スパイ
「な、キンハー!
お前、何を勝手な事を……それにあのドラゴンは捕まえて閉じ込めて……今もここにいるはず」
「どれどれ……ああ、あきまへんわ。
こりゃ、偽物掴まされてますやん」
金貸しが持ってきていた檻を躊躇なく開けるキンハー。
だが、檻から出てきたのはカタカタと震える黒竜を模したぬいぐるみであった。
「そ、そんな馬鹿な……おい、警護隊!
お前らは……」
「そいつら全員私たちが倒しちゃったよ」
「歯ごたえがありませんでしたわね」
「そういう割に結構傷ついてるじゃん」
「かすり傷ですわ」
金貸しが警備隊と呼んだチンピラ達は山積みにされて気絶しており、その前ではファモ、メローヌと更に肩にナハトを乗せたシゾンが陣取っていた。
「逃げられても困るから拘束しておくわね」
エリーがそう言って手をかざすと、地面から光の帯が出てきて金貸しの両手、両足を拘束する。
「ひゅ〜やっぱそこの姉さんが一番怖いわ」
キンハーは我関せずと言った様子であるが、クレアとエリー以外の全員の視線が彼へと向く。
「あなた、自分だけ関係ないみたいな顔してるけど同罪だからね」
「それなら交渉しまへんか?
わい、ボスの汚れ仕事の証拠を山ほど握ってまんねん」
「そんなんで都合よく……」
のらりくらりとしたキンハーの様子に激昂して詰め寄るシゾンであったが、それをクレアが間に入って止める。
「まぁ、落ち着くのじゃ。
キンちゃんもそろそろ立場を明かさねば本気でヤられてしまうぞ」
「なんや、姐さんは気付いとったんかい」
「うむ、忍び込んだ時とさりげなくアシストしてくれておったのじゃろ?」
「はぁ〜こういうのは分からないようにやるのが粋ってもんやで?
……しゃーないか、わいは冒険者ギルド所属のキンハー。
そこの元ボスのところには潜入任務で入り込んでたんですわ」
「な、何だと!?
お前、まさかスパイだったというのか」
「あんさん、やり過ぎたんですわ。
街の裏社会で幅を効かせるくらいなら良かったんやけどね。
ウチの者に手を出されたから、ホンマのボスがカンカンに怒ってまんねん。
それで再起不能になるくらいに叩き潰すためにわいが派遣されたって訳や」
「はい、説明ありがとうございます。
それではそこの犯罪者達の検挙お願いしますね」
いつの間にかこの場に来ていたエメリア。
彼女は街の憲兵達を共にしており、彼女の指示によって金貸しとその部下達は一斉に捕縛されていった。
「これがあの人らの犯罪の証拠やね。
脅迫、誘拐から裏帳簿まであるからキッチリ締め付けたってや」
キンハーは憲兵達に多数の証拠を渡す。
こうして、ナハトが行方不明になった事から始まった指名依頼は無事に完了したのであった。