決め手に欠ける
2023/06/02 誤字報告受け付けました。
ありがとうございます。
キンハーの振るったトンファーがクレアの腹に突き刺さる……が、それと同時にクレアは後方へと跳躍してその衝撃を逃していた。
軽やかに地面に降り立つクレア……だが、その衝撃を完全に逃しきれなかった為に一瞬ふらついてしまう。
「姐さんは後衛職やろ?
ほんま、よくやっとると思うで。
降参しても誰も責めんって」
「生憎とワシは負けず嫌いでのう。
お主のような若造に負けるというのを素直に受けとることが出来んのじゃよ」
「頑固ちゃんやね。
ほな、もういっぺんくらい楽しいバトルと洒落込みまひょか」
「仕方ないのう……奥の手として取っておきたかったのじゃが」
クレアはそう言うとカバンの中から鉄扇をもう一つ取り出した。
これは昨日の探索で得た装備を鑑定して手に入れたものである。
キンハーが両の手から繰り出すトンファーの攻撃は鉄扇一つで捌くには困難であった。
更に食えない性格からか、その攻撃は素直な物が少なく、数多くのフェイントが織り交ぜられていたので、流石のクレアでも回避が間に合わなかったのだ。
だが、クレアが扇を両手に持つことで形勢が変わる。
二つの扇を駆使して着実にキンハーの攻撃を捌いていったのだ。
「姐さん、こんな芸当できるなら最初に見せてくれんと困りますわ」
「くふふ……いい女には秘密が多いらしいぞ」
「そりゃ、姐さんがいい女な訳や。
秘密が多い男ってのはどうでっしゃろ?」
「お主もまだ本気では無いという事かのう?」
「それこそ秘密でんがな」
2人はまるで雑談をするように戦いを繰り広げる。
2人がこうして本気とも冗談とも取れない戦いをしている事には訳があった。
クレアは度々、シゾンを倒した突風『春一番』と名付けられた技を仕掛けていた。
だが、キンハーの身体はそんなものは受け付けないと言わんばかりに全く浮き上がらない。
一方でキンハーの方も……
(あかん、勝負を決めれる手札があらへん)
決め手に欠けていたのである。
実のところ、クレアの扇から繰り出される風のように、キンハーもトンファーから小技を出していたのだ……が、クレアにはまったく効いている様子が無い。
(魔法防御がエゲツないレベルで高いんやろなぁ。
こうなると頼りは……まぁ、あかんやろな)
チラリと自分の雇い主が連れていた兵隊達を見る。
途中までは有利に戦いを進めていたのだが、向こうの協力者が乱入してきた事で形成は逆転していた。
「ああ、こりゃあきまへんわ。
降参降参、大降参やで」
事態を性格に把握したキンハーは持っていたトンファーを投げ捨ててバンザイをする。
その胴部分に触れる直前、クレアは扇をピタリと止めるのであった。