閑話 リドリーの新業務
大変お待たせしております。
4章ですが半分くらい描けたのでゆっくり投稿を再開していこうと思います。
ちょっとプライベートや仕事のほうがゴタゴタしていることもあり、たぶん週一くらいのペースになると思いますが、投稿していない期間が長くなると怠惰な作者がグダるのでスローペースで長く続くようにやっていきます。
SIDE:リドリー
暗い森の中、私は2人の師匠といっしょに歩いていました。
ここはエストランド領の近くにある【刻死樹海】……ではなく、ミストリア王国のどこかにある深い森です。
道中はセレスさんの空間魔法で移動したため、正確な場所はわかりません。
「そろそろ着くから注意して」
そう言って警戒を促すセレスさんとイザベラさんは厳重に魔法を掛けられた不思議な素材の防護服で全身を覆っていて、ひとりだけいつもの服装で来ている私は不思議に思いました。
「あの……どうして私だけ普段着なんでしょうか?」
二人の様子を見るに、これから危険な場所に行く感じなのに……私だけ防具がないことが不安で仕方ありません。
暗い森の中を先導する二人は同時に振り返って私の質問に答えてくれます。
オルタナに行く前はケンカをしていた二人ですが、帰ってくると以前よりも仲良くなっていました。
「リドリーには必要無いから」
「ほんと……あなたはどうして大丈夫なのでしょう?」
イザベラさんから逆に質問されてしまいましたが、私に訊かれてもわかりません。
「そんなに危険なんですか? 創世神の呪いって?」
周囲に漂う微かな呪いをシッ、シッ、と手で払いながら首を傾げると、二人から同時に嘆息されました。
「……これだからノエル坊の周りにいるやつは」
「……危機感というものが欠如していますね。普通は触れれば死にますし、近づくだけで悪寒や吐き気を感じるものですのに」
……どうして私がこのような場所に連れてこられたのかと言えば、きっかけは坊ちゃまから没収した【創世神の血】でした。
私はただ危ない物を子供から取り上げるつもりで回収したのですが、本来であれば【創世神の血】は収納魔法に入れてはいけなかったらしいのです。
なんでも呪いが空間を貫通して術者を殺してしまうのだとか。
オルタナから帰った直後は普通に出し入れしていたせいか特に気にされることもなかったのですが、私が収納魔法に【創世神の血】を大量に保管していることが発覚したあとはちょっとした騒ぎになりました。
具体的に言うと私はラウラ様たちに個室へと連れ込まれ、パンツだけになるまで剥かれました。
……もう少し穏やかな確認の仕方はなかったのですかね?
坊ちゃまがアイリス様の血を初めて吸った時もそうでしたけど、基本的に創世神の呪いを確認する時には服を脱がせるのが普通みたいです。
まあ、私の場合はちょっと背中に呪いの影響が出てきていて、早期発見できたので助かったのですが。
ちなみに呪いは坊ちゃまに吸ってもらって、アイリス様の浄化を受けたら綺麗さっぱり無くなりました。
なんでも私には呪いへの強い耐性があるとかで、今も創世神の血を入れている収納から呪いが湧き上がってきますが、月に1度くらい吸血と浄化を受ければ問題ありません。
そんな感じで被害もたいしたことがないので、危機感が無いのは当然でした。
「師匠たちに盛られている毒物のほうが苦しいんですよね……」
私がチクりと小言を漏らすと、セレスさんとイザベラさんは視線を逸らします。
「……あれは弟子の成長を願ってのことだから」
「……侍女ならば誰もが通る道です」
それが死なない量ならまだいいのですが、この師匠たちはときどき二人で同じ毒を盛って致死量を超えてくるから注意が必要です。
マーサさんやラウラ様にお腹を殴ってもらったことは一度や二度ではありません。
「つい先日も神経毒の分量を間違えましたよね?」
「……間違えてない」
「ええ、リドリーがこうして生きているのがその証です」
そして弟子に毒を盛ってくる鬼畜たちは逃げるように、目的地へと向けて再び歩き始めました。
すぐに森の中に無骨な金属でできた建物が見えてきて、それの前でセレスさんとイザベラさんが止まります。
「ん、どうやら封印は大丈夫みたい」
「それではさっそく回収作業を始めましょう」
なにかやましいことでもあるのか、二人はいつにも増してテキパキと仕事の準備を開始しました。
私はその様子をジト目で眺めながら、周囲に漂う創世神の呪いを収納魔法で回収しておきます。
これを持ち帰ると坊ちゃまが喜ぶので、私は森で果物を摘むようにお土産の採集に励みました。
そうこうしているうちに建物の封印が解かれ、封印の奥から濃密な呪詛が吹き出してきます。
「リドリー!」
「回収しますっ!」
そして鋭く発せられたセレスさんの指示で、私は呪いを回収しつつ封印の奥へと進み、そこに置かれていた【創世神の血】を収納しました。
ミストリア王国の各地に封印された呪物の回収作業。
それが私の新しい仕事です。
これまでは安全に輸送する方法が無かったため坊ちゃまの元へと運ぶのを見送られてきた創世神の血。
その輸送手段として呪いに耐性があって収納魔法が得意な私が選ばれたわけです。
森に漂う呪いを綺麗さっぱり回収すると、セレスさんから確認されます。
「私が指示しておいてこう言うのもなんだけど……ほんとに大丈夫?」
呪いの影響を気にしているのでしょうが、まったく問題はありません。
「はい。最近は漏れ出る呪いを抑えるのにも慣れてきましたから、量が10倍になっても完封できるかと」
「……我が弟子ながら、相変わらず意味わからん才能してる…………」
セレスさんには呆れられましたが、イザベラさんは私の頭を撫でてくれました。
「流石は私の弟子です! 収納魔法に関しては完全に私たちを超えましたね!」
「そ、それほどでもぉ……」
普段は厳しい師匠に褒められるのは素直に嬉しいです。
まあ、食事に毒を盛ったり、寝ている時に襲撃をかけてくる師匠たちではありますが、二人のおかげで私はできる仕事が増えたので心の底から感謝していました。
そして深夜の仕事を終えた私たちはセレスさんの空間魔法でエストランド領まで戻ります。
「ところで前から気になっていたのですが……どうして夜遅くに回収するのですか?」
べつにやましいことをしているわけではないのですから昼間に来てもいいのではないかと私が質問すると、
「「…………」」
セレスさんとイザベラさんは二人揃って黙り込みました。
……あれ? もしかしてこれって『やましいこと』ですか?
なにやら怪しい態度を取る師匠たちに、私の背筋に冷や汗が流れます。
「あの……創世神の血の回収作業って合法ですよね? メルキオル様の許可は取っているんですよね?」
念のためにもう一度確認すると、防護服を脱いだ二人は両サイドから私の肩に手を置きました。
「これは世界のためだから」
「ええ、世界のためですから」
合法かどうかは答えずに、毒を盛る時と同じ笑顔で回答する二人。
「……ええ………………」
その月からなぜかお給料の金額に0がひとつ増えたことに、私はそこはかとない恐怖心を抱きました。
次回は土曜日に閑話をもうひとつ投稿予定です。
その後は毎週月曜あたりに1話ずつ投稿していけたらと考えております。