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第37話  失われた秘宝





 SIDE:ノエル



 屋根の穴を道中に狩った魔物の皮で塞いだころ、ちょうど12時くらいの時間になったので、私たちは家の外に集まって昼食を取ることにした。



「メアリー、『キャンプセットver2.03』」


 ぷるっ!



 何度も修正を入れてアップデートしてきたキャンプセットモードだが、『ver2.03』は複数人でのバーベキュー用に調整したお手軽モードだ。


 指示を出せばメアリーが薪の用意から焚き火の着火までしてくれるうえ、焚き火を囲むソファと小さな机を身体で再現し、そして先ほど狩ったばかりの新鮮な食材までセッティングしてくれる。


 本格的にキャンプを楽しみたい時には便利すぎるのもどうかと思うが、グランピング感覚でのんびりしたい時には最適の機能である。


 そして他の細々した物を用意するのは収納魔法の得意なリドリーちゃんの仕事だった。



「リドリー、金網と飲み物をよろしく」


「はい、坊ちゃま」



 数ある魔法の中でも特に便利なものが多い空間魔法の適性は人によって個性が強く出るらしく、私たちの中でも得意とする分野が大きく異なっている。


 移動系の空間魔法を得意とする私。


 収納系の空間魔法に適性を持つリドリーちゃん。


 防御系の空間魔法がカッチカチなアイリス。


 攻撃系の空間魔法を無意識に使えるシャルさん。


 メアリーやイビルアイも主人である私に似たのか、移動系の空間魔法を得意としていて、残念ながら収納系は苦手みたいである。


 ちなみにリドリーちゃんは『王都の侍女はこれくらいできて当然』だとセレスさんに言われて死ぬ気で努力して、現在では容量無限&時間停止可能な【亜空間収納(ストレージ)】という魔法を使えるようになっていた。


 普通にその魔法を使えばゴミ屋敷の掃除とか余裕だったと思うんだけど……そこらへんポンコツなのがリドリーちゃんである。



「あとは……『調味料』があれば十分かな?」



 そして私が追加の指示を出すと、焚火の周りに塩と香り付け用のドライハーブが並んで、だいたい食事の準備が整った。



「……メアリーちゃんの便利機能ってどれだけあるんですか?」



 万能メイドとして対抗心を燃やしているのか、焚き火に金網を設置するリドリーちゃんから質問をされたが、そればかりは私にも不明である。



「メアリーの教育は僕が許可した人なら自由にできるからね。エストランド領のみんなに聞いてみないとわからないよ」



 特にセレスさんとかは教育熱心で、次々と新しい便利機能を開発してくれている。


 読書モードなんて『ver7.02』まであるからね。



「坊ちゃまは眷属を自由にさせすぎです……せめて能力の把握くらいはしてください」



 リドリーちゃんが木皿と飲み物を配りながら注意してくるが、そこは焚き火で肉を焼き始めたアイリスがフォローしてくれた。



「ノエルは眷属と仲良しだから問題ないわよ」



 貴族令嬢にも関わらずアイリスは手際よく肉をシャルさんで斬り分けては焼いていき、魔女の家から持ってきたナイフで焼けた肉を給仕してくれる。



「はい、お肉」



 アイリスが器用に肉を乗せるナイフは絵画用のものなのか、持ち手が絵の具のようなもので汚れているものの、ちゃんと刀身のほうは丁寧に洗って浄化までかけていたから問題ないだろう。



「ん、ありがとう」



 花嫁教育の一環として彼女は母様から肉の焼き方を教わっているらしく、皿に置かれたオーク肉はちょうどいい焼き加減になっていた。



「ほら、シャルとリドリーも」


「うむ!」


「ありがとうございます」



 てきぱきと焼けた肉を配りながら、アイリスは言葉を続ける。



「それに眷属の能力が主人の潜在能力を超えることはないから、メアリーが有能なのは喜ばしいことよ」


「へー、眷属ってそういうものなんだ」



 つまり私にはまだまだ伸び代があるということだね?



「……なんだか恐ろしい情報を聞いてしまった気がします…………」



 ちなみにリドリーちゃんは台所に立つことを母様から禁止されているので、調理にはまったく手を出そうとしない。


 なんでも彼女がキッチンに立つと人造生命が生まれるらしい。


 そして食事を終えたところで、私は先ほど制作しておいた家の見取り図を取り出した。


 羊皮紙に書いたそれを小さなテーブルの上に広げれば、みんなが覗き込んできたので情報を求める。



「魔女の家の簡単な見取り図を作ってみたんだけど、なにか追記することがあったら教えてくれる?」



 魔女の家の構造は基本的にリビングを中心とした構造になっていた。


 正面入口から入ると広めのリビングがあって、リビングの奥の壁に扉が二つと、左側の壁に扉が一つ。


 奥の壁の右側の扉は寝室に繋がっていて、もう一つの扉は収納用の倉庫に繋がっている。


 そしてリビングの左側にある扉からはダイニングキッチンに行くことができて、ダイニングキッチンの隅には、かつて私が放り込まれた地下室へと降りる階段があった。


 あとは裏庭のほうに屋根に穴の空いた納屋と井戸があるくらいだ。


 私もまだざっくり見ただけなので抜けが多いだろうと情報を求めると、最初にリドリーちゃんが口を開いた。



「情報じゃないんですけど……できれば私は納屋を自分の部屋としていただきたいです……流石に死体がゴロゴロあったところは乙女として避けたいので……」



 ハーピーたちが食べちゃったせいか、確かに納屋の中にはそれほど生モノがなかったけれど……もともとあそこが最もグロかったことを私は黙っておくことにした。



「おっけー、リドリーは納屋を希望ね」



 まあ、知らなければ特に問題もないだろう。


 続けてシャルさんがメアリーの身体で見取り図を指して、追加の情報をくれる。



「地下室には隠し扉があったのじゃ! おそらく納屋の地下あたりまで石造りの通路が続いていてな? その先は拷問部屋になっておった!」


「納屋の地下には拷問部屋ね」


「……やっぱり納屋はやめてもいいでしょうか?」



 そして私が新しい地下室の場所を記載したところで、さらにアイリスから気になる情報があった。



「私も寝室を浄化していたら地下への扉を見つけたわ……軽く覗いてみたところ宝物庫みたいだったから、あまり触らないでおいたのだけれど……」



「「宝物庫っ!?」」



 アイリスの言葉に私とシャルさんは激しく反応する。


 そんなの聞いてしまったら昼ご飯を食べている場合ではない。


 ロマンをくすぐる宝物庫という響きに、さっそく私はシャルさんを抱えて立ち上がった。



「さっそく漁りに行こう!」


「トレジャーハントなのじゃ!」



 私とシャルさんの宣言にアイリスは嬉しそうに微笑む。



「うふふっ……ノエルったらハシャいじゃってかわいい……それじゃあ案内するわね?」


「「うん(うむ)っ!」」



 そして私たちは食事を中断して、宝物庫漁りをすることにした。



「……あの……納屋は…………」



 なにしてるのリドリーちゃん!?


 モタモタしてると置いてくよ!






     ◆◆◆






 寝室に到着すると、アイリスはベッドを片手で軽々と持ち上げて、そのまま壁へと立てかけた。



「この下に隠し扉があったの」



 ベッドがあった真下に当たる場所を指差すアイリスの案内に従い、私が床に敷かれた絨毯をめくってみると、そこには確かに跳ね上げ式の隠し扉が設置されていた。



「「おおっ……」」



 ワクワクする演出に私とシャルさんが感嘆の声を上げる。


 そして私が扉を持ち上げると、地下へと続く石階段が現れた。


 その先にある鋼鉄製の扉を目にした私とシャルさんは、ゴクリと生唾を飲む。



「鍵とかどうしたの?」



 鋼鉄製の扉には鍵穴があったのでアイリスに確認すると、彼女はあっさり答えた。



「斬ったら開いたわ」



 ……流石は異世界の剣士である。


 階段を下りて扉を押すと、特に抵抗もなく扉が開いて、その向こうにあった六畳間ほどの空間に私は足を踏み入れた。



「「おお~っ!!」」



 そこにあったのは確かに宝物庫だ。


 頑丈そうな石造りの部屋には左右に棚が設置されていて、その上には色とりどりのクリスタルとか、白銀の金属塊とか、神気がこもったオーブとかが並べられている。


 さらに部屋の奥には美しい裸の女性が描かれた一枚の油絵が飾られており、その手前には黒いコートや格好いいガントレットなど洗練された装備品が飾られていた。


 特に黒いコートは『13な機関』に所属する者が身につけるようなフード付きの代物で……その厨二的なデザインに私は一発で惚れ込んだ。


 今はまだ子供だから背丈が足りないけれど、大人になったら絶対これを愛用品にしよう!


 そんな決意を固めながら【創世神の血(コーラ)】を探して奥に歩いていくと、



「……ん?」



 そこでようやく私は奥の絵に異常があることに気がついた。



「なんでこの絵……胸元だけが切り裂かれているんだろう?」



 金髪碧眼の裸の女性が描かれたその絵は見事な出来栄えだったが、どういうわけか豊かな曲線を描く胸元だけが執拗に切り裂かれていた。


 不思議に思って私が振り返ると、第一発見者であるアイリスは首を横に振る。



「私が来た時にはすでにその状態だったわ」


「そっか……」



 ここに飾られているということは、おそらくこの美人は魔女の若かりし頃だろうから、もしかしたら魔女は自分の豊かな胸にコンプレックスを抱いていたのかもしれない。


 たった一枚の絵から魔女の人生に思いを巡らせていると、私の腕の中でシャルさんが激しく震え出した。



「……や、やはり妾の考えは間違ってなかったのじゃ……生首のフリは継続するのじゃっ!!」



 シャルさんも大きいから魔女に共感したのだろうか?


 まあ、絵のことは残念だけど、前回の冒険のリザルトが残っていたことは嬉しいから、とりあえず片付けは後回しにして先にお宝の回収をやってしまおう。



「リドリー。ここにある物全部、空間魔法で回収してもらえる?」



 そして私が最後尾にいたリドリーちゃんに声をかけると、死んだ魚の目で絵を眺めていた彼女は、そっと自分の胸元を押さえて呟いた。



「あれ……? 私が側室になることを勧められている理由って……特定の部位が小さいからですか……?」



 ……なに言ってんの??





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― 新着の感想 ―
[気になる点] アイリス嬢   ダウト! あなたの周りには敵がおおいね! ラウラ、マーサ、アリアさん、そしてエスメラルダさんあたりが、リアクティブアーマーを追加装備してます。(みんな強敵だな、オイ…
[良い点] アイリスさんそこまで...?
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