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第27話  怪しい邪神が現れた!?

相変わらずグロテスクなシーンがありますのでご注意ください。





 宙に浮かぶ『しゃべる剣』を前に、少年ハートをくすぐられた私はシャウトした。



「ふぉおおおおおおおおお~っ!? かっこいい~~~っ!!!」



 心の底からの感嘆に、剣になったシャルティアさんがドヤっとする。



「フハハハハハッ! そうじゃろうとも、そうじゃろうとも! 妾の真の姿は最高にかっこいいじゃろうとも!」



 調子に乗らせてしまったみたいだが確かにかっこいい。


 精緻な金細工が施された両刃の刀身に、嫌らしくならない程度に高級感のある黄金の持ち手。


 純粋にデザインが高そうなうえにロマン溢れる『錆びた剣』とか、ここまで男心をくすぐる剣は滅多に無いだろう。



「欲しいっ! 僕はこの剣が欲しいですっ!」



 子供らしく剣を欲するとシャルティアさんが弾んだ声を出す。



「ええ~、どうしようかのう! 妾ってば身持ちが堅いタイプじゃしぃ! 初対面の男に帯剣を許すほど頭が空っぽでもないしぃ!」



 物理的に空っぽなくせに!


 シャルティアさんに焦らされた私は子供らしく駄々をこねた。



「やだやだやだやだやだやだっ! シャルティアさんは僕の剣にするのっ! 不思議な力を持った錆びた剣が欲しいのっ!!」



 私は大声で叫びながら床に寝転んで手足をジタバタさせる。


 ロマン武器を手に入れるために恥も外聞も捨てて子供の武器を全力で使っていく。


 そうして駄々をこねまくることしばし、シャルティアさんは遂に折れてくれた。



「しょ、しょうがないのぅ! そこまで妾のことが欲しいなら、特別にノエルを主君と呼んでやらんでもない! 本当に特別じゃぞ!」



 全力で求められたことが嬉しいのか、剣からニマニマした雰囲気が滲み出している。



「ほれ、妾を手に取るがいい!」


「うんっ!」



 そして目の前に差し出された剣の柄を手に取ると、私の頭に何かが流れ込んできた。



「ふおおおおおおおおおおおおおっ!!?」



 シャルティアさんの特殊な力に私は再びシャウトする。



「どうじゃ!? 驚いたか? 妾には剣に宿る技の記憶を持ち主に与える力があるのじゃ! まあ、大半の者は妾を使おうとすると頭がパンってなるのじゃが……バケモノみたいな精神力をした主君なら問題ないじゃろ!」



 なにやら怖い話が聞こえたような気もするけれど、剣術アプリをインストール中の私はろくに聞いていなかった。


 わかる! 剣の振り方がわかるぞ!


 やがてインストールが終わった私はシャルティアさんの機能に感動する。


 これはなんというか……新しく剣術用の脳ミソができたような感じだ。


 私にインストールされたのはあくまでシャルティアさんと繋がるためのアプリで、手にしたシャルティアさんが剣を振るための副脳みたいになっているのがわかった。



「フハハッ! 我が力に耐えるとは流石は主君じゃ! 今から妾のことはシャルと呼ぶがいい!」



 剣との同期が終わったことで正式に装備者として認められたのか、シャルさんから愛称で呼ぶことを許可された。



「うん! よろしくシャル!」



 そしてロマン溢れる剣と騒ぎまくる私に、納屋の外から怒号が掛けられる。



「出て来いっ! 小僧ぉおおおおおおっ! わしを騙したこと後悔させてやるっ!!!」



 怒りに満ちた声音を聞いて、私とシャルは二人揃って間抜けな声を出す。



「「あっ……」」



 ……魔女から逃げてること忘れてた!


 恐る恐る壁の隙間から外を覗いてみれば、そこは魔女と魔女が操る魔物たちによって完全に包囲されていた。


 ゴブリンとかオークとかオーガとか数百体の魔物が納屋の周りを囲んでいて、それらの指揮官である魔女は憤怒の形相を浮かべている。


 私とシャルさんは、その光景を見て罪を押し付けあった。



「……シャルが騒ぐから見つかっちゃったじゃないか!」


「……いや、主君のほうがうるさかったじゃろ!」



 相変わらず私たちには緊張感が欠如しているが、最悪の場合でもメアリーにヘルプを求めればどうにかなるのだから仕方ない。


 まあ、今回の冒険はここまでにしようかな。


 血液操作での戦い方も上達してシャルさんとも出会えたから、冒険の収穫も十分だろう。


 なによりこのままだと魔女たちがメアリーに殲滅されそうだし……。


 魔女に私の首が折られたせいで、影の中の眷属はやつらを殺戮したくてウズウズしているのだ。


 そうしてジェノサイドの予感に私が撤退を検討していると、人の姿に戻って外を眺めていたシャルさんが思いもよらぬ情報を口にする。



「おっ! あの男、逃げ遅れて魔女に捕まっておるぞ! あれは解体されて精肉コースじゃな!」


「えっ!? うそっ! 人が捕まってるの!?」



 ケタケタと笑うシャルさんの横に並んで再び外の景色を覗き込んで見れば、確かに魔女の横でひとりのおじさんが這いずっていた。


 怪我をしているのか片腕をかばっているおじさんは武器や防具を身につけておらず、魔女の足元から涙と鼻水を流しながら逃げ出そうとしている。


 初心者用のフィールドで捕まっているということは一般人だろうか?


 要救護者を発見したことで、私の頭から『逃走』の二文字が消えた。


 今回の冒険は遊び半分だったから魔女と戦わずに引こうと思っていたけれど、一般人の命がかかっているなら話は別である。


 私にも人を食らう悪い魔女に善良な一般人が捕まっていたら、助けてあげるくらいの良心はあるのだ。


 緊急事態に戦うことを決意した私は、メアリーにおじさんを守るように指示を出してから、小屋の中へと目を走らせて使えそうな物を探した。


 殲滅もメアリーに頼めば一瞬だと思うが、修業も兼ねてできるだけ自分で戦いたい。


 この森のボスだけあって魔女は体内魔力を支配しているし、多勢に無勢では今までの戦い方ではキツいだろう。


 数百体の魔物の群れと戦う方法を求めて、私の優秀な頭脳が高速で回転する。


 なにかないか……なにか……。


 そして小屋の隅に転がる全身鎧を見て、私の脳裏で豆電球が点灯した。



「――これだっ!?」



 鉄色のフェイスガードが付いたその鎧は、とあるヒーロー映画の冒頭に出てくるプロトタイプのパワードスーツにそっくりだった。





     ◆◆◆





 SIDE:逃げ切れなかった冒険者



 終わりだ……誰か俺を殺してくれ……。


 狂走薬を飲んで逃げ出した俺は、あっさり魔女が操る魔物たちに捕まってしまった。



「ゲギャギャッ! ゲギャッ! ゲギャギャギャギャッ!」



 魔法で俺を拘束した【子鬼族司祭種(ゴブリンシャーマン)】が、石を削って作ったナイフを片手に凶悪な笑みを浮かべて近寄ってくる。


 非道なゴブリンの中でも特にシャーマンは性質が悪く、獲物が悪霊となるように嬲り抜いて殺す習性があった。



「ひっ!?」



 小指の先端に当てられた石剣に、俺はこいつが何をしようとしているのか理解する。


 こいつは切れ味の悪い刃物で指の先端から俺を斬り刻んでいくつもりなのだ。



「殺せぇええええええっ!?? 殺してくれえええええええええっ!!?」



 必死で俺は懇願するが、ゴブリンがそんな頼みを聞くはずもなく、小指の先端に石剣が振り下ろされる。



「がっ!!?」



 脳ミソを揺らすような激しい痛みに呼吸が止まった。



「ギャッギャッギャッ!」



 片手を押さえて蹲る俺の頭上でゴブリンが楽しそうに笑っている。


 もはや戦うことも、逃げることも、命乞いすることすらもできなくなった俺には、絶望的な未来しか待っていない。


 目の前が急速に暗くなっていくが、指の痛みが邪魔をして意識を失うことができない。


 そして俺がこの先にある未来を想像して涙を流していると、数体のゴブリンが俺の身体を担ぎ上げるのがわかった。


 ああ……最悪だ……こいつらに殺されることすら許されないのか……。


 地下室で見たストレガによる拷問は、ゴブリンシャーマンが可愛く思えるほど凄惨なものだった。


 あの恐ろしい魔女の玩具にされる光景が脳裏に浮かんで、俺は何度目になるかわからない失禁をする。


 そして来た道を運ばれた俺は二度と遭遇したくないと思っていた魔女の前まで引きずり出される。


 家の正面入口で待っていた魔女は、俺の姿を見ると嬉しそうに顔を歪めた。



「ひひっ! あんたやるねぇ……わしの目を避けてそこまで逃げ出したやつなんて初めてだよぉ」



 涙を流して震えることしかできない俺の顔に、酷い悪臭を放つ魔女の細腕が伸びてくる。



「……や、やめてくれ…………」



 どうにか絞り出した声で懇願するが、魔女の手は止まらず俺の頭を掴んだ。



「やめないよぉ……わしは『目を盗まれる』のが大嫌いなんだぁ……あんたみたいな雑魚に出し抜かれたなんて、魔女としての沽券にかかわるだろぉ?」



 鋭い魔女の爪が俺の頬に食い込んで、幾筋もの傷が作られる。


 しかし俺はあまりの恐怖で痛みを感じることすらできなかった。


 蛆の湧く手が、虫の這い回る肌が、顔にあいた二つの黒い穴が、俺に最悪の未来を連想させる。



「決めたよぉ――」



 そして続けて発せられたストレガの宣言に、俺の心は絶望で塗りつぶされそうになった。



「――あんたはいい男だから殺さないでおいてやる。わしのペットにして飼い続けて――あん?」



 全身が粟立つような悍ましい宣言の途中で、魔女は裏庭のほうへと振り返る。



「? どうして小僧が歩いているんだい!? きっちり首の骨をへし折ったはずだろう!?」



 そのまま魔女は俺を引きずって裏庭のほうへと歩いていく。


 魔女の家の裏庭には粗末な納屋が建っており、軒先に手首や内蔵が吊るされた不気味なその建物からは、明るく談笑する声が響いていた。



「ふぉおおおおおおおおお~っ!? かっこいい~~~っ!!!」


「フハハハハハッ! そうじゃろうとも、そうじゃろうとも! 妾の真の姿は最高にかっこいいじゃろうとも!」



 死の気配が満ちる森に似合わない呑気な声音に、魔女から濃密な殺気が漂ってくる。


 この声は地下室であったガキと生首のものだろうか?


 バケモノ同士の遭遇に、俺の心に微かな希望の光が芽生えてくる。


 あのガキと生首がどういった存在なのかはわからないが、俺から見た異常性は魔女と似たり寄ったりだ。


 やつらと魔女が戦えば、そこには大きな隙ができるはず……。



 上手くやれば逃げられるかもしれないっ!



 納屋へと意識を向ける魔女の手が俺から離れ、怒りを多分に含んだ金切り声が発せられる。



「出て来いっ! 小僧ぉおおおおおおっ! わしを騙したこと後悔させてやるっ!!!」



 俺は魔女の意識が自分から逸れた隙を突いて、地面を這いずって逃げ出した。


 これまで鍛えてきた技術を使う余裕なんてない。


 どんなに無様でもいいから、少しでもこの怪物から離れたかった。


 そして近くの茂みに逃げ込んだところで、俺はこれ以上の逃走が無理だと悟る。


 納屋と魔女を取り囲むように配置された数百の魔物たち。


 不自然に目玉を回転させて佇む魔物たちは、全てが魔女に支配されているのだとわかった。


 100人を超える【金朱】の冒険者?


 たったそれだけの戦力でこの魔女を討とうとしていた俺たちはとんでもない阿呆だ。


 倍の人数がいたところで結果は変わらなかっただろう。


 激流の中に落とされた木端のような自分は、もはやこれから起こるバケモノ同士の戦いを見守ることしかできなかった。


 魔女が生き残れば俺は死ぬよりも悲惨な運命を迎えるのは間違いない。


 不気味なガキと生首が生き残れば俺は助かるかもしれないし、魔女に捕まるよりも悲惨な末路を迎えるかもしれない。


 なにもできることがなくなった俺はただ神に祈った。


 子供のころ両親から教わった月の女神への祈りを必死で繰り返す。


 もしも生きて帰ることができたなら……俺は神官になろう。


 奇跡でも起こらなければ、この樹海から抜け出すことなどできないだろうから。


 そして俺が真摯に祈りを捧げていると、納屋の屋根を突き破って何かが飛び出してきた。


 夜空に高く飛び上がったそれは月明かりを背負ったあと地面に着地して、ガシャッと重い金属音を響かせる。



「ひっ!? ひぃいいいいいいいいいいいっ!?」



 その姿に俺は思わず悲鳴を上げた。


 闇の中で蠢く赤黒い触手。


 俺の数倍は大きなその触手の塊は、人間を真似するように金属鎧を身につけており、顔を模して作られたフェイスガードが異様な不気味さを放っている。



「殺せええええええええっ!!!」



 魔女と魔物たちがそいつに向けて見たこともない高威力の魔法を放つが、鎧が傷つくだけで触手にはまったく効いていない。



 ――こいつは邪神かっ!?



 ガタガタと震える俺の前で、邪神は触手で握った剣を振り回し、飛来する魔法を打ち払った。



「フハハハハッ! なんじゃこれ!? なんじゃこれぇっ!?? 主君は面白いこと考えるのぉ!」



 その手に握られているのは間違いなく森の中でみた剣と同じもの。


 人を惹きつけ殺す呪剣を手懐けたらしい邪神は、雨のように降り注ぐ魔法がやんだところで、人を模したフェイスガードの奥からくぐもった声を出す。



「――こちらの番だ」



 そして魔女と邪神の、伝説に語られるような殺し合いが始まった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 結局捕まったんか~い! 触手アーマーなんて一体どこで覚えたの!? 正直に言いなさい!(冤罪)
[良い点] そのうちメアリーちゃん、ぺっ 、ぺっしなさい!○○食べたらめっ、もあるんかなあ。
[良い点] サイレントヒルみたいなの想像して、夏らしく涼しくなりました。 (`・ω・´)ゞ邪神VS魔女ですね、楽しみです。
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