絶対に敵にしたくない人
「いい加減に落ち着きましたか?
もう既に解決した話なんです」
ギルドの椅子に縛りつけられたシスター。
先程までは「自分が犠牲になれば」「これも神の試練なのです」などと騒いでいたのだが、今はシュンとして大人しくなっていた。
「はい……皆さんもこの度は本当に申し訳ありませんでした」
「そこはありがとうございますとお礼を言った方が良いんじゃないですかね?」
「ひゃっ、はい!本当にありがとうございました!!」
イズの言葉にビクッと身体を震わせたシスターは深々と頭を下げる。
「いや〜恐ろしいもんじゃ。
イズちゃんだけは怒らせんようにしないとのう」
「私も絶対に怒らせない。
戦いでも勝ち目ないのに、腕力使わずに理詰めであれだけ追い詰めちゃうんだもん。
あんなの絶対に嫌だ」
クレアとシゾンがヒソヒソと話す内容が聞こえていたのか、ファモとメローヌも青褪めた顔でこくこくと頷いていた。
そう、このシスターこそが先の孤児院を運営する教会の長……グラーダであった。
彼女は信仰心により自己犠牲も已むなし……いや、寧ろ自ら他人の危険を被りにいくような人物であった。
今回の事件に関しても真っ当にお金を稼いで権利書を取り戻すか、間に合わなければ己の身を犠牲にしていただろう。
そんな事をイズが理詰めでお説教している間にエリーが話してくれた。
「悪い子じゃないんだけど〜この世の悪意がどこまで強大なのか分かってないのよね。
それ自体が悪い事ではないから周りがフォローしてるんだけどぉ、こういう風に暴走する事も珍しくないのよぉ」
クレアの耳元でクラリッサがふわふわと漂いながら語りかける。
ぼんやりと話している事から、このクラリッサは多数ある分身の一つなのであろうとクレアは考えた。
「つまり今回のことはグラーダとやらが自己犠牲の精神を出さずに、素直にギルドに助けを求めていたらこうはならなかったと」
「そうそう。
でも、イズちゃんがその動きに勘付いて護衛としてナハトを派遣してたんだけど捕まっちゃったでしょ。
そのせいもあってかなりキテるのよ、あれ」
「私は別に怒っていませんよ。
ただ、本来の業務も怠っている皺寄せがこちらにも来ているので、その注意喚起も含めているだけです」
「本来の業務とは教会の管理であろう?」
「教会の方は派遣されてくるモンクやシスター達がやっているので、そこの長というのは意外と楽なのよ。
だからこそ冒険者も兼任してるわけなんだけど……それだけじゃなくて。
彼女がウチの神学の教師なのよ」