黒竜の記憶とエリーの正体
「はうあ!?」
しばらくしてから妙な奇声を上げつつ黒竜が目を覚ます。
頭が上手く働かない中でキョロキョロと辺りを見回す。
……何かがおかしい。
妙な違和感を感じてモヤのかかる頭を必死に動かす。
すると、先程の妙に強い人間に気絶させられたのだと気付いた。
「我は……情けをかけられたのか?」
戦いの最中に気絶したのであれば命を取られても仕方ない。
だが、いま自分が生きていると言う事はそうはしなかったのであろう。
そう考えていると、徐々に頭が澄み渡っていくのが分かる。
そうして改めて辺りを見渡して初めて違和感の正体に気付いた。
地面が異常に近いのだ。
自分が寝転んでいるのであれば、顔の高さぶん浮いていて下を見下ろす事が出来る。
だが、今は地面がスレスレの位置にあるのが分かる。
「あ、起きたみたいですよ」
「おはよう、気分はどうかしら……ちび竜ちゃん」
声のする方向に頭を向けると、先ほど戦った人間と思わしき者たちの足が見えた。
おかしいと思いながらも顔を上げると、先ほどまで見下ろしていた顔が見えた。
低い床、見上げた場所にある顔、ちび竜という呼びかけ……認めたくはない事だが、黒竜の中で一つの仮説が生まれていた。
「我……ひょっとして縮んでる?」
「あら、自力で気付いたのね。
これが今の貴方の姿よ」
エリーがそう言いながら取り出した手鏡には、彼女たちの手のひらに乗れそうな小さなドラゴンが写しだされていた。
いや……ここまで小さくなってしまったらドラゴンというより、空飛ぶトカゲと言った方が良いだろう。
「ぬおおおおお……かつては勇者と死闘を演じた我がこのような姿になるとは……」
「うん?」
「え?」
鏡の前で嘆く黒竜……もとい、ちび竜の嘆きに2人が反応する。
「ちょっ、ちょっと待ってください!
勇者と戦ったってどう言う事ですか?
貴方はここで生まれたんじゃないんですか?」
「むむむ……確かに目覚めた時にはこの場所であった。
しかし、我には魔竜と呼ばれていた時の記憶が確かにあるぞ。
最後の記憶は勇者と呼ばれる気高く強い男と戦ったものじゃな。
奴とは敵として出会ったが、もし叶うならば友と呼べるような間柄になりたい……そう思わせる素晴らしき男じゃった」
遠い目をしながら懐かしむように語るちび竜。
その言葉を聞いてイズはエリーの方を見るが、彼女はブォンという音が聞こえてきそうなほどの勢いで顔を横に向けて視線を逸らした。
「あ〜懐かしんでいるところ悪いのですが……その勇者に心当たりがありまして。
貴方がお望みなら紹介しますが」
「なんと!それは是非お願いしたい」
「ちょっ、ちょっと!?」
イズの提案にちび竜は目を輝かせるが、その横でエリーが慌て始めた。
「落ち着いて聞いてください。
僕の隣にいるエリー……いえ、エルリック先生。
この人が元勇者で……それでいて元男です」
「な、なん……」
「その名前は呼ばないでって言ってるでしょ!」
イズが語る驚愕の内容。
その話にちび竜が驚く前に、エリーの絶叫が広間に木霊したのであった。