幼少期のシゾン
「はぁ〜本当に天国みたいな時間だったね」
湯浴みを終えた2人は自室に帰ってきたのだが、やはりというか、当たり前のようにファモはメローヌの部屋にいた。
自分の家とは比べ物にならないほどの大浴場に、常に自分の世話をしてくれる使用人達と、気分は既にお嬢様であった。
そんな初めての体験に戸惑いを覚えながらも奉仕を受けていたファモに対して、既に頭の中でシミュレーションしていたのか、メローヌは完璧な受け答えで使用人達の奉仕を受けていた。
「それにしてもメローヌは初めてで遠慮無さすぎじゃない?」
「あの方達は私達の為にあてがわれた方達ですよ。
その人達に仕事をさせない方が失礼に当たると思いますけど」
「そうですね。
お仕えする家によって変わると思いますが、私達は当主様を心から尊敬しております。
ですので、仕事を与えて頂いた方が喜ぶ者が殆どですよ」
其々にお付きのメイドが付けられていたらしく、メローヌに付いていたメイドはそのまま部屋の中に入ってお茶の準備を始めていた。
彼女はお茶を淹れつつ2人の会話にさりげなく混じっていた。
因みにファモ付きのメイドは部屋の前に待機している。
「ふーん、そういうもんなんだね」
「だから言ったではないですか。
遠慮する方が失礼というものですよ」
「お嬢様がご友人を連れて来られるのは初めてですからね。
恥ずかしながら、そのせいもあって私たち一同張り切ってしまっているのですよ」
クスクスと笑いながらメイドさんは2人の前にお茶を出す。
「初めてって……シゾンって友達いなかったの?」
「お嬢様は先代の当主様に懐いておられましたから。
逆に言えば先代様を中心にこの屋敷内で生活が完結しておられる方でもありました。
ですので、このお屋敷を出て一人で学園生活を送ると聞いた時には大層心配したものですよ」
「1人?」
メイドの言葉に首を傾げるファモとメローヌ。
「クレア様がこのお屋敷に来られたのは、お嬢様が入学手続きに行かれる少し前の話ですから。
一緒に通われるという話になった時には私達も大変に安堵したと覚えています」
「クレアさんはしっかりしてらっしゃいますからね。
それはとても心強かった事でしょう」
こうしてメイドを加えて3人で談笑をしていると夕食の支度が整ったという報告が入った。
2人はまたメイドさんに案内されて食卓へと向かったのであった。