高良家の人々
高良慶昌……主人公
高良慶樹……主人公の叔父
慶昌はテーブルの上にあったゲームソフトを、内容を確認しつつゲーム機本体にセットする。
オープニングを流しながら、冷蔵庫からコーラを、水屋の棚からポテチを取り出してソファに座った。
「まずは名前、と」
コントローラーを操作して主人公の名前を入力。
諸々の情報を入れ込んでスタート。ゲームが始まった。
主人公はある日、母に言われて王のいる城へ出かけ、そこで自分が国王の隠し子である事を知る。
そして他の兄弟よりも強い勇者の資質を認められ、世界を救う旅に出るのだった……。
慶昌は主人公を動かしてあちこちの街や紫を救い、伝説を蘇らせていく。
そして数時間後、ドアのノックの音でバイト終了の時間となった。
「お疲れ。今日はどうだった?」
「キッツイっす。これなんですか? ガンガン力吸われて死にそうなんすけど」
目の下にわずかにクマができかけている甥っ子に、慶樹は笑った。
「九州の田舎のほうの土地の関係だよ。いけそう?」
「いや、まあ、時間かければなんとか……」
「時間かあ。どのくらい?」
「いやわかんないですよ。ていうかこんな簡単なゲームで何度もゲームオーバーするとか有り得ねえ。土地ってほんとそれだけですか? 死人出てないっすよね?」
「うーん、まあ体壊さない程度に頑張って。無理なら無理でもいいし」
「はあ……」
納得行かない、という表情で慶昌は頭を掻いた。
慶樹の胡散臭いにこにこ顔が少しばかり腹立たしい。
だが詳しい説明をしないのは自分のためだという事も分かっていたため、それ以上は口を閉じた。
高良家は昔から沖縄の那覇を本拠にしている占い師の一族だ。
霊力が高い家系で、時々はユタが生まれる事もある。
だが高良家の基本は占いで、王家に仕えたノロや、市井の霊媒師であるユタとは違う世界の一族と言っていい。
霊媒師、よりも現代ではシャーマンのほうが理解しやすいだろうか。
占いは統計学であり、学問の一種である。
高良家では一族の人間にそう教えているが、霊的なものも否定してはいない。
だが一般的には占いもユタも同じようなもので、また時折突然変異のようにユタが生まれる事からも、高良家には占いだけでなく神や先祖の相談なども持ち込まれる事があった。
当然、呪いや祟りといった事柄も。
そういう事はやっていないと突っぱねればいいのだが、当然相手はそれでは納得しないわけで、勢い高良家はユタや霊能力者といった人物との関わりも深くなった。
そんな中、霊と戦う力を持った子供というものもまた、不思議と生まれるようになったのがこの高良家だ。
必要に迫られて進化でもしたのかもしれない。
特に慶昌の叔父・慶樹は一風変わった能力を持っていた。
それは、霊的な解決が必要な出来事をゲームソフトとエネルギー的に繋げるというものだ。
結果、そのソフトは呪われたゲームソフトとなってしまう。
そのゲームタイトル全てが、ではない。
霊的要因と繋がったその一本のソフトだけが呪われてしまうのだ。
そして霊力が高い人間がそのゲームをクリアすれば、そもそもの霊障も一緒に解決されてしまうという驚きの親切設計。
問題は、このゲームをしている間は馬鹿みたいに大量の霊力を使うことになるという点だ。
慶樹の能力が判明した直後、これはいいと調子に乗った一族のゲーム好き達が次々と倒れた。
原因は霊的消耗。
我こそはと腕自慢のゲーム好きもやはり倒れた。アホである。
ゲームの上手い下手、簡単難しい、そんなものは一切関係ない。
呪いの強さがゲーマー達の霊力を消費させ、ミスを犯させ、意識を朦朧とさせてゲームクリアを困難にする。
削られまくった霊力は気力体力精神力をも冒し、さらには生命力までも削った。
これにより、慶樹の能力は禁忌とされ、封印されるかに見えた……が。
それを解決したのが慶昌の霊力の多さと、ゲーマーとしての才能だった。
慶昌自身、ゲームは嫌いではないため逆らうことなく叔父のゲームショップで日々霊障と戦っているが、それでも霊的な疲労困憊は肉体疲労とは違い心も体も弱らせる。
健康な高校生男子だからこそ回復して学生生活もできるが、霊との戦いは本来命を脅かされるものであり、実際このやり方でもゲームで死亡すればさらに大量の霊力を持っていかれ、生命を脅かされる恐ろしいものなのだ。
例えば、ゲームを続けるのに50の霊力を使ってセーブできればそれだけで済むが、死亡すれば100の霊力をさらに持っていかれる、というわけだ。
さらにそこに他人の命もかかっているとなれば……。
慶昌に相手の詳しい説明をしないのは、慶樹の可愛い甥っ子への気遣いに他ならなかった。
サブタイトルが「高良家の人々」なのに2人しか出てこないこの不思議。