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姉御の悩み

「はぁ〜」


アンデルスト家の使用人達には専用の寮が与えられている。


基本的に2人1組の部屋となっており、部屋に帰ってきたカプスは窓の外を眺めながら溜め息をついていた。


「どうしたんですか、姐さん?」


カプスと同室で暮らしているのは、先程も一緒にチームを組んでいたレンジャーのイリスであった。


カプスは持ち前の姉御肌でメイド達に慕われており、このイリスはその中でも特に彼女を慕っている人物である。


いつも明るく豪快、竹を割ったようにサバサバとした性格ながら、メイドとしての力量も高い。


そんな彼女がこれほどまでに落ち込んでいるのを初めて見たのであった。


「ああ、イリスかい。

いや、気にしないでおくれ……はぁ」


一瞬だけイリスの方を見たカプスであったが、再び窓の外に顔を向けてはため息をつく。


「姐さんがそんなに落ち込んでたら気にならないわけないじゃないっすか。

あのイズっていうお嬢さんと何かあったんですかい?」


「あ、あ、あ、あいつとはべ、べ、別に……」


イズの名前が出た瞬間に顔を真っ赤にして動揺するカプス。


「姐さん、流石にベッタベタ過ぎますよ。

それで何があったんですか?」


「それは……」


「いつも私達の方がお世話になってるんです。

偶には借りを返させてくださいよ」


イリスはそう言ってお茶を淹れるとカプスの前に差し出した。


「……そうだね。

悪いが頼らせてもらうよ」


そうして先程の浴場でのやり取りをイリスに話す。


彼女は風呂に突撃したところまでは、「姐さんまたやったんすか」と笑っていたのだが、イズの正体の話になると明らかに顔色が変わってきた。


「え、あの人が男って嘘でしょ?

流石に見間違いじゃ」


「いや、ちゃんとついてたんだよ。

それに動揺して逃げるように出てきっちまった。

こんなのあたしらしくないのにね」


「それで姐さんは何をそんなに悩んでるんですか?

男が入ってきたらぶちのめすのが姐さんでしょ」


女だてら冒険者稼業をやっていると覗きやら何やらの痴漢と遭遇する率は高い。


だが、カプスは冒険者時代からそう言った輩は全員残さずぶちのめして反省させてきたのだ。


「そりゃ相手に非がありゃそうするさ。

でも、今回はあたしが勝手に入ってきたんだからそんな事出来るわけないだろ?

それにあいつはあたしよりも遥かに強いんだ」


そう話すカプスの頬が僅かに赤みがかる。


それを見たイリスはポンと手を叩いた。


「ああ、はいはい、分かっちゃったっスよ。

要は姐さんあのイズって子に惚れちゃったわけですね」


「ぶふぅ!!」


突然のイリスの言葉に含んだお茶を吐き出すカプスであった。

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