夏休みの補講
4月から入学した新入生達。
一月が経ってダンジョンが解放された頃には甘ちゃんだった彼らも、三ヶ月が経つ頃にはその甘さも抜けた一端の冒険者へと変化していた。
この時点での平均的な踏破階は5階なのだが、今年の一年生は平均で6階。
最高到達パーティは8階と非常に優秀であった。
「今年の一年生は優秀ね」
各生徒の名簿と到達階層を見比べたらエリー。
「今年は補講は無しですか?」
エリーと自分の二つ分のコーヒーを淹れたイズが、それらをテーブルに置きつつエリーの横に座った。
7月も終わりが来る頃には夏休みがやってくる。
夏休みの間は学校の授業は行われず、ダンジョンも基本的には入場禁止となる。
しかし、この時点で最低限の到達階層に辿り着いていない生徒には補講として入場が許可されていた。
「いえ、上級生には何人か補講対象が居たはずよ。
あとは……一年生にも1人いるわね」
「1人……」
一年生はペアで探索を行うので1人だけが補講の対象になる事は無いはずである、通常ならば。
だが、今年に限ってはそれはあり得る話であった。
「テッド君ですか?」
「あの子だけはソロで攻略しているのよね。
そのせいもあってか、手間取ってまだ3階層止まりなのよ」
「確か初日に一階層はクリアーしてましたよね?」
「確かにそうなんだけど……2階層からは状態異常を使う敵も出てくるし、罠も出てくるでしょ。
ファイターだから回復も薬だよりでお金もかかるから、そのせいもあって上手く進んでいないみたいね」
「……はぁ、分かりましたよ。
私が話してくれば良いんですよね?」
「相変わらず物分かりが良くて助かるわ。
どっちに転ぶか分からないけどお願いね」
その日の授業が終わったところでイズがテッドに声をかける。
「テッド君、少しいいでしょうか?」
「え、あ、はい……何でしょう」
「貴方の進行度の話です。
知っての通りにこの学園を卒業するには、先ず卒業試験の日までに40階層に到達している必要があります。
その為に時期によっての最低ラインというのが設けられているのですが、現状のテッド君はそれを下回っている状態です。
この辺りは自覚がありますよね?」
イズがテッドの現状を確認すると、彼は苦虫を噛み潰したような顔で一言「はい」と答えた。
「ソロはやめられませんか?」
「決めた事なんです……ソロで潜って卒業してみせるって。
その決意はどうあっても変えたくありません」
イズの問いにまっすぐな瞳で答えるテッド。
その意思は固く、生半可なことでは変えることは出来なさそうであった。
その覚悟を受けてイズは大きくため息をついた。
「はぁ、分かりました。
それならば方法は一つしかありませんね」