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夢の酒場

無事に戻ってきたクレアだが、シゾンの状態と現在の時刻も合わせた結果、ギルド併設の宿に泊まっていくことにした。


シゾンは少し話をした後にまた眠ってしまったので、自分もベッドの中に入る。


寮のベッドよりもやや硬くはあるが、かつて冒険者をやっていた頃に比べれば天国のような環境である。


すぐに意識は暗闇へと沈んでいき……ふと気づくと不思議な場所に立っていた。


上も下も右も左もよく分からない空間、その中で辺りを見渡すと場違いにも程がある酒場を見つけた。


他に当てがある訳でもないので、その酒場に入ってみることにする。


扉を開くと来客を知らせるベルが鳴り響く。


店内を眺めるが客はおらず、カウンター席の奥のに見知った女性が立っていた。


「いらっしゃい……あら、本当はダンディなお爺様だったのね」


先ほどまで行動を共にしていた女性、クラリッサがこちら見てそう声をかけてきた。


近くの鏡を見ると、そこには銀髪のエルフの少女……ではなく、大柄な人間の老人が写っていた。


「ここは一体なんなのじゃ?」


「この場所はこの街の人達の夢が統合された場所。

人々はここに来ては癒され、活力を得て元気になっていくの……今日は貸切にさせてもらったのだけど」


クラリッサがそう言いつつ、棚から琥珀色の液体が入ったガラス瓶を取り出してグラスに注ぐ。


「良ければどうぞ。

酔った気分は味わえるけど、実際の身体にアルコールは摂取されてないから安心していいわ」


「酒は久しく飲んでおらぬからのう。

頂くとするかな」


クレーズはグラスを手に取ると一息に中の液体を飲み干した。


「それ、結構強いお酒なんだけど」


「まやかしみたいなものじゃろう。

ならば酔いもせぬわ」


「やっぱり貴方みたいに精神が強い人には効かないみたいね」


「それでここは一体どう言うところなんじゃ?」


「さっき説明した通りね。

この街で眠る人達の中で不眠症や極度に疲労している人をここに呼んで癒してあげてるの。

その代わり、過剰に回復した分の生命力を代価に貰ってるわ」


そう話しながら、今度は赤ワインを注いでクレーズの前に置く。


クレーズもゆっくりと話を聞く体勢になった為か、今度は一気飲みなどせずに少しずつ楽しむことにしたようだ。


「よくは分からぬが、この場所のお陰で皆が暮らしやすくなっていると言うことかの?」


「それで合ってるわ。

貴方を呼んだのは興味本位と感謝の言葉を伝えたくて。

あの孤児院の事は私も何とかしたいと思ってたから、私が見える人が来てくれて本当に助かったのよ」


「エメリア嬢には頼めぬのか?」


「流石にギルドの職員に介入させるとここだけの話じゃ済まなくなるの。

それに、そもそもあの子は私の騎士だから……私の生活を脅かす脅威でも来ない限りは動かないのよ」


「その忠義も剣も捧げた人の為に……か」


「そう言う事。

あ、もうそろそろ起きないと学校に間に合わなくなるわよ」


「む……それはいかんのう」


学校ということを意識した瞬間にクレーズの姿はクレアへと変わる。


「学生になるとそちらの面の方が前に出てきちゃうのね」


「その内ジジイの方は消えてしまうかも知れぬな。

まぁ、それも良しの人生じゃよ」


「本当に面白い人。

また遊びに来てね……待ってるわ」


「うむ、世話になったのう」


こうしてクレアは現実世界へと戻っていく。


いまだに眠るシゾンを叩き起こし、朝の授業に間に合うべく宿屋を出たのであった。

ゴールデンウィークですね。

祝日なんで毎日3話くらい頑張ります。

私はこの期間もバリバリ仕事です。

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