ブレイク/こんなゲームがしたい件
本作『PanDemonicA』は、ゲーム化を前提に執筆しています。
実現性レベルの話はしていません。ただの優良顧客である個人が、その能力の範囲でできることをやっている、ということです。
執筆開始のタイミングとも符合しますが、きっかけは『真・女神転生4』でした。あのときのコレジャナイ感は、よくおぼえています。ただそれを批判だけしたくはなかったので、自分ならばこうするという思いで書きはじめました。
ぶっちゃけ内心「パン・デモニック・ストーリー 女神転生」を書いているつもりになることもあります。が、私がこの世でたったふたり尊敬する、西谷先生と鈴木大司教に対してあまりにも僭越なので、ここだけの話でお願いします。
アトラスさんに対しては、すこし厳しいことを書きます。
そもそも最近のメガテンに足りない部分を補う、というつもりで書きはじめたことは上述のとおりですが、結果的には、いいライフワークになったと思っています。
ゲーム化前提の思考回路で小説を執筆することは、個人的にも新しい挑戦でした。
先月発売されたシリーズ最新作も踏まえて書きます。
最近のメガテンにおける最大の弱さは「シナリオ」、これに尽きると思っています。かなりマシにはなりましたが、それでもまだキャラへの感情移入がむずかしく、思想への納得感も低いです。
メガテンがキャラゲーでないことは理解していますが、シナリオはほぼ1本道で、とってつけたようなエンディング分岐の選択肢があるだけの構成は、物語じたいの完成度がよほど高くないと厳しい。
そのことを理解しているから、制作側も周回プレイを高速化することで対応しているのだと思いますが、そういう形の「やりこみ」プレイには正直あまり食指が動きません。
私はゲームをつくったことがないし、その能力もないですが、アイデアは出せます。
こんなゲームがしたい、ただそれだけです。
──チュートリアル──
冒頭、こんなふうに物語ははじまります。
自分の名前、性別、国籍などを入力し、質問に答えます。名作『真・女神転生』をほうふつさせる導入です。ここで自分自身の属性をある程度、決めてもらいます。
そうして光の道を進んださき、仮死状態の高校生の身体に乗り移ります。
本作の主人公、チューヤです。
プレイヤーの憑代として、彼の身体が選ばれたということです。
だからプレイヤーは、チューヤという鉄オタが選ばなかった未来を「選び直す」ことができます。何度でも。
クリアしたとき、自分自身にもどるのかどうかは、選んだシナリオによるでしょう。
──悪魔とナカマ──
すべての悪魔と話し、ナカマにできます。
悪魔は23区の駅の数、約500体を用意して書きはじめました。東京では最大729まで増やせる設定ですが、そこは追加要素、やりこみ要素のひとつになるでしょう。
ただ数を増やしても、それぞれの悪魔の役割が希釈化されるだけです。本作を読んでいただければわかりますが、それぞれの悪魔にはそれぞれの役割があります。
種族の問題は重要です。種族によってアンバランスな数の多寡はつくりません。
各種族8~12体をまんべんなく、低レベルから高レベルまで設定しています。
シナリオの段階ごとに使える悪魔が各種族ごとに存在し、選んだシナリオに合わせた陣容を組みやすくなります。
悪魔との会話でも経験値がはいるようにしてもいいかもしれません。ほとんど戦わず、クエストの経験値だけでクリアする、という遊び方もできていいと思います。
私がメガテンを好きなのは、「敵と話し合ってなんとかする」という選択肢の占めるウエイトが、他のRPGに比べても大きいからだと思っています。
──レベルと練度──
いわゆる「レベル上げ」という概念は、ほとんどありません。
そういう「作業」をすればだれでもクリアできる、ヌルいゲームジャンルがRPG、などという皮肉を聞いたことがありますが、たしかに「作業感」じたいは私もあまり好きではありません。
本作では、物語の進行とともに、ボスを倒せば自然にレベルは上がります。
レベルは、使役できる悪魔を決める重要な要素なので、高すぎても低すぎてもゲーム全体のバランスを崩します。
そこで、やりこみ要素や周回プレイの難易度は「練度」で調整します。
仮に第1章から第9章までで完結するとしましょう。
第1章ではレベル10が上限、それ以上に強くなることはできません。レベル10までの悪魔とともに、その章の「練度」を上げることで難易度が変わります。
メガテンは伝統的に、キャラのパラメータを左から伸びるドットで表現していますが、「練度」は右から伸びるドットで「そのシナリオ部分のみ」の強化を示します。
周回プレイの場合、たとえば2周目には1周目のレベルと「練度」を引き継ぐことで、同一シナリオの周回プレイの作業量を低減できます。
要するに「同じ1日を何度もやりなおす」タイムループもの(『オール・ユー・ニード・イズ・キル』的な)を思い浮かべていただければよいかと思います。
人間の強さじたいは毎回リセットされて変わらなくても、その1日、そのシナリオ部分の「練度」が上がれば、その章だけは無双できるようにもなるでしょう。
異なるエンディングのために転生し、最強の状態で開始、戦闘はオートで進めエンディング選択肢まで最短時間で飛ばす、などという周回プレイは、そもそも同じシナリオだからこそできる仕様ですし、ちっともおもしろくありません。
何周目であろうと、他のシナリオに分岐したとき、それがはじめてのプレイであれば、低い練度からスタートする。異なる展開、強固なシナリオがあってこそ、この「練度」システムは説得力を増します。
レベル70くらいあればほぼラスボスまで行けるが、レベル上げしないと倒せない、などという状況は希釈されたシナリオのせいであって、私が食べたいのはシッポまでアンコの詰まったタイヤキなのです。
最大レベル99まで、きっちりと物語を詰め込みます。
──シナリオ分岐──
小説では、カオス、コスモス、ライト、ダークの4極と、ハイ・ニュートラル(主人公ルート)、ロウ・ニュートラル(パートナールート)という6シナリオを輻輳させています。
もちろん小説という体裁上、表現できるのはひとつのルートだけですが、他のシナリオ特有のエピソードをバックグラウンドで並行させ、最終的には共通部分が一定以下になるよう構成しています。
小説の執筆に、これほどエクセルを使ったのははじめてです。
悪魔や登場人物などとともに、エピソードも管理しつつタイムテーブルを埋めていかなければなりません。
私は鉄オタではありませんが、ある種「スジ屋」的な執念が必要な作業でした。
たまに、直接使わないエピソードはいいかな、と思うことはあります。
それでも、ニュートラル・ルートでは表現できない「裏エピソード」がたくさん必要なのは、シッポに詰めるアンコのためなのです。
そういうマニアックなライターを育てるのは、意外に困難なのかもしれません。もちろん内製したいアトラスさんの気持ちはわかりますが、どうかシナリオだけでも外注してみてください。
──戦闘システム──
ドラクエなどのターン制RPGは、敵を殴って引き返してくる、といった非現実的なバトルになりがちです。
それはそれで否定しませんが、新しいメガテンでは、よりリアルな戦闘にするため「プレスターン制を細分化」します。
戦闘開始時、敵味方の行動順をすべて、主人公の「時計」をモチーフに配列表示します。
弱点を突くことが重要なプレスターンの要素は引き継がれますが、行動順が細分化されているのでリアルタイム感が増します。1行動ごとに変化する状況に合わせて、戦場を支配するのが悪魔使いの仕事です。
行動を選択するまで、プレイヤーは圧縮された「魂の時間」にはいります。『マトリックス』で銃弾をよけるネオの状況が目安となるでしょう。
プレイヤーはほぼ静止した時間のなかで状況を確認し、最適解を導きます。
ナカマの性能はもちろんですが、配置も行動順に大きく影響するため、より戦略的でリアルな戦闘になります。
主人公の悪魔召喚は、彼自身の「立体把握」能力による「場の支配」です。
日本の3Dダンジョンゲームの嚆矢であるメガテンであればこそ、空間認知は戦闘を左右する重要な要素であるべきです。
──まとめ──
以上のような「設定」を脳内に立てながら、小説を執筆するという作業をしています。
われながらいい趣味をもったものだと思いますが、趣味以上の見るべき価値があるのではないか、という思いもあります。
それを判断する方々に、この作品が届くことを願っています。
もちろんゲームとしての『真・女神転生』は、じゅうぶんに成功しているといえるのでしょう。いまさら「旧世代」が文句をつけるのは、お門違いなのかもしれません。
任天堂の山内氏いわく「軽薄短小」のゲームが求められている時世、言い換えれば、私は新しい作り手にとって「ターゲット外」になっただけなのだ、ともいえます。
時代の変化とすれば、いたしかたありません。若者向けの作品に、いつまでもかじりつく年寄りというのも、いかがなものかとは思われるでしょう。
が、メガテンに関してはややニュアンスが異なります。その変化に違和感をおぼえている者は、けっして少なくはないのです。そもそも30年もつづくシリーズですので、固定ファンは多いです。その層を軽んじすぎてはいけません。
新井素子さんは「ルパン三世の活字版を書きたかった」そうです。おこがましくもなぞらえるなら、私は「女神転生を活字に引きもどしたかった」といったところでしょうか。
いえ、メガテンは活字とゲームが融合すべきなのです。「強固なシナリオ」とはそういう意味です。重厚なRPGは、そうでなくてはなりません。
冒頭にも書きましたが、私はそのため、自分にできることをやりました。願わくは、共感してくれる方々まで届けばさいわいです。