恋バナは焼肉の後で
バイト先の高校生たちに焼肉を奢る日になった。動画審査のための合宿の時にシフトを変わって貰った高いお礼である。
茅野は暴れるように運ばれた肉を口に放り込んでいった。
男子高校生は食べ放題と聞けば限界まで食いたくなる生き物である。俺は今でもそうだが。
対してJKの牧原さんはずっとトングをキープしたまま、焼いた肉を取り分けてくれていた。
肉を焼くのは好きらしい。焦げた肉がほぼなかったから、多分本当だろう。
食べ放題の九十分を終えて店を出たあとは「喋り足りないっすね」ということで、俺ん家で二次会という流れになった。
本当は駅前で、このメンバーならバイト先にスライドしたかったところだが、忙しい時間だし実際店の前を通ると忙しそうだったので遠慮した。
「茅野君、良い恋してるんだ~、素敵だよ~」
「やめてくださいよぉ、恥ずかしいんで」
行き着いた話題は、専ら恋のお話。
というのも牧原さんが、その手の話をしたがるからだ。
「いいですね~。青春って感じがして、聞いてて楽しいです~」
小岩女子だという牧原さんは、周りにそんな話がない分反動で興味が増してるのかもしれない、と自分で言っていた。きっと高校で女友達との話のネタにされるんだろうなと思う。
「牧原先輩も好きな人欲しいなと思います?」
「私はいいの、聞くのが好きだから」
自分がしたいわけではないらしい。
というか小岩女子ってことは、牧原さんは萌美の後輩だったのか。
すごい偶然……でもないか。
金町からは電車で三十分弱だし、あの辺の偏差値の人だったらわりと選択肢になるか。
同じく千葉の方に三十分だった滝麗と通学感はあまり変わらなそうだし。
「女子高も楽しいんだけどね、こういうの聞くと共学がよかったかなって思っちゃうな」
「彼氏いる子とかいないの?」
「いますよ! 少ないですけど」
「どこで彼氏作るんですか?」
「だいたい地元かなぁ、あとは、文化祭で声掛けられて、みたいな」
すごい奴もいるもんだ。女子高の文化祭でナンパなんて。
「行ってみたいなぁ、小岩女子の学祭」
興味津々の様子の茅野。なんだ、その気か?
「あ、くる? 招待券あるよ私の分の」
「ください!」
「じゃあ、せっかくだから藤元先輩も一緒に」
俺も行くらしい。
俺にできるかなぁ、ナンパ。
俺が屋台の女子高生に声を掛けているところをシミュレーションしてみて、大学名をアピールすることもできないままあえなく撃沈したあたりで、牧原さんがまた切り出した。
「学祭で思い出したんですけど、カップリングくじって言うのかな? 数字が書いてあるカードをもらって、同じ番号の人を見つける、みたいな。そんなのってありますか? 漫画でみて、気になって」
どうやら小岩女子にはそれがないらしい。あっても女の子同士でじゃれる程度のもので、ドキドキしない、と。
うちにはあったなぁ。滝麗にも櫻田にも。
牧原さんが聞いて喜びそうな話があるのは、滝麗の一年だった時。
まだ日比谷先輩と付き合う前で、文化祭はアカペラ同好会の皆で回っていて、たい焼きの屋台でもらった番号が先輩は76、俺は16だった。「ほら、もともと似てるし、大丈夫だよ」と、先輩が俺のカードに横棒を一本書き加えて持って行ったら、本物の76がまだ余っていて詐欺が発覚し怒られたのだった。
そんな話をすると、牧原さんだけじゃなく茅野のテンションも上がった様子で、そこから少し日比谷先輩との思い出話が続くことになった。
牧原さんは期待の眼差し。
「じゃあじゃあやっぱり、その先輩と付き合ってからの学祭はやっぱり、付き合う前と違いますよね?」
だけど俺は、その期待には応えられない。
「あー、いや、二年の夏に俺が転校することになったからさ……なんていうか」
「二度目の学祭はさ、来なかったんだよ」
すると、牧原さんは泣いた。
正確には泣いてはないけど、「うぅぅぅ、つらいですぅそんなのぉぉぉ」と言いながら泣きそうな顔をしていたので、実質泣いた。
牧原さんにもらって、茅野も実質泣いた。
いや別に、同情を買うつもりで話したわけじゃないんだけど。
凄いな、現役高校生の感受性。
「せんぱぁぁぁい、今度は俺が先輩に焼肉奢りますねぇぇ」
いやそこまでしなくても。
「わたしはぁぁ、丸太グミ奢りますぅぅ」
それは安くない?
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