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第61話  ホラーハウス

あっという間に2024年も終わりですね……皆様、よいお年を!




 SIDE:ノエル



 秘密基地は本気で厄介な抵抗をしてみせた。


 最初こそすぐに追いついたアイリスが足を斬り落として自走能力を奪ったのだが、そこからは秘密基地が吐き出してくるカース系モンスターとの乱闘になった。


 カースカーテンとかカースチェストとかカースウェポンとか基本的には雑魚ばかりだったが、ただひとつカースドールだけがやたらと強くて……制作者に影響されたのか、【仙理闘法】や【鬼怪闘法】を使って連携してくる不気味な人形にはかなり苦戦させられた。


 最後はリドリーちゃんが秘密基地の屋根に拳骨したことで恐れをなした呪物たちが基地の中に引っ込んでいったけれど、できればリドリーちゃんには呪物の生成を控えてほしいものである。



「はぁ……はぁ……人形があと1ダースもいたら危なかったわ……」



 何度か人形の連携攻撃を食らって地面を転がり、泥だらけになったアイリスが額の汗を拭いながら光の魔法剣を消す。



「うむ……妾と主君の組み合わせではまったく歯が立たなかったのじゃ……」



 シャルさんの剣術付与能力に頼って戦った私は人形のテクニカルな動きにまったくついていけなかった。


 六体の人形に囲まれてボコボコにされていた私は元凶であるメイドさんへと苦言を呈する。



「……リドリーはちょっと反省しようか?」


「私のせいですかっ!?」



 師匠たちに揉まれまくったせいか、ひとりだけ多数の敵との戦いに慣れた様子で攻撃を捌いていたリドリーちゃん。


 激しい戦闘で多少はホコリっぽくなっているものの、一撃ももらっていない彼女はボロ雑巾のようになった私を見て視線を逸らした。



「……いえ、まあ、確かに人形以外は大したことありませんでしたけれど……次からはもう少し戦いに向かないデザインにしてみます……」



 ……人形作りをやめる気はないんだね?


 死ななければ問題無いという母様のスタンスに染まりつつあるメイドさんに私がジト目を向けていると、メアリーによって拘束された秘密基地が悲しそうな鳴き声を上げる。



 ゴ、ゴアアアアア……。



 せっかく納屋の屋根を私とアイリスで直したというのに、今度は母屋の屋根に巨大な穴を空けられた秘密基地はリドリーちゃんを見てブルブル震えていた。


 ごめんね?


 最近のリドリーちゃんは手加減が下手くそなんだ。


 オルタナの街から帰ってからというもの、なぜか戦士としての才能を開花させたリドリーちゃんは、花瓶やお皿を割るだけでなくドアノブまで握り潰すドジっ子メイドさんへと進化していた。


 見た目はかわいいリス獣人なのに、中身は完全にゴリr……。



「……坊ちゃま?」



 無駄に勘の良いメイドさんが笑顔で拳を構えたので、賢い私は思考を中断した。


 危ない危ない……もう少しで頭蓋骨に穴を空けられるところだったよ……。


 転移系の空間魔法が苦手なくせに短距離くらいなら気合いで空間跳躍してくるリドリーちゃんの拳骨は、絶対に避けられないから放たれる前にキャンセルしてもらうのが正解なのだ。


 そして私が華麗に危機回避したところで、アイリスがパーティー全体に浄化魔法をかけて嘆息する。



「それにしても……これはどうしたものかしらね? まさか魔女の家が魔物化するとは思わなかったわ……」



 勝手に動き出した秘密基地の対処法に頭を悩ませるアイリスに、剣の姿から生首に戻ったシャルさんがカラカラと笑う。



「まあ、この家に関しては条件がバッチリ揃っていたからのー。愛着が湧く前にこうなってよかったのではないか?」


「条件ってなに?」



 シャルさんの発言が気になったので確認すると、私の腕の中で生首が首を傾げた。



「……はて? なんじゃったか??」



 自分で言っておいてド忘れしたみたいなので、詳しく訊いても無駄だと判断したアイリスが影の中へと指示を出す。



「メアリー、関係のありそうな書籍を持ってきてくれる?」


 ぷるっ!



 アイリスの命令を快諾したメアリーは、セレスさんの図書館から一冊の本を取り寄せてリドリーちゃんの前に差し出した。


 最近のメアリーはセレスさん家で司書としても働いているため、頼めば必要な書籍を貸し出してくれるのだ。


 ちなみにメアリーがリドリーちゃんに本を渡したのは、セレスさんのところには呪いがかかった本もあるからである。


 つまりは毒味ならぬ毒本みたいな感じ。


 メアリーは吸血鬼の眷属のせいか放たれた呪いを気づかずに吸収してしまうため、こういう時の毒本は基本的にリドリーちゃんの役目だった。


 たとえリドリーちゃんが呪われても浄化が上手いアイリスが無事なら問題ないというわけだ。


 お姫様の代わりに本を受け取ったメイドさんは、その内容に目を通して該当箇所を探す。



「えーっと……家屋の魔物化については…………あ! ありました!」



 いちおう本を開くだけでも毒本はできるのだが、たとえ最近サボり気味だろうとも、こういう女主人を立てる行動を自然とできるところが、根が真面目なリドリーちゃんの良いところである。


 そしてリドリーちゃんが該当するページを開いてアイリスに手渡すと、アイリスはその内容を要約して教えてくれた。



「どうやら古い家屋で多くの生物が死んで、そこに高濃度の【燐気】が溜まると魔物化することがあるみたい……この魔物は【呪譚の古家(ホラーハウス)】と呼ばれているらしいわ」



 あー……なるほど。


 確かにそれなら条件を満たしていた。


 秘密基地の元となった魔女の家には大量の死体があったし、この辺りは【竜巣山脈】から流れてくる【燐気】が溜まりやすい土地だから完璧である。



「これって元に戻したりはできないのかな?」



 このままだと秘密基地として使えないので本に目を通すアイリスに訊ねると、彼女は本から顔を上げて首を横に振った。



「残念ながらここには元に戻す方法について記載されていないわ。魔物について研究している他の書籍を調べれば何か手がかりが見つかるかもしれないけれど……」



 と、アイリスがそこまで言ったところで、



 ぷるっ!

『2748』



 影の中からメアリーが血文字で数字を出してきた。


 どうやら魔物について研究している書籍は大量にあるらしい。



「……それならセレスに訊いてみましょうか?」


「……まあ、それが一番てっとり早いよね」



 それらすべての書籍に目を通している可能性が高いダークエルフさんに質問することをアイリスは提案するが、



「ちょいとお待ちください!」



 しかしその行動はリドリーちゃんによって止められた。


 背筋を伸ばしたメイドさんはドヤ顔で人差し指を立てて、問題行動の多い悪ガキに対する教育をしてくる。



「坊ちゃま? アイリス様? こういう時はどういう行動をするのが正解ですか?」



 街から帰ったあとに説教ラッシュを食らった私とアイリスは、めんどくさそうな顔をして声を揃えた。



「「……(義)父様に相談」」



 私とアイリスの回答を聞いたリドリーちゃんが満足そうに首肯する。



「その通りです。なにか問題が発生したらメルキオル様に相談する。それさえ徹底しておけば問題は起こらないのですから、これからは報告・連絡・相談を密にしていきましょう!」



 えー……めんどくさ…………。


 いや、べつに父様が嫌いってわけじゃないんだけど……街から帰ってからというもの過保護に磨きがかかっているから、最近の父様は特にめんどくさいのだ。


 アイリスも同意見なのか渋い顔をしている。


 今の父様に相談すると全ての行動を禁止されそうなので、私とアイリスは過保護モードになった父様を煙たがるようになっていた。


 いや、普段は優しくて頭も良い尊敬できる父親なんだよ?


 スイッチが入るとめんどくさいだけで。


 それが親としての愛情であることは理解しているのだが、遊びたい盛りの子供としてはもう少し自由にさせて欲しかった。


 この前だって量産型アーサーに自爆機能を取り付けようとしたら全力で禁止されちゃったし……ちゃんと安全面も考えて上空に飛び上がってから大爆発するように設計したのに、過保護な大人というものは本当にデリケートである。


 田舎の主婦や幼女でも高い戦闘能力を持つ異世界人ならば、原爆級の爆発でも起こらなければ気にしないだろうに……。


 うちの母様とアイリスの朝練でも大爆発がちょくちょく起こっているから、この認識に間違いはないはずである。


 しかし私とアイリスは父様の先兵であるリドリーちゃんに逆らえないので、しぶしぶうるさい保護者に連絡することを承諾した。



「それじゃあメアリーちゃんに繋げてもらいますからね。二人は御当主様の言うことをしっかり聞くように!」


「「はーい……」」


「フハハッ! これでまたメルキオルの胃痛の種が増えそうじゃな!」


「そこっ! 他人の不幸を笑わない!」



 爆笑するシャルさんをリドリーちゃんが注意したところで、ぷるぷる震えていたメアリーが連絡先の了承を得て空中に30センチくらいの輪っかを作る。


 空間魔法で時空が繋げられたそこでは父様がティーカップを前に固まっていて、お茶の良い香りが輪っかの向こうから漂ってきた。


 どうやらちょうど午後のティータイムだったらしい。


 私と顔を会わせた父様が強張った笑顔で質問してくる。



「……ノエルくん? いつからメアリーはこんなことまでできるようになったんだい?」



 前から【転移門】とか使えたのだから空間を繋げて会話するくらいは簡単だと思うのだが、空間魔法を使った連絡手段を初めて見たらしい父様がさっそく頬を引きつらせた。



「これを開発したのは僕じゃありませんよ? 井戸端会議用に作られた機能ですから」



 犯人は家事をしながらおしゃべりをしたくなった村の奥様たちである。


 空間を繋げちゃえば料理の味見を相手にしてもらうこともできるし、この『空間超越対話』はメアリーの『神機能ベスト5』に選ばれたこともある優れ物なのだ。



「ノエルは他人が使うメアリーの機能に制限を掛けようとか思わないのかな?」



 人に役立つことが生きがいの眷属から仕事を奪おうとする父様に、私は冷静に反論した。



「……そんなことしたら暴動が起きますよ?」



 ド田舎であるエストランド領では男が出稼ぎに出ているのが基本だから、この機能を使う奥様たちは友達と会話するだけでなく、単身赴任先の旦那さんと空間を超えてイチャイチャしているのだ。


 それを禁止しようものなら奥様~ズの怒りは凄まじいものになるだろう。


 実際にこの機能を多用している奥様たちによれば、直接転移して会いに行くよりも小さい窓越しでイチャイチャしたほうがプレイの幅が広がって燃えるらしい。


 そんな事情を説明すると本題に入る前に父様は頭を抱えた。



「……うちの村人の適応能力が高すぎる…………」



 エストランド領の住人って新しいもの好きが多いからね。


 顔色を悪くした父様は小窓の向こうから追加の質問をしてくる。



「それとノエルは眼帯をどうしたのかな? ちゃんと着けないとダメだろう?」


「ああ、はい……そういえば忘れていました」



 オッドアイな両目を隠すために外出時は常に装備していた眼帯だが、最近の私は着け忘れることが多くなっていた。


 いや、だって【創世神の血】も私以外に飲める人がいたし……ぶっちゃけこの目に関しても大人たちが大げさに言ってるだけなんじゃないかと疑っているのだ。


 本当は『他人に見られたら超ヤバい』ではなく『ちょっと珍しいから悪い人に目を付けられないように隠しておきなさい』くらいのニュアンスなのではないかと。


 というか、どうせこの森には余所者が入ってくることも滅多にないし、仲間内で遊ぶだけなら眼帯とか必要ないんじゃないかな?


 森で遊ぶ時とかリドリーちゃんも注意してこないし。


 しかしちゃんと装備しないと父様がうるさいので、私はメアリーに自室から取ってきてもらった眼帯を装備した。



「……それで? 今度はどんな問題を起こしたんだい?」



 最初から問題を起こしたと判断する父様からの信頼がゼロすぎて悲しいが、実際にちょっとした問題は起きているので私は粛々と相談内容を口にする。



「えっと……僕たちが作っていた秘密基地なんですが……」


「うん」


「修理を終えたら逃げ出してしまいまして」


「……うん?」



 父様が『ちょっとなに言ってるのかわからない』という顔をしたので、私はメアリーに輪っかの位置を調整させて父様にも秘密基地の様子が見えるようにする。



 ゴ、ゴアアアアア……。



 そこではリドリーちゃんが「ほら、怖くない、怖くないですよ~」と秘密基地を撫でていて、恐怖に震える秘密基地がその巨体から木材や石材をパラパラ落としていた。



「リドリー……イジメるのはそれくらいにしてあげて?」


「イジメてませんよ!?」



 大穴を空けた本人に撫でられたせいで巨体が大きく歪んでいる。


 その様子を見たアイリスは聖女のような眼差しで秘密基地を見つめた。



「可哀そうに……あまりの恐怖に全ての柱が曲がっているわ……よっぽどリドリーの拳骨が痛かったのね……」


「こやつの拳は魂にまで響いてくるからな。痛みを知らない物質系の魔物にも効果はバツグンなのじゃ」



 拳骨の被害者たちから悪者にされたリドリーちゃんが「ぐぬぬ……」と唸る。



「わ、私の拳には愛情しか籠っていませんから!」



 そしてどこかの海軍中将みたいなことをメイドさんが言ったところで、ずっとフリーズしていた父様が再起動した。



「……の、ノエルくん? ど、どうして君は【災害指定種】を捕縛しているのかな?」



 災害なんちゃらはよくわからないけれど、秘密基地を捕縛している理由は明白である。



「どうにかして元に戻せないかと思いまして、父様にお知恵を借りたかったのです」



 私の返答を聞いた父様は、なぜかホッと胸を撫で下ろした。



「そ、そっか……そうだよね? メアリーがいればそれで十分だもんね? よかった……僕はてっきりまた君が危ない仲間を増やしたのかと……」



 しばらくブツブツ呟いた父様は、考えを纏めたのか、急にキリッとして指示を出してくる。



「いいかいノエル? その家を元に戻す方法は無いから、今すぐ魔核を壊して塵に返すんだ」


「ええ……それはちょっと…………」



 せっかく修理した秘密基地を失うことを私が躊躇すると、父様は早口で秘密基地を始末しなければいけない理由を捲くし立てた。


 曰く……災害指定種は見つけたらすぐに駆除することが義務づけられているとか……特にホラーハウスは迷宮化がどうとか……自然発生型の迷宮核を保有することは人類最大の禁忌だとか……ちょっと早口すぎて半分くらいは聞き流してしまったけれど、とにかく父様は私に秘密基地を諦めてほしくてたまらないらしい。


 最後に父様は家長の威厳を見せて私に命令を出そうとし、



「ついでと言ってはなんだけど、君たちが創った秘密結社も今すぐ解体するんだ! アレのせいで王都から胃薬の注文が止まらなくて――もがっ!?」



 しかし最後まで言う前に、横から伸びてきた手が父様の口に干し肉を突っ込んで黙らせる。


 長話を右から左に聞き流すモードに入っていた私とアイリスは、頼もしい騎兵隊の出現に内心でガッツポーズした。



「そこまでだメル。秘密結社に関しては家族会議で存続させると決まっただろう?」



 子供は自由に遊ばせる派閥代表――ラウラ母様の登場である。


 私たちが創った秘密結社に関しては父様から大反対を受けたのだが、しかし最終的には厳正なる多数決によって『好きにさせる』と結論が出ていた。


 ちなみに我が家の家族会議で票を入れる資格を持つのは、父様、母様、セレスさん、マーサさん、リドリーちゃんの五人だけで、基本的にセレスさんとマーサさんは母様の味方をするため、母様を味方にできた時点で負けはない。



「もが! もがもがっ! もがーっ!」



 口いっぱいに干し肉を詰められた哀れな少数派が反論しようとするが、母様は熱い抱擁で父様の身動きを封じて私たちに指示を出す。



「そんなわけでノエル、秘密結社はお前たちの好きにするといい。なにかあっても尻拭いは私たちがしてやるから、思うがままに遊んでこい」



 流石は母様!


 話がわかるだけでなくフォローまで約束してくれる母様は、続けて秘密基地に関するアドバイスまでしてくれる。



「それとホラーハウスになったそいつだが……元に戻せないならお前が眷属化して使役すればいいのではないか?」


「ああ! その手がありましたか!」



 最後に眷属化を使ったのは五歳の時で、それもメアリーに一度しか使わなかったからすっかり忘れていたよ。


 イビルアイの眷属化も眼球にしか効かない【多眼血操】を使っていたから、眼球の無い秘密基地に使おうとは思わなかった。



「……も、もがぁ…………」



 なぜか母様の腕の中で父様が急速に瞳からハイライトを失っていくが、もしかしたら空間魔法から見えない部分でイチャイチャし始めたのかもしれない。



 急に大人しくなった父様は、ゴクリと干し肉を飲み込んで母様に語りかける。



「……いったい君は、どんな未来を見たんだい?」


「秘密だ」



 不敵に微笑む母様からキスされて完全に脱力した父様に、保護者面をしたシャルさんがフォローを入れる。



「安心するがいいメルキオルよ。主君たちの秘密結社は妾が『名付け親』としてきっちり監督してやるのじゃ!」


「……いえ、シャル様が参加すると権威的な問題がですね…………」



 そして年長者を敬う父様が何も言えなくなったところで、



「あとは任せたぞ、シャル」


「うむ!」



 同じ色の瞳を持つ母様とシャルさんが共鳴して空間対話機能をオフにする。


 この二人はけっこう気が合うみたいで、ときどきいっしょに狩りに出かけたり、剣になったシャルさんを母様が手入れするくらいには仲が良かった。


 けっきょく秘密基地を元に戻す方法はわからなかったけれど、代わりに今の姿のまま秘密基地を活用する方法がわかったので、結果的には大収穫である。



「それじゃあホラーハウスを眷属化するね!」



 善は急げと保護者への連絡を終えた私が提案すると、アイリスとシャルさんは頷いて、リドリーちゃんだけが心配そうにこちらを見てきた。



「本当にやるんですか……なにやら嫌な予感がするんですけど?」


「大丈夫だよ。なんたって母様がOKしてくれたんだから」


「いえ、それが逆に不安と言いますか……」



 母様の決定なら怒られる心配はまったくないのに、このメイドさんもたいがい過保護である。



「まったく……父様もリドリーも心配症だなぁ……」



 秘密結社や秘密基地くらい自分たちも子供のころには作っただろうに。


 ……それとも異世界人は秘密基地ごっこをやらないのだろうか?


 まあ、義務教育の無いこちらの世界では子供のうちから働くこともあるのかもしれないし、ならば今こそ素敵な思い出を作ってあげようと、私は気合いを入れて眷属化用の血液を用意する。


 メアリーを眷属化した時には適当に血を与えただけだったが、【多眼血操】を何度も使用した私は眷属化のコツを掴んでいた。


 大切なのは注入する血液に魔力をたくさん込めることだ。


 そうすることで眷属の基本スペックを底上げすることができる。


 イビルアイも魔力を追加してやれば魔眼になるし、メアリーも体内にある私の血に魔力を追加することでスーパーメアリーになったのだから、秘密基地にも追加の魔力を与えてあげれば勝手に良い感じで成長するだろう。


 できれば綺麗な家になってくれると嬉しいです。


 魔女の家はちょっと汚かったから、長く使うことを考えると清潔感が欲しい。


 そんな願いを込めて手の平の上に浮かべた血液に魔力を注ぎ続けていると、それをとなりで見守っていたリドリーちゃんが掠れた声を出した。



「……な、なにをしているのですか坊ちゃま? ……血液の周りの空間が歪んでいるのですが?」


「いや、せっかくだから限界まで注いでみようと思って」



 大丈夫、大丈夫。


 これくらいだったらリドリーちゃんの拳もときどき似たような感じになってるから。



「リドリー、あなたも早くこっちに避難しなさい」


「基地の近くにいると危ないのじゃ」



 遠くからアイリスとシャルさんの声が聞こえてきたが、その時にはもう私は限界を超えて魔力を注入することに夢中になっていた。


 この森には【燐気】がたくさんあるから、ついでにそちらも注ぎ込んでみよう。



 ゴ、ゴアァ…………。



 秘密基地の大黒柱が盛大に折れてしまったが、この血を注いであげればすぐに治るだろう。


 吸血鬼の眷属になれば再生能力も強化されるからメンテナンスフリーの素敵な家ができるはずである。


 そして期待に胸を躍らせた私は、超常的に暗く輝く血球を秘密基地の核へとぶち込んだ。





 ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?





 森の中に秘密基地の咆哮が轟いて、なぜかバチバチと黒い雷が基地の内部から発生する。


 うわー、すごい……なんかテスラコイルみたいになってる……。


 もしかして魔力を注ぎ過ぎたかもしれないと私が不安になっていると、やがて黒雷が爆発的に膨れ上がって、ズドンッ、と巨大な黒い光の柱が空へと伸びていった。


 吹き荒れる爆風に身体が吹き飛ばされて私は地面の上をゴロゴロする。



「おおおお~っ!??」



 そして闇の奔流が収まると、そこには森の木々を突き抜けて巨大な建造物が聳え立っていた。


 禍々しいオーラを放つ漆黒の巨城。


 そのお城は中腹にある口を開いて、先ほどよりも野太い声を出す。



 ボ、ボアアア…………。



『し、死ぬかと思いました……』と感情を伝えてくるお城に、私はそれが自分の眷属であることを理解した。



「坊ちゃま…………」


「ノエル…………」


「主君…………」


 ぷる…………。



 その様子を遠くから眺めていた仲間たちから突き刺さるジト目に、



「ち、違うんだ……僕はただ綺麗にしようと思って……」



 私は流石にやり過ぎたことを自覚した。



 ……どうやら我々の秘密基地は【呪譚の古城(ホラーキャッスル)】へと進化したらしい…………。







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― 新着の感想 ―
そーいやラスダン村だもんね。魔王城があって当然だよね(白目)
書籍いつでしょうか?書籍を買って応援します!
秘密基地→隠れてない魔王城的な何かwww
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