アンデルスト家の使用人
ファモとメローヌがアンデルスト家に滞在してから一週間が経過していた。
最初にやってきた頃は、話に聞いた事しか無かった上流階級の貴族家のような雰囲気に圧倒されていた2人であったが、一週間も経つとそれだけではない、独特の雰囲気というものを理解し始めた。
それと言うのも……
「今日もお願いしますわ!」
「何処からでもどうぞ」
広い庭の一角でメローヌと使用人の1人が竹で出来た剣を持って対峙している。
果敢に攻めるメローヌの攻撃を、使用人の男性は左手を腰に当て、姿勢を一切崩さないまま捌き切っていた。
「えい!……うーん、なかなか上手くいかないなぁ」
「練習あるのみですからね。
慣れればこのくらいはこなせるようになりますよ」
また、別の場所に目を向けるとファモが、的に対して2本の矢を同時に発射するという技の練習をしていた。
その横で、初日ファモとメローヌにお茶を淹れてくれていたメイドさんが、矢を同時に5本射出して全てど真ん中に命中させるという神技を披露していた。
「お嬢さま、もっと重心を意識してください。
大剣に振り回されるのではなく自らの力でまた振り回す。
その為にも最もスピードの乗る重心の位置を強く意識することが大事なのです」
「そう言われても……ふぐぐぐ……」
自分の巨体と同じくらいの大きさの大剣を持ったシゾンが、その剣を何とか振るっている。
その横では身長が150あるか無いかというメイドが、シゾンと同じ大きさの大剣を軽々と振り回していた。
「ふむ、ワシらが出て行った頃よりも遥かに研鑽を積んでおるな。
皆、サボらずにがんばっておったようでワシも嬉しいぞ」
「このアンデルスト家で働ける幸運というものを活かさないものはおりません。
当主様に感謝を捧げつつ常に己を磨いておりますよ」
実はこのアンデルスト家で働いている使用人たちは現役の一流冒険者が殆どである。
冒険者は高位になると直接の指名依頼が入るのだが、クレアたちが受けたものは例外であり、殆どが上級の貴族や商人からの依頼である。
旅程での護衛依頼ならばまだ良いのだが、中には執事やメイドに変装して護衛を行う依頼もある。
当然、それらの依頼を受けるには教養が必要なのだが、ここまで冒険者一筋で生きてきた者達がそんなものを身に付けている訳がない。
そこで指名依頼を受けれるほどに力をつけた冒険者は、希望すればこのアンデルスト家の職に就くことが出来るのだ。
彼らはここで一流の教養を学び、更にこうして訓練の時間も設けられる事で、一流から超一流の冒険者へと変貌を遂げていく。
アンデルスト家で働いていたというだけで指名依頼の量が格段に増える一種のステータスとなるのである。
その為、この屋敷の戦力は並の貴族では太刀打ち出来ず、一国家に匹敵するとまで言われているのだ。




