いらん奇跡
どうしてこうなった。どうしてこうなった?
鳥肌の上から冷や汗が染み出す。俺はどうしても目の前の光景が信じられない。
元カノが全員大集合だなんて。
幻だと思った。幻じゃなかった。
何度目をこすっても、テーブルの向かいに座る三人は確実に実体を持っている。
そりゃあ俺だって入りたかったサークルの新歓食事会だし、なんて自己紹介しようかなとか、可愛い同級生がいたらいいなとか、いろんな状況をシミュレーションしてきましたよ、えぇ。
でもこれは知らない。
これは知らんわ。
通路側から、元カノ、元カノ、元カノ、とご丁寧に時系列順で並んでいる。
どいつものんきな顔して新歓の空気を楽しんでくれちゃってまぁ、俺の気も知らないで。
そりゃあなた方はいいですよね、面識ないんだから。
さっきから脂汗が止まらない。
頭もうまく回ってない。
とても今から歓迎されようとしている人間の精神状況に思えない。
なんの奇跡だ。
日本の女子大生をランダムに三人つまんでそれが全員元カノである可能性は、いったい何パーセントなのか。
なんでゼロじゃないんだ。
神の悪ふざけだ。
元カノ三連単的中だ。
あぁ、間違いなく万馬券だよな。
あ、今のちょっと面白い……。
いやそれどころじゃないってマジで。
別に再会するのはいい。一人ずつだったら問題なかった。だがこれは圧倒的にタイミングがよろしくない。
全員同時に、大学の新歓飲み会で再会はヤバいって。
もし一人でも「藤元君とは以前に付き合ってました」なんて言おうもんなら「私もです」「え、私も」なんてドミノ式に連鎖して、他の先輩から餌に群がる池の鯉のごとく追及され、酒の肴にされるに違いない。
それは嫌だ。
入会早々そんな目立ち方したくない。
混沌とした脳内を落ち着かせるために深呼吸をし、震える指でコップの水を流し込む。
いや大丈夫だ。
バレなきゃ問題ない。
バレなきゃ元カノじゃないんだから。
会場の飲み屋には参加者が揃い、会長の音頭待ちで喧騒はややトーンダウンしていた。
落ち着け、落ち着くんだ俺。
今話を振られたら、確実に動揺が声に出る。
そしたらどうなる?
「怪しいぞこいつ、もしかしてあの三人の元カレじゃないだろうな」って疑われて、聞かれて、バレるよな。
ダメだどうしよう。
収まらないこの嵌められたような理不尽と狼狽えっぱなしの感情を、文字にしてSNSに投げつけた。
「ウワァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」