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第111話  仮面のお茶会

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。




SIDE:ノエル



 ルガット先生の授業を受けた二日後。


 私はさらなるスクールライフの充実を目指して吸血鬼のお茶会に参加してみることにした。


 やはり幼い頃にできた友達というのは特別なものだからね。


 十歳ならまだギリギリ『幼馴染』と呼べるだろうし、ここらで大量に友達を作って、いずれはお中元とかを送り合う仲になるのだ。


 私が田舎で取れた新鮮な作物を送って、相手は遠方の美味しい物を送り返してくれる。


 そんな素敵な関係性を夢見ながら、私は日課の修行をこなしていく。


 そして朝にスティングさんと戦闘訓練を行い、いつもみたいに船の墓場で朝食を食べ終わったところで、昨日も現れた銀髪美少女にアイリスとシャルさんが拉致された。



「かわいいの好き!」


「ちょ、ちょっと待って! アルル師匠! 今日はノエルとお茶会に行く予定だから!」


「ぬおっ!? なんで妾まで掴むのじゃ!? 着せ替え人形ならそやつだけで十分じゃろうがっ!」



 必死に廃船のマストへとしがみつくアイリスと、小脇に抱えられて文句を言うシャルさん。


 アルル師匠と呼ばれたその美少女はしばらくリドリーちゃんと私を眺めて悩む素振りをしていたが、けっきょくアイリスとシャルさんのほうが『かわいい』と判断したのか、



「お着替えっ♪ お着替えっ♪」


「いやあああああああああああああああああっ!?」


「嫌じゃああああああああああああああああっ!?」



 アルルさんは凄まじい怪力でマストを圧し折って絶叫する二人を連行していった。



「……なんだか乙女として負けた気分です」


「……あの二人が相手じゃ仕方ないんじゃないかな」



 リドリーちゃんも美少女ではあるけれど、アイリスとシャルさんは絶世の美少女と美女なのだ。



「……昼飯の食材を減らしたのは正解だったな」



 昨日はアイリスがいなくなったことで食材を余らせてしまったスティングさんだが、彼は着実に料理人としての腕を上げているらしい。


 そんなこんなでパーティーメンバーを二人失いつつ、その後はリドリーちゃんに見張られながら【絶影】の修行をする。


 まあ、修行と言っても鏡に映らない状態を維持するだけなので、基本的には家でスティングさんに作ってもらったお菓子を食べながらゴロゴロしているだけなんだけど……。



「……なんだか坊ちゃまの修行はズルいですね」


「痛い思いは小さい頃にたくさんしたからね」



 膝の上で極楽を満喫する私にジト目を向けてくるリドリーちゃん。


 そうして穏やかに修行しながら日が暮れてきたところで、私は影から上がって服装を整えた。


 けっきょくルガット先生に生首状態でお茶会に参加することを禁止されてしまったので、今日は紳士服に髑髏の仮面だけを着けたスタイルになる。


 吸血鬼たちのパーティーには色々と種類があるらしいのだが、なんでも本日開催されるお茶会は師匠が定期的に主催しているものらしく、そこでは必ず仮面を着けて参加するのがマナーなのだとか。


 私の髪に櫛を入れながら、パーティー用にオシャレな花瓶を一個だけ頭に乗せたリドリーちゃんが注意してくる。



「いいですか、坊ちゃま? 絶対にハメを外してはいけませんからね?」


「嫌だなリドリー、僕だってちゃんと時と場合くらいわきまえるよ」



 こちとら精神年齢は四十代中盤なのだから、パーティーで粗相をするような真似をするはずがない。



「生首のまま参加しようとしたくせに……」



 だって修行を続けたかったんだもの……。


 そうして小言を言われながら準備を整えていると、玄関が開いてアイリスとシャルさんがデリバリーされてくる。



「かわいい!」



 そう言ってアルルさんから差し出されたアイリスは、確かに真紅のドレスが似合うお姫様になっていた。



「……貴族令嬢って大変なのね…………」



 これまで気楽な田舎娘として暮らしてきたせいか、ほぼ半日かけた着替えにぐったりしているアイリス。



「かっこかわいい!」



 続けて差し出されたシャルさんは豪華な鞘に収まっていて、いつもより若干キラキラしていた。



「……オシャレなんて嫌いじゃ…………」



 本人はアイリス同様にぐったりしているみたいだけれど……おそらくアルルさんがシャルさんにピッタリな鞘を拵えてくれたのだろう。


 高そうなドレスにいくつもの魔法がかけられた鞘を見て、私は気前の良い賢者様へと頭を下げる。



「ありがとうございます、アルルさん! 今後ともよろしくお願いいたします!」



 権力者とは仲良くしておきたい私が下心満載でお礼を言うと、



「……こっちもありがと」



 アルルさんはそれだけ言って、私の頭を優しく撫でてから立ち去った。


 うむ、やはりあの人はいい人だな……職業は墓荒らしみたいだけど。


 婚約者の師匠を見送ってから、私はアイリスへと片手を差し出す。



「とてもよく似合っているよ。君の綺麗な蒼い瞳には血の赤がよく映える」



 ちゃんと吸血鬼らしく褒めると、アイリスは頬を赤く染めた。



「あなたに褒めてもらえるなら……我慢した甲斐があったわ……」



 褒められて照れるお姫様がかわいい。


 そんな風に私たちが二人でラブい雰囲気を作っていると、シャルさんが文句を言ってくる。



「妾のことも褒めんか、主君!」


「はいはい、シャルもかっこいいよ」


「そうじゃろーっ!」



 そして適当に褒めても満足してくれる愛剣を左腰に差し、アイリスが自然と私の右腕に寄り添ったことで出発の準備が整った。


 ミストリア王国でパーティーに出席する時には、剣を振るう側の手にパートナーを置くことで、帯剣していても戦闘の意思がないことを示すことができるらしい。


 珍しく正装した私たちを見て、リドリーちゃんが嬉しそうに呟く。



「両手に花ですねー」



 いざという時にはアイリスがシャルさんを抜いて戦うだろうから、私としては『両手に剣』って感じだけどね。


 お茶会は暗くなってからはじまるため、完全に日が暮れたことを確認し、エプロン姿で見送りをしてくれるスティングさんに別れを告げてから家を出る。



「それじゃあ行ってきます。晩御飯はいりませんから」


「うむ……って、なぜに俺が貴様らの晩飯を気にしなくてはならんのだ……」



 ルガット先生から聞いたお茶会の会場は【鮮血街】の中央寄り――つまり私たちが住む家からそう遠くない場所にあるらしく、アイリスとリドリーちゃんを侍らせて家の前の坂道を上がって行くと、次第に仮面姿で正装した通行人の姿が増えてくる。



「けっこう参加者がいるのね? プリメラーナ様も出席するのかしら?」



 アイリスの呟きに、私はルガットさんから聞いた情報をそのまま伝える。



「師匠はいつも最後にちょっとだけ顔を出すらしいよ? 今日の集まりはいちおう師匠が主催しているお茶会らしいけど、いつもバイロンって【エセ執事】が運営を押し付けられているんだって」



 私がそんな説明をすると、リドリーちゃんが後ろで乾いた声を出した。



「……バイロン様ってエストランド家の寄り親ですよね?」


「……ええ、今さらだけど挨拶とかしなくてよかったのかしら?」



 ふむ、どうやら父様の胃痛の種を知らず知らずのうちに増やしてしまっていたようだが……会場でバイロンさんを見かけたら真っ先に挨拶をすることにしよう……。


 そうして新生活に浮かれて大切な挨拶周りを忘れていたことに気づいた私たちは、仮面の吸血鬼たちの流れに乗って島の中央にある古城の近くまで歩いた。


 道行く吸血鬼たちは様々なデザインの仮面を装着しているが、それらは大きく分けると三つのタイプに別れている。


 鳥を模した物。


 獣を模した物。


 数字が刻まれた物。


 ……いちおう私はルガットさんの勧めで髑髏を模した仮面にしたのだが……これ、空気が読めない感じになってないだろうか?


 気がつくと周りの人並みが自然と私たちのことを避けていて、私は吸血鬼の中で確実に自分が浮いていることを察した。



「……なんか避けられてるよね?」



 少し気まずくなって囁くと、肝の据わったシャルさんが笑い出す。



「フハハハハっ! そんなもんいちいち気にするでないわ! 偉大な覇者の前には自然と道ができるものなのじゃ!」


「! 流石はリドルリーナ様!」


「誰が偉大な覇者ですかっ!?」



 私のボケに、ビシッ、と突っ込んでくれるリドリーちゃん。


 まあ、もともと私はこういう場で空気が読める性格ではないし、礼儀作法を極めたルガットさんならちゃんとした考えがあって髑髏面を用意させたのだろうから、気にせずこのまま参加することにしよう。


 そして私たちは吸血鬼の波を切り開いて【白猫館】と書かれた白い大きな建物の入口を目指したが、そこには人だかりができていて、



「まだ会場は開いてないみたいね?」



 アイリスが言う通り、入口前では鳥仮面を被った者たちが通せんぼをしていた。


 しかし私が入場開始時間を聞こうと思って近づくと、彼らは戸惑いながらも道を開けてくれたので、



「あ、これはどうも」



 こういう大きなパーティー初参加の私は、とりあえずそのまま入ってみることにする。



「あれっ!? 入っていいんですか!?」



 すんなり通されたことにリドリーちゃんは驚いているけれど、特に鳥仮面たちには止められなかったので、たぶん大丈夫なのだろう。



「いちおう家もバイロンさんの派閥らしいから、お手伝いだと思われたんじゃない?」


「……そんな雰囲気じゃありませんでしたけど?」



 そのまま流れでエントランスを抜けて会場らしき大広間に入ると、そこでは鳥の仮面の者たちが忙しなく動いていて、彼らがお茶会の仕切りを任されたバイロンさんの関係者であることがわかる。


 会場の奥に鳥仮面の者たちが集まっている場所があったため、私が寄り親とやらの場所を聞こうと近づくと、鳥仮面の群れの中にひとりだけ仮面を被っていない紳士が立っていた。


 シャキッと伸びた背筋に、白い手袋。


 黒髪赤眼で細マッチョな体型のその人は、どこか父様に似ている雰囲気があって……紳士服に身を包んだ執事みたいな格好の男性を見て、私はひと目で彼がバイロンさんだと確信した。


 なるほど……確かにこれは【エセ執事】だ。


 テキパキと指示を出すその姿は優秀な執事そのものだが……顔が良すぎてホストにしか見えないもの……。


 そのまま近づいて行くとバイロンさん(仮)は私の姿を綺麗に二度見して、続けてリドリーちゃんの頭に乗ったオシャレな花瓶を見て、そのこめかみに青筋を浮かべる。



「……ルガット……あの【腹黒女】め…………いったいこれはどういうつもりだっ!?」



 たちまち蝙蝠に変身して窓から飛び出して行ってしまうバイロンさん。



「あっ…………」



 挨拶できなくて取り残された私は、鳥仮面たちの冷たい視線を集めてしまったので、そそくさと壁際まで避難する。



「……なんか怒ってたね? やっぱり挨拶が遅れたのは不味かったかな?」



 恐る恐る私がそういった機微に詳しそうなアイリスへと訊ねると、彼女はなぜか私の顔を見ながら遠い目になった。



「いえ、今のもおそらくその仮面が原因で――」



 と、そこまで彼女が口にしたところで、会場の扉が大きく開け放たれて、外にいた吸血鬼たちの入場がはじまった。


 しばらくその様子を観察していると、やがてパーティー会場には二〇〇人くらいの吸血鬼の子供たちが集まって、彼らは仮面の模様ごとに三つのグループに分かれる。


 だいたい獣仮面が八〇、鳥仮面が七〇、そして数字が刻まれた仮面の者たちが五〇人くらいだろう。


 彼らはグループごとに集まると、まるで昭和の不良グループみたいに剣呑な空気を出し合って、やがて互いに【血液操作】の思念を飛ばしはじめた。



「おお~……」



 やっぱり吸血鬼ってこういう挨拶をするんだ!


 かつて師匠と交わしたやり取りを思い出して、あれはヤバい知識を持つ子供を爆散させようとしてただけではなく、いちおう正式な挨拶だったのかと私は納得する。


 若い吸血鬼たちの中には仮面の下から流した鼻血で白い床を汚してしまう者もいて、そういった者たちは悔しそうに拳を握りながら【血液操作】の力を振り絞っていた。


 ふむふむ……獣仮面の吸血鬼たちは人数こそ多いけれど、他人の血を操るのが苦手なのかな?


 飛ばしている思念の波長がかなり不安定である。


 鳥仮面の吸血鬼たちはそこそこ【血液操作】が得意なのか安定感があって、数字の仮面の吸血鬼たちは少数精鋭なのか、最も【血液操作】が安定している……。



「うーむ……これはどうしたものだろう……」



 人数差がちょうど良い感じなので彼らの【血液操作】は拮抗していて……それ故に私はどこに加わればいいものかと悩むことになった。


 たくさん友達が欲しいなら人数の多い獣仮面に加わるのが賢い選択だろうけど……いちおう家は鳥仮面の派閥みたいだし……最も人数が少ない数字仮面に加担したほうが男らしい気もする。


 そうして私が悩んでいると、獣仮面の中から金色のドリルが飛び出してきて、



「――ああっ!? 貴様ぁああああああああああああああっ!?!?!?」



 彼女はドリルをギュインギュイン揺らしながら近づいてきた。


 凄いやこの子……仮面の意味がまるで無い……。


 私の前まで肩を怒らせて歩いてきたドリルは、そのまま私の仮面に頭突きしようとしてくる。



「うおらっ! 死にやがりませっ! この痴れ者がぁっ!」



 ヤンキーのような挨拶だが、アイリスが素早く私の顔の前に【空間結界】を張ってくれたため、ドリルの頭突きは私の頭の五センチ手前で止まった。



「「「「あっ……」」」」



 しかし予想外だったのは、ドリルが手加減無しの全力全開で頭突きをぶち込んできたことである。


 アイリスがガチガチに固めた防御にそんな真似をすれば、もちろんドリルの頭が割れてしまうわけで……。



「……うきゅぅ…………」



 案の定、おでこから血を吹き出したドリルは、パタリ、とパーティー会場の床に倒れた。



「「「――ロレッタ様っ!?」」」



 もちろんそんな目立つ真似をされれば私へと会場の視線が集まって……ドリルと同じ獣仮面だけでなく、鳥仮面や数字仮面の者たちも私へと視線を向けてくる……。



「――……え? 髑髏面?」


「――あれって【皇女】様の意匠では?」


「――なるほど……確かにこいつは痴れ者だっ!!!」



 さらに彼らは私ひとりに向かってみんなで【血液操作】の力を飛ばしてきて、私の全身に二百人分の思念がのしかかる。



「なにそれ酷い」



 いくら仮面が仲間外れだからって、世の中にはやっていいことと悪いことがあるだろう。


 一対二〇〇とか、これはもう完全にイジメである。


 ……まあ、彼らも本気じゃないのか、大した力はかかっていないけれど……それでも正面から多人数の思念を当てられるというのは非常に不愉快だった。



「――ちょっとやめてよ」



 だからイジメを受けたと思って私が【血液操作】の思念を軽く振り下ろすと、



「「「「「――っ!?!?!?」」」」」



 会場にいた二百人の年若い吸血鬼たちは、一斉に白い床へとへばり付いた。



 …………………………集団コントかな?






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― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。 そっかー師匠もいたずら好きだったかー。 うん、いままでの集まりは、最後に登場して死なない程度に殲滅してたんでしょうね。 今回どうなるんでしょうね?楽しみにしてます…
挨拶が会殺にならなくてよかった
これ、挨拶しない方が父に迷惑掛からないのでは?(笑)
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