待ちかねた新歓合宿
GWが終わってすぐの教室はどことなく悲壮感が充満していた。
当然だ。
早くGW終わらないかな、なんて思ってたとしても、いざ授業が再開するともう休みが恋しい。その上これから二か月間は祝日がない。
授業が日に二つだったり全休があったりする大学生よりも、規則正しい生活を送る高校生はそれが顕著で、バイト先のJKやDK(と言うのかは知らんけど)の嘆き様ったらなかった。心なしか注文を確認する声も暗い。
まぁ気持ちはわかる。もし今のメンタルでタイムリープして高校生をやり直すことになったら、塩を掛けられたナメクジみたいにやる気が蒸発する自信がある。
水曜日の全体会では久しぶりにサークルメンバーが顔を合わせ、ついに土日に控えた新歓合宿の説明と新入生の係決めが行われた。
俺は広報に決まった。詳しくは知らないがライブの宣伝とかをするらしい。
まぁそのうち分かるだろう。
さて、いよいよ新歓合宿である。
飲み会で軽く喋ったくらいの人はいるものの、はっきり友達だと言える同級生はまだいない。
……。
智誇と萌美はノーカンだ。
合宿ではなんとしても仲良くなって友達を、そしてこれからのバンドメンバーを作っていかなければ。
五月十四日、新歓合宿当日。
上級生がまばらに合流していく中、我々新入生は集合時間の二十分前には集合し、既にいくつかのグループを形成していた。
雑に言って、喋る相手がいるやつらと、一人で時間が経つのを待っているやつらに大別される。
萌美はオレンジ色のキャリーケースに座りながら、明るい髪の女の子や見るからにチャラそうな男子二人と快活な声を響かせていて、智誇は真面目そうな女の子二人と木陰で談笑していた。
あの人達はいったいいつの間に仲良くなったのか。
まさか今朝か、今朝なのか。
俺はというと、飲み会で喋った記憶がある子は女子だけで話していてそこに入っていくのも気が引けるので、全然変わらないスマホの時刻表示とにらめっこをしていた。
要はぼっち側だ。
まぁ、元々俺は自分から話しかけるのが得意なタイプではない。何を話していいかわからないから。入学式はちょっと頑張っただけで、あとは五十嵐のおかげの部分が大きかったし。
言い訳めいたことを考えながら他の一年生と適度な物理的距離の位置取っていたが、いよいよすることがない。トイレにもいったし、大してハマってもないスマホゲーのデイリーミッションも完遂してしまった。
周りには俺と似たような境遇の人も何人かいる。だとすれば、暇潰しに話しかけても迷惑ではないはずだ、そうだよな?
話しかける対象は一番近くの、いかにも大人しそうな眼鏡っ娘を選んだ。理由は一番近いからだ、他意はないぞ。
横目で様子を伺いながら、彼女がスマホをいじり終わるのを見計らって声をかける。
「こんにちは。新入生の人ですよね?」
はい。まずこのわざとらしい確認が苦手だ。
ぜったい新入生だろそりゃって思うし、思われてそうなのも嫌だが、これしか会話の糸口を思い付かなかった。
「あ、はい、そうです」
まさか話しかけてくると思っていなかったのか、たどたどしい返事が返ってくる。
なんとなく話が続かないパターンな気がしてきた。
頑張れ、俺。
「僕は藤元っていいます。よろしくです」
「私は清水です、よろしくお願いします」
お互いに名前を言い合い、さて、どうしようか。ネタ切れだ。もう全く次の話題が思い付かない。
「晴れてよかったですね」
アカペラの活動は室内だから天気はあまり関係ないのに。
我ながらゴミのような話題。
返ってくる気配もないので別の何かで繋ぐ。
「河口湖って行くの初めてですか?」
初めてだったらなんだよな。
それでも、「そうですね、初めてです」と、俺の脈絡のない質問にも淡白ながら清水さんは答えてくれている。
それしか言いようがないもんなほんとごめん。
「清水さんは、日吉までは何線ですか?」
言って、この前の智誇との会話を思い出す。
手癖のように出てきてしまった『何線ですか』
「東急東横線ですね、藤元くんは?」
「僕は常磐線から東京メトロ副都心線に乗り換えです」
そしてやはりなにも生まれなかった。
智誇よ。わかったぞ。時間稼ぎだ。話題思い付かないときのその場しのぎだ、これ。
あ、でも清水さんが乗り換えなしってことはわかったわ。
いややっぱ意味ねぇ。
「……。」
「……。」
最後にはお互い顔を逸らし、手遊びだけが激しくなるダメなタイプの沈黙にいきつく。
あぁ、これは初対面失敗したなぁ。
そう思っていたら、清水さんが「藤元君、今回のバンド割り一緒ですよね?」と言い出してくれた。
パンフを確認しても確かにそうだった。そこまで見てなかったな。
「パートは何やるんですか?」
「僕はたぶん、ベースをやろうかなって思ってます」
そこからアカペラ経験者だなんだとなんとなく話が広がり、結局大した事は話していないものの無事に間を埋めることが出来た。
好印象を残せたとは断じて思えないが、話したことある人が増えただけで良しとしよう。頑張ったよ、俺は。うん。
あわよくば隣の席に……。
なんてことはなくバスの隣に座ったのは吉谷という同学年の男子だった。
全然良い。
また話せる相手が増えたから、万々歳だ。