能面と隠しきれないデレ
平日は一日一話更新です。
「と、ともかく生意気な奴らよ!
我がブレスに焼かれて後悔するがよい!!」
黒竜が再び雄叫びを上げつつ、口元に魔力を集める。
竜族は口からのブレス攻撃を得意としているが、実際には口からブレスそのものを吐き出しているわけでは無い。
身体の先端である口元に魔力を集め、そこから放出しているに過ぎないのだ。
従って……
「魔力霧散!」
エリーが黒竜の口元に集まった魔力を散らす。
「はあああああ……って、なんじゃコレは!?」
そのため、黒竜のブレスは発動されずにただ思いっきり息を吐き出すだけという、かなり間抜けな構図になっていた。
「口臭いんで閉じてください」
そう言いながらイズは跳躍して黒竜の顔目掛けて飛んでいく。
だが、明らかに勢いが足りず届かない……そう黒竜が考えた時……イズは空中で何かを蹴って更に跳躍する。
届かないと思い油断していた黒竜の顎の下までやってきたイズは、タイミングを合わせてハンマーを振り上げた。
強烈な打撃音と共に黒竜の顎が跳ね上がり、四足歩行から二足歩行の状態となりながら、身体を強引に起こされる。
「こ、小癪な!!」
何とか首に力を入れて跳ね上がった顔を戻す。
現在は落下中か下に落ちたであろうイズの姿を探すが何処にも見当たらない。
キョロキョロと辺りを見回すが何処にも姿が見えず、見えるのは少し離れた場所にいるエリーだけであった。
そのエリーは指を上に向けてチョンチョンと動かしている。
「ぬ……上……ぬおお!?」
そのジェスチャーが気になって顔を背けて上に向ける……そこには力を込めながら思いっきりハンマーを振り上げているイズの姿があった。
「あの世で後悔してください」
無表情ながら全身から怒りを滲ませたイズの一撃が黒竜の頭を打ちのめす。
先程とは逆に下に向かって思いっきり頭を叩きつけられた黒竜は腹這いになってダウンしていた。
「イズちゃん、おつかれ〜」
そう言いながら手を上げてハイタッチのジェスチャーをするエリーであるが、そんなエリーに未だに怒りのオーラを出しながらイズが近づいていく。
「先生……僕が一撃入れる時にバフじゃ無くてデバフを入れましたよね?
おかげで止めが刺せなかったんですけど」
「まぁまぁ、こんなレアな子をあっさり倒しちゃったら可哀想だって。
それに……イズちゃんはこんなに可愛いんだから、女の子と間違えられても仕方ないでしょ」
そう言いながらエリーはイズほ頭をよしよしと撫で始めた。
イズの気性からその手を跳ね除けそうなものであるが、かの……彼はその手を受け入れる。
そして、エリーが頭を撫でるたびに徐々に怒りのオーラが収まっていくのが分かった。
「ふぅ……落ち着きました。
ありがとうございます」
「いいのよ、イズちゃんにはいつも笑っていて欲しいもの」
「僕、昔から表情が無くて笑ってるから怒ってるか分からないって言われるんですけど」
「あら、そう?
私は分かりやすいと思うんだけど……今はニコニコ笑ってるし」
「そ……そうですか」
表情は変わらないものの、照れたように顔を背けるイズ。
先程までの怒りのオーラと違い、今は嬉しいという感情が隠しきれずに溢れている。
そう言った点を見ると、イズはエリーの言う通りに分かりやすい人間なのかもしれない。