忙しい人のための「PanDemonicA/2」パンデモニカ第2部
モイライ三姉妹の箱庭
あいかわらず東京から出られないチューヤは、川崎を目指して京急に揺られながら、いつのまにか六郷土手にもどっている自分自身に絶望している。その呪いをかけたモイライ三姉妹と、期せずして蒲田の中華料理屋で邂逅することになる。
日常への「境界」の侵食には、そろそろ慣れてきた。世話になった占い師の館へ行くと、そこにはチューヤの尊敬するプロレスラーで都議会議員の「ダイコク先生」がいた。東京の地下に張り巡らされた秘密と、「新宿会議」への導入の線が張られる。
狐憑きと警視庁
東京で起こった事件を担当するのは、警視庁である。かつて息子であるチューヤを逮捕したくらい、狷介な鬼刑事である中谷ケンゾーは、キャリア幹部候補生の部下とともに事件の捜査をつづけている。
一方、刑事の息子であるチューヤも、探偵の羽鳥などとつながりながら、ホストクラブや外国人犯罪組織などへとつながる伏線を、ゆっくりとたどっていく。
ひさしぶりの鍋
世界の主導権はまだ、こちら側にある。そう主張するかのように、チューヤたちは非日常に背を向け、日常の部活を楽しもうと集まる。しかし非日常は着実に押し寄せ、よりはっきりとした形で、真実を認識しなければならないことを思い知る。
チューヤたちは前作で、「運命の三女神」モイライによって、過去の地球へと転生させられた。そこで彼らは、人類の進化の過程を体感し、自らの存在意義を問い直すことになった。しかして、それは「だれがやった」のか? 狂言回しが存在する。それこそが12柱の「原初神」と呼ばれる神々であるらしい。
校長の秘密
たしかにチューヤが過去へ転生したとき、わずかに神々の存在を検知した。結局アンノウンの影に隠されはしたが、じつは人類誕生以前から神々は存在し、その手によって人類の進化はコントロールされていたというのだ。
そもそもこの象徴的な6人を同じ高校に集めたのも、校長である白泉が自ら手をまわしたからだという。チューヤは「原初神」である校長から、さらなる世界の真実を知らされることになる。そのうえで校長は、チューヤたちにさまざまな助言や試練を与え、その成長を促すために自分は存在するのだと言った。
そして自分はなにも命じはしない、あくまでも決めるのはきみたち自身なのだと告げる。
閉鎖された部室棟
殺人事件が起こり、立入禁止になっていた部室がある。いよいよその謎を解くために、チューヤたちは境界化した学校に再び巻き込まれる。
謎多きオカルト部の同級生・ブブ子が親しげに、チューヤにデメトリクス・カプセルを差し出す。チューヤは彼女との関係をおそれながらも、切り捨てることができない。
やがて彼らは、事件のあった数理部へと導かれる。
数理部の怪
殺されたのは宇多田という数理部の部長で、ふたりの部員が巻き込まれた。殺したのは商業科の女子で、現在行方不明だという。そんなにその男が好きなら殺してでも奪え、と彼女を煽った犯人はどうやらマフユらしい。
飄々とするマフユにげんなりしつつ、チューヤ、サアヤ、ケートも含めた4人で、未解決事件に挑む。途中パーティが分割されたりしつつも、御霊・菅原道真の憑代となり、天神様の能力でケートを苦しませる「動く屍体」宇多田との戦いには勝利する。
学校の井戸の怪談
かつては石神井にも戦火が及んだ。学校の地下には、そのとき死体を投げ捨てて埋められた井戸がある、という怪談があった。
いま、チューヤたちはその井戸からつながる境界化した地下で、呉越同舟に閉じ込められている。ケートとマフユは、不倶戴天の仇敵といっていいくらい仲が悪い。しかし、ここから逃げ出すためには力を合わせるしかない。転生した過去からもどったときのように、不承不承ではありつつも、力を合わせて難関をクリアしていく若者たちの成長が描かれる。
半蔵門ロイヤルアークホテル
警視庁の御用達でもある麹町のホテル、ロイヤルアークをチューヤが訪ねたのは、父の部下の結婚式のためだった。そこで偶然出会ったヒナノは、聖遺物を違法に売買している犯罪者を捕まえるため、弟ミツヤスとともに神学機構の命を受けてやってきたのだという。
孤高の美少女であるヒナノとの行動は、チューヤにとっても興奮する体験だ。チューヤは努力して、彼女との戦いをこなしていく。ミツヤスの能力は圧倒的で、「神の鈴」と呼ばれる彼の歌声は大天使ミカエルすらも恍惚とさせるものだった。
魔王アザゼルという強敵を相手に危機に陥るが、生き延びて決着をもたらしたのは、現世側から手をまわした弁護士・榎戸であったようだ。
プロレスマンの裏側
ロイヤルアークで重傷を負った父ケンゾーの見舞いを終えたチューヤとサアヤは、リョージの招待で大田区の体育館で開催されるプロレス興行に向かった。
そこでチューヤは、先週見たはずのリョージの「カノジョ」がじつは死んでいて、その臓器ごとバラバラにされ世界中に提供されたのだ、と知った。ではチューヤが見た少女は、いったいだれだったのか? 謎は深まるばかりだ。
リョージは、その場に同席するカノジョの姉であるケーコもおびえるほどのおそろしい表情で、恋人を殺した「闇」への復讐を誓うのだった。
大田区の地下プロレス
リョージの愛するプロレスは、男の約束でできている。最初はすなおに興行を楽しんでいたチューヤたちだったが、やがてバックヤードに導かれ、プロレスラーどうしのドロドロした世界の裏側を知ることになる。最近生まれたばかりの神親ダッドの息子は、じつはホストクラブのホストの子であると、毒の言葉を注ぐオニのタニオ。
境界化した地下を進むと、そこでは地下プロレスが開催されていた。リングには洗脳されたダッドとタニオのタッグ、それと戦うハメになるのはチューヤとリョージのデコボココンビだ。
悪魔を召喚できない過酷な戦いとなったが、体力と根性だけで戦い抜くチューヤ。ぜったいに死なない、と約束した彼の言葉を信じるサアヤの視線には、リョージも危ういものを感じるのだった。
舎利学館のキョンシー
ワーカホリックであるチューヤの父ケンゾーは、いつまでもおとなしく入院しているような男ではなかった。現在、彼は警視庁の組織力と監察の技術力を駆使しながら、脳みそを空っぽにする猟奇殺人事件と、動く屍体の事件を追っている。
これまで異世界線に奪われた行方不明者は膨大な数にのぼるが、それでも「死体がない」ために事件化できなかった。しかしいよいよ、境界からの訴えは警察にまで届いてきた。
死体はあり、動画もある。すべての謎はつながっている。ケンゾーは舎利学館という連立与党の支持母体である宗教団体に当たりをつけ、捜査を展開しているが、上層部からくる政治的な圧力は大きかった。
どうやら舎利学館は人間の脳みそを摘出し、デメトリクス・カプセルを製造しているらしい。膨大な信者を動員できる宗教団体が手を染めた、おそるべき闇の事業だ。
東京の暗黒面は、より鋭く深く広がっている。
まとめ
チューヤたち鍋部のメンバーは、これまで神々と悪魔、そして人類の起源と未来をめぐる戦いに巻き込まれてきましたが、ここから物語はさらに複雑化していきます。
多様な勢力との新たな出会い。神学機構、舎利学館、nWo、三月会、シキュウ同盟など、さまざまな組織や勢力の力学が複雑に絡み合い、物語は国際的なスケールへと発展していきます。チューヤたちは、新たな協力者を得ると同時に、より危険な敵との遭遇も経験します。
「PanDemonicA/2」は、前作以上に複雑でスピーディーな展開が特徴です。日常と非日常、現実と虚構、過去と現在が交錯する世界観のなかで、登場人物たちはそれぞれの正義や信念に基づいて行動し、物語は予想もつかない方向へと進んでいきます。
とくに現代社会における宗教、科学、歴史、文化といった多様な要素を巧みに織り交ぜ、独自の世界観を構築している点は高く評価できます。
「PanDemonicA/2」では、前作以上に「選択」というテーマが重要なキーワードとなっています。チューヤたちは、さまざまな場面で選択を迫られます。その選択は、自身の運命だけでなく、人類の未来をも左右する可能性を秘めています。
また「境界」という概念も重要な要素です。「境界」は、現実世界と異世界を隔てる壁であると同時に、登場人物たちの心の内面、そして過去と現在、現実と虚構の境界をも象徴していると考えられます。
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