神捧(しんほう)の舞
時は少し遡り、夏休み前の最後のダンジョン解放日。
クレアはシゾン……ではなく、ファモと共にダンジョンへと潜っていた。
2人から提案されたクレア達はそれも面白いかもしれないと了承した。
パートナーを変えた場合、2人の最低到達階層までしかエレベーターは動かない。
現在、クレア達が8階層、ファモ達が6階層まで到達済みなのだが、今回は息抜きという事で3階層を彷徨く事にする。
「あ、そこに罠があるから注意してね」
「ふむ、ここと、後はここもじゃな」
「え、あれ?罠の位置分かってる?」
「何となくじゃがな。
長年の勘というやつじゃよ」
ファモとクレアはひょいひょいと罠を避けながら先へと進んでいく。
「あ、天井にスライムが張り付いてるね。
物理効きにくいから面倒なんだよね」
「どれ、それならワシに任せてもらおうかのう」
クレアは手にした扇を開いてスライムへ向けて扇ぐ。
そこから発生した突風が渦を巻きながらスライムへと向かっていき、その体をバラバラに切り裂いていった。
「ふむ、新しく覚えた技じゃが中々に使い勝手が良いのう」
「中々ってレベルじゃないと思うけど。
あっ……なんか近づいてきてるから隠れて」
ファモの指示により、通路の曲がり角に身を潜める2人。
そこから犬の顔をした人型の魔物が4匹、こちらに向かって歩いてきていた。
「コボルト4匹か……やれなくは無いけど」
「不安ならばバフを掛けておくかのう」
そう言ってクレアは扇を持ちながらその場で舞い始めた。
「うわ……綺麗……」
指の動きまで洗練された動作の舞は初めて見るファモを見惚れさせた。
1分程舞ったところでピタリと動きを止める。
「我が舞、神前に捧げたまいます」
クレアがそう呟きながら開いていた扇をピシャリと閉じる。
その瞬間にクレアとファモの身体が光に包まれ、身体の奥底から力が溢れてくる感覚がした。
「うわっ、なんか凄く力が溢れてくる……これなら!」
まっすぐ歩いていたわけでは無く、その辺りをウロウロとしながらだった為に距離が近付いていなかったコボルト達。
ファモはそんなコボルトの中の1匹に狙いを絞って矢を解き放った。
その矢はコボルトの眉間に突き刺さって一撃で命を奪った。
それと同時にそのすぐ横にいたもう1匹のコボルトが突風によって刻まれながら壁に叩きつけられる。
異変に気付いたコボルト達が2人に向かってくる。
この距離ならばもう一撃ずつ放てそうではあったが、2人は敢えて近接戦をする事を選んだ。
ファモは弓を片付けて腰から短剣を引き抜き、クレアは閉じた扇を両手に装備して待ち構える。
そしてコボルトが2人の元に辿り着き……何も特筆する事が無いほどに呆気なくその命を散らしたのであった。