因果が巡る
夜勤を終えコンビニでパンと缶コーヒーを購入し塒に帰る途中、川沿いの遊歩道になっている土手から川岸に下りる階段に腰掛けて朝食を摂る。
パンを缶コーヒーで流し込みながら川の流れを眺めていたら、60年前のあの時の事が頭に浮かぶ。
俺は60年前、13のとき人を殺した。
希望する……否、親の望む高校を受験するため塾でテスト漬けの毎日に嫌気がさしていたある日、塾仲間数人と公園で寝起きしていたホームレスを襲撃して殺してしまう。
俺は13で少年法に守られて処罰される事はなかったけど、仲間は皆14になっていたんで少年刑務所に収監された。
少年法に守られていると言っても外聞が悪いと、俺は遠方に住む父の友人に預けられその街で中学高校を卒業し就職する。
就職してから数年後結婚し子供も生まれ親子3人慎ましく暮らしていた。
だけど娘が小学校の高学年になったときイジメにあう、「人殺しの娘」「犯罪者の子供」と言われてのイジメ。
俺の過去を知る誰かが小学校の保護者の中にいて、子供にそのことを教えたらしい。
俺は妻にも職場にも人を殺した事を話していなかった。
妻は署名した緑の紙を置いて娘を連れ家を出て行く。
職場でも退職するように促され会社を辞めた。
その街で暮らし続ける事ができず生まれ故郷に帰る事も出来なかった俺は、母の実家があったこの街に越して来て従兄の経営するアパートに塒を得る。
妻と離縁して40年、娘が大学を卒業するまで養育費は払い続けたけど、あれから1度も娘に会えていない。
妻だった女からは、娘自身が俺と会う事を拒否してるのだと告げられている。
それらの事を思い浮かべていた俺の背中が突然後ろから殴られた。
衝撃で階段を転がり落ちる。
頭から血を流しながら階段の上を見上げると、バットを持った無表情の中学生らしい男が立っていた。
男は次の一打を加えようとしているのか階段を降りて来る。
男が俺の頭目掛けてバットを振り下ろそうとした時、土手の上から怒声が響く。
「コラー! 何をやっているんだ!」
偶々早朝ランニングをしていた男性に助けられた。
病院のベッドに寝かされている俺を訪ねて来た、ニヤニヤと薄ら笑いを顔に浮かべた警官が俺に言う。
「あんたを襲撃した中学生、あんたが昔殺したホームレスのお兄さんの曾孫だったわ。
こういうのを因果が巡るって言うのかね」