表情筋は死んでいる
「そういう事で、イズちゃんには出来れば一日だけでもカプスとの時間を取って欲しいんだよね」
イズとナグモの為に用意された部屋にやってきたシゾンは話の経緯をかい摘みつつ話す。
「おお、おお、あのお嬢ちゃんか。
ここにおる者の中で一番見込みがおると思っておったが……まさかイズにのう」
横で話を聞いていたナグモが嬉しそうに頷く。
目をつけた女性が自慢の孫に好意を抱いているというのが単純に嬉しいのだろう。
「こちらでお世話になっている身ですし、私は構いませんよ。
期待に添うのは難しいと思いますが」
「うん、それは分かってるし本人にも伝えるつもり。
ただ、キチンと決着付けた方が前に進める人だから」
「それは分かります。
少ない時間のやり取りでしたが、とても好感の持てる方でした。
ですから、自分のやれる範囲で最大限の協力はさせてもらいますよ」
「ありがとう。
カプスは私にとってもお姉ちゃんみたいな人だからイズちゃんみたいな人を好きになってくれて良かったよ。
…….それとも逆にああいう性格の人だからイズちゃんに惚れたのかな?
うーん、恋愛って全然分かんない」
「その内分かる人には出会えるかもしれませんよ。
シゾンさんは今はお姉さんが大好きなんですよね?
暫くはそれでいいじゃないですか」
イズがそう言うとシゾンは心からの笑顔を見せる。
「うん、お姉ちゃんが大好きって事で満足してるから、恋愛とかはまだいいかな」
「羨ましい限りに良好な関係だな」
ナグモはクレアが元は祖父だと言う事を知っている。
なので、お姉ちゃんをお爺ちゃんに置き換えて羨ましがっていた。
「私もお爺様は大好きですよ」
「うむ、普段から伝わっておるし言葉にしてもらえるのは嬉しいのだよ。
その……そこに笑顔を乗せてくれてりとか……」
イズの表情はエリーといる時以外はほぼ動かない。
お爺様が大好きと言う言葉とは裏腹に顔は無表情のままであった。
「うーん、笑ってるつもりなんですけどね。
加護を受けた影響が表情筋が死んでるんですよ。
なので滅多に動かな……」
その瞬間にイズは何かに気付いたように顔を別の場所に向ける。
ナグモも何かを察したようでそちらの方に顔を向けていた。
「どうしたの?」
「クレアさんの部屋に何かが侵入したようです。
あの人なら大丈夫だと思いますが……行きましょう」
「え、お姉ちゃんの部屋にって待って待って、私も行く!」
イズがそう言って駆け出したのを慌てて追いかけるシゾン。
「イズがそう言うのであればいるんじゃろうな。
ワシは館の者に知らせておこうかのう」