裏の顔が「境界」によって隔てられています。
「境界」は、そうした社会の矛盾や歪みが具現化した空間として描かれています。
●異なる価値観の衝突:
各勢力は、それぞれ異なる目的や価値観を持っており、「境界」はそうした価値観がぶつかり合う戦場として機能しています。
「境界」は、善悪や正邪といった単純な二項対立では捉えきれない、複雑な価値観の対立を表現する舞台装置として機能しています。
●認識の境界:
「境界」は、登場人物たちの認識の限界をも象徴しています。
彼らは、「境界」という未知の領域に足を踏み入れることで、自らの無知や限界に直面します。
●過去の傷跡:
「境界」は、過去の出来事や歴史の傷跡が色濃く残る場所として描かれることもあります。
伝馬町牢屋敷跡や、過去の事件現場などが「境界」と繋がっており、過去と現在が交錯する空間となっています。
「境界」を越えることの意味:
登場人物たちは、「境界」を越え、その先にある未知の世界に挑むことで、自らの内面や、社会の矛盾、異なる価値観と向き合わざるを得なくなります。そして、その過程を通じて、彼らは成長し、新たな価値観を見出していく可能性を秘めていると考えられます。
「境界」の多義性:
本作における「境界」は、上記のように多様な意味合いを持つ、複雑で多層的な概念として描かれています。そして、その複雑さゆえに、読者は「境界」という概念について深く考えさせられるとともに、物語に引き込まれていくのではないでしょうか。
現代ファンタジー作品における本作の評価:
設定、人物造形、高次バランスの構造分析
本作品は、現代社会に潜む異世界や悪魔といったファンタジー要素を織り交ぜながら、複雑な人間関係や社会問題を描写しています。
以下では、現代ファンタジーの他作品との比較という視点から、設定や人物造形のレベルごとの構造解析、創作過程における高次のバランスについて、本作を評価します。
1. 設定の構造分析
●レベル1:表層世界(現代社会): 本作は現代の東京を舞台としており、一見すると私たちが生きる現実と変わらない世界観が展開されています。電車、学校、家庭といった日常的な風景は、読者にとって親近感を抱きやすい要素と言えるでしょう。
○他作品との比較: 多くの現代ファンタジー作品と同様に、本作もまた読者にとって身近な現実世界を舞台とすることで物語への没入感を高めています。
●レベル2:裏側の世界(境界/異世界): 現実世界とは異なる法則が働く異世界「境界」の存在がこのレベルの中核を担います。
○他作品との比較: 異世界を舞台装置とする点は多くのファンタジー作品と共通していますが、本作の「境界」は現実世界と密接に結びついており、突如として日常に侵入してくるという特徴があります。
●レベル3:高次存在(神、悪魔、神話体系): レベル2の「境界」を支配するのが、神や悪魔といった高次存在です。
○他作品との比較: 多くの作品に見られる単純な善悪二元論ではなく、本作では多様な神話体系が複雑に絡み合い、それぞれの思惑が交錯することで物語は混沌としていきます。
2. 人物造形の構造分析
●レベル1:主人公グループ: 平凡な高校生であるチューヤを主人公に据え、サアヤ、リョージ、ヒナノ、ケート、マフユといった個性的な仲間たちが物語を彩ります。
○他作品との比較: 主人公グループは、特殊な能力を持たない一般人、特殊な能力を秘めた存在、異世界やその住人と強い繋がりを持つ存在など、多様なバックグラウンドを持つ人物で構成されています。この多様性は、読者にそれぞれの立場からの視点を提供し、物語への没入感を高める効果があると考えられます。
●レベル2:協力者/敵対者: 主人公グループを取り巻く、人間社会における協力者や敵対者たちがこのレベルに位置付けられます。警察官、ヤクザ、宗教団体関係者など、それぞれの正義や信念に基づいて行動する姿が描かれています。
○他作品との比較: 本作では、協力者と敵対者の境界線が曖昧であることが多く、状況や利害関係によって立場が変化する様子も描かれています。
●レベル3:高次存在の代理人: 高次存在の意向を代弁したり、その力を振るったりする存在がこのレベルに属します。
○他作品との比較: レベル3の存在は、主人公グループの行動に大きな影響を与えることが多いですが、その真意や目的が明確に示されない場合もあり、物語に謎と緊張感を与えています。
3. 創作過程における高次のバランス
本作は、上記の3つのレベルが相互に作用し合うことで、複雑で多層的な物語世界を構築しています。特に、高次存在の思惑や行動が、現実世界の人間関係や社会問題に影響を与える様子が描かれている点が特徴的です。
●バランスの妙: 高次存在の介入はあくまでも間接的に行われ、主人公たちの自由意志や選択を奪うことはありません。
●読者への挑戦: 読者は、断片的な情報や登場人物たちの行動から、高次存在の真意や世界の真実を自ら読み解いていく必要があります。
4. 総合評価
本作は、緻密に構築された世界観設定、魅力的な登場人物、予測不可能なストーリー展開が魅力の作品です。特に、宗教、政治、経済、歴史といった多様な要素を巧みに織り交ぜながら、現代社会における人間の存在意義や倫理観を問いかける深いテーマ性が評価できます。
既存の枠にとらわれない、複雑で多層的な物語構造は、現代ファンタジーの新たな可能性を示唆するものと言えるでしょう。