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第53話  オルタナ事変 ①





SIDE:リドリー



 ……まさかの修行が始まってしまいました。


 マーサさんに鍋猫亭から引っ張り出された私は、冒険者ギルドのほうへと連行されながら質問をします。



「あの……どうして私はまた仮装をしているのでしょうか?」



 三角帽子に大きなお乳。


 なぜか路地裏で着替えさせられて、私はまた巨乳妖艶神秘魔女ことリドルリーナ・エミル・ミストリアの仮装を身につけていました。


 ……最初はかっこいいと思っていたこの仮装も、冷静になって自分を客観視してみると痛々しく思えてきて……私の人生の恥部になりつつあります……。


 深夜のノリでこんな仮装を爆誕させてしまったことに今は後悔しかありません。


 ……できることなら過去の自分を殴りたい!


 そんな風に私が羞恥心で身悶えながら質問すると、マーサさんは瞳孔の開いたガンギマリスマイルで振り返りました。



「王家の血を引く【半神】って設定のほうがぁ……より強い相手と戦わせてもらえますからぁ♪」



 ……どうして私はこんな設定を作ったのでしょうかっ!?


 普通は王族の名を騙れば王家に捕まって極刑に処されてしまうのですが……アイリス様が「大丈夫」と言っているせいで、それを理由にやめることもできません。


 そして退路を塞がれた私が頭を抱えていると、マーサさんはこの街の中心にあるオルタナ砦へと入っていきました。


 砦の中からは大勢の人の気配がして、私の心に希望の光が芽生えます。


 そうです……まだ諦める時間ではありません!


 きっといっしょに戦う人の中にはひとりくらい常識人がいるでしょうから、その人が私のような美少女を最前線に立たせることに反対してくれるはずです!


 そんな淡い期待とともに重厚な城門をくぐると、そこには数え切れないほどの騎士と冒険者が待っていて……彼らはマーサさんが近づくと一斉に跪きました。



「騎士団長! 出陣の用意が整いました! いつでもカチコメますっ!」



 近くにいた一番強そうな騎士さんがガンギマリスマイルで報告して、他の人たちもガンギマリスマイルをこちらに向けてきます……。



 ……ダメだこの人たち……戦闘前の高揚感でハイになってる…………。



 この状態の人たちに常識的な判断ができるとは思えませんでした。


 心に芽生えた希望の灯に冷水をぶっかけられた気分です。


 というかなんでマーサさんが指揮官みたいになっているのでしょう?


 師匠に指揮を取られたら私が最前線に投入されることが確定してしまうのですが……これはなにかの間違いですよね?


 そしてなぜか騎士団長と呼ばれるマーサさんに私が困惑していると、冒険者たちの中から2人の人物が私の方へと近づいてきました。



「リドルリーナ様! このたびは御助力を賜り、感謝いたします!」



 先に声をかけてくださったのはギルベルトさん。


 冒険者ギルドのギルドマスターです。


 続けてサブマスターのエレナさんも声をかけてくださいます。



「ミストリアの名を持つ方と共に戦えるなんて光栄ですっ!」



 2人はキラキラした眼差しで私の前に膝を突き、まるで神に祈りを捧げるようなポーズを自然にとってきます。


 その行動を目にして、私は仮装の衣装で仮面を着けていることに感謝しました。


 きっと今の私の顔を鏡で見たら、盛大に頬が引きつっていることでしょう。



「くっ……くくっ……我はただの庶民だから……敬う必要などまったくない……」



 2人の手を取って立ち上がらせると、さらにキラキラが増幅してしまいます。



「! 貴女こそ真の王族だ!」


「流石はアーサー様のお仲間です!」



 ……なんでこんなに敬われているんですかね?


 坊ちゃまの回復魔法とお金配りを差し引いたとしても、異様な敬意を集めていることに冷や汗が流れます。


 そしてキラキラを最高潮まで増幅させた2人は私に向かって同時に平伏しました。



「「もしも邪神が現れた時はお任せしますっ! どうか【半神】の御力をお貸しくださいっ!」」



 ちょーっ、ちょちょちょっ!?


 なんで私がアイリス様やラウラ様みたいなポジションで戦うことになっているんですか!?


 いくらなんでも荷が重すぎますよっ!!?



「くっ……くくっ…………そうならないことを、切に願っている…………」


「!? そうかっ! 邪神が現れると民に甚大な被害が出るかもしれませんからね!」


「流石はリドルリーナ様ですっ! 戦いよりも先に民のことを心配されるとはっ! ですがご安心ください! すでに低位冒険者を動かして住民の避難は進めておりますから! 心置きなく戦っていただけます!」



 違いますよっ!


 純粋に邪神なんかと戦いたくないだけですよっ!


 無駄に私への敬意を高め続ける2人を再び引き起こしたところで、今度は私とマーサさんが入ってきた砦の門から重装備を身につけた騎士たちが入ってきました。


 ガシャガシャと重い足音を立てて近づいてくるのは、確か北門で屋台周りをしている時に微妙な串焼きを処理してもらった騎士たちです。



「おおっ!? そこにいりゅのは【血飢】ではにゃいかっ! おみゃえもこの戦いにしゃんかすりゅのかっ!?」



 先頭に立つ色々と大きな女騎士さんが呂律の回らない声を上げて、マーサさんがおっとり微笑みます。



「エスメラルダぁ……どうして酔っぱらっているんですかぁ?」


「くはははははっ! 安心しりょ! これくらいはまだ飲んだうちに入りゃんっ!」



 明らかに千鳥足な女騎士さんは、なぜか私のほうへとフラフラ近づいて来て、やたらと私のことを凝視してきます。



「んん~? おみゃえ……どこかで会わにゃかったかぁ?」



 お酒臭い息をかけられて、私は1歩下がりました。



「くくっ……気のせいだろう……我と貴様は初対面だ」



 酔っ払いに絡まれても面倒臭いので、先ほど会ったばかりだということは黙っておくことにします。



「ほんとかぁ……? その隙の無い足さばき……どこかで見た気がするぞぉ?」



 しかしなおも詰め寄ってくる女騎士さん。


 なぜか胸部装甲だけ付けていない彼女の胸元では、巨大なスイカがボインボインと揺れていて……繊細な私の心をゴリっと抉りました。


 この女騎士は敵ですね……理由は言いませんが私の敵です。


 そして劣等感を刺激された私がさらに3歩ほど下がったところで、女騎士と私の間にマーサさんが立ち塞がり、巨大なボインと大きなボインが激突しました。



 ボボインッ!


 ざわっ……!



 砦の中にどよめきが広がり、私の胸に悲しみが広がります。



「この子は私の愛弟子ですからぁ……粉をかけるのはやめてもらえますかぁ?」


「にゃにぃっ!?【血飢】の弟子らとっ!? おい、おみゃえ! 聖光騎士団に入らにゃいかっ!?」


「だから粉をかけるなと言っているでしょうがぁっ!」


「うるしゃいっ! 騎士団に入るか入らにゃいかは、そいつの自由らっ!」



 ボインッ! ボインッ!


 ざわっ……ざわっ……!



「くっ……こいつらっ……!?」



 もしかして私は喧嘩を売られているのでしょうか?


 今ならこの2人を殴っても許される気がします。


 そして心に絶大なダメージを受けて自分の胸を庇うように手を持っていくと……そこには、ぷるっ、とした感触があって……私はちょっとだけ癒されました。


 そうです……今の私にはメアリーちゃんが付いているのですから……なにもムカつくことなどないのです……。


 ただ肩が凝るだけのお乳とは違って、こちらは取り外しできる分だけ高性能なのですから……。


 そんな風に私が現実逃避していると、癒しを求めて撫でていたメアリーちゃんが布ごしに語りかけてきました。



 ぷるっ! ぷるっ!



 え? なになに?


 今すぐ街の西側を確認したほうがいいって?


 正面では今も見るに耐えないスイカとメロンの押し付け合いが続いていたので、私はそこから視線を逸らすために砦の城壁の上まで跳び上がりました。



「おいっ!? どこに行くのりゃ!?」


「リドリーちゃん!?」



 城壁の上から街の西側を眺めると、ちょうどひとつの建物から闇が湧き上がって、それが半球状に広がっていきます。


 私の後を追って城壁に昇ってきたマーサさんと女騎士が、その光景を見て真剣な声を出しました。



「っ!? よく気付きましたねぇ! 流石は私の愛弟子ですぅ!」


「ハハッ! やつら影の世界を広げやがった! なりふり構わず邪神を呼び寄せる気だ!」



 魔法で酔いを覚ましたのか、急に足取りのしっかりした女騎士が、私に近づいて肩を叩いてきます。



「お手柄だ、大将! これで敵の本拠地もわかったし、邪神が出た時はお前に譲ってやろう!」



 なんでそんな話になるんですか!?



「くっ……くくっ……そんなもの、倒せそうなやつが倒せばいい…………」



 まったく嬉しくない申し出を、私は必死で断りました。



「! やはり見所があるな! よしっ! お前は今からうちの隊の副長だ!」



 !? 勝手に入隊させないでくださいっ!??


 やがて大きく広がった闇は砦を呑み込み、オルタナの街を呑み込み、やがて地平の果てまで広がって、先ほどまで明るかった世界に唐突な夜が訪れます。



「あー……これはヤバいですねぇ……」


「ああ……ここまで広い闇に入るのは久々だ……」



 その光景を見て冷や汗を流す歴戦の英雄2人が、なぜか私の左右に立って肩を掴んできます。



「覚悟しといてくださいねぇ……これは絶対に邪神が来ますよぉ!」


「邪術使いの対処は私たちに任せておけ……お前は邪神を倒すことだけに集中すればいい」


「危ない時は私が命がけで助けますからぁ、リドちゃんは死力を尽くして戦ってねぇ♪ ……『王都の侍女はこれくらいできて当然』ですからぁ」


「っ!??」



 最後に耳元でいつもの言葉を囁いてくるマーサさん。


 いやいやいや……騙されてはいけませんよ、リドリー。


 いくらなんでも邪神と戦う侍女なんているわけがないのです。


 ……しかしセレス師匠やイザベラ師匠のことを思い出すと……王宮の侍女ならそれくらいやってもおかしくないと思えてきて…………私の心にほんの少しだけ闘志が湧き上がってきました。


 さらには遅れて城壁に上がってきたギルベルトさんとエレナさんが、私に土下座攻撃を仕掛けてきます。



「リドルリーナ様っ! どうかオルタナの街をお救いくださいっ!」


「恥を承知でお願いしますっ! 邪術使いだけでなく邪神まで出てきてしまったら、もう私たちではどうしようもありませんっ!」



 気が付けば土下座しているのはギルベルトさんたちだけではなく……砦の中にいる冒険者とオルタナの騎士全員が私に向かって土下座していて……



「「「どうかご助力をっ! リドルリーナ・エミル・ミストリア様っ!!!」」」



 2人の英雄から肩を掴まれて、平伏する戦士たちに完全に退路を断たれてしまった私は、もはやお決まりの返事を口にするしかありませんでした。



「…………………………ひゃい」



 ……どうやら私は邪神と戦うことになったみたいです…………。



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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがもう一人の主人公。 [一言] >『王都の侍女はこれくらいできて当然』 リドリーちゃん、強力な洗脳暗示をキメられてるキャラみたいになっとるw
[良い点] 最悪胸についてるプルプル偽乳が喰うから問題なし
[一言] 多分この子も自己評価が低いけど結構やるんじゃないのか?
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