偽造
音がしないように気をつけつつ扉を開く。
その扉の奥は倉庫のようになっており、荷物が乱雑に積まれていた。
「本来の依頼はナハトの捜索であったのう。
先ずはそちらからにするとしようかの」
「それならこっちよ」
クラリッサの案内で倉庫の奥へと進むと、何やらガタガタと動く箱が置いてあった。
その箱の開封口には一枚の紙が貼ってある。
「これは……イズちゃんの故郷の文字のようじゃな」
「あちらでは紙に文字や絵を書き記す事で魔力を込める技術があるそうね」
「つまり、この紙によって能力を封じられているわけじゃな」
そう言いながらクレアはぺりぺりと音を立ててお札を剥がす。
2人の予想通りにお札が剥がれた瞬間にナハトが箱から飛び出してきた。
……が、クレアがどこからか取り出した網ですぐさま捕まえる。
モゴモゴと暴れるナハトだが、箱の中に閉じ込められて弱っているのか、クレアでも抑え込める程の暴れ方である。
「これ、暴れるでない。
ワシじゃ……クレアじゃよ。
お主を助けにきたのじゃが、下手に騒がれて勘付かれては困る。
このまま大人しくておってくれ」
クレアがそう語りかけると話が通じたのか大人しくなるナハト。
その袋を鞄の中に入れると同時に、中から何かを取り出した。
「それは何?」
「脱出したも気付かれないようにする為のぬいぐるみじゃな。
土地の権利書も同じように偽物と差し替えるぞ」
「よく考えてるね。
金庫はこっちだよ」
クラリッサの案内で向かった金庫はすぐそこにあった。
大きな鉄の塊に鍵穴付きの扉がついている。
「鍵がある場所は分からなかった。
誰かが持ってるのかも」
「これが使えるか試してみようかのう」
クレアが取り出したのは学園の売店で売っている使い捨ての鍵、万能キーである。
潜入する前にエリーに渡された偽造アイテムの中に紛れていたのだ……しかし、彼女が意味のないアイテムを渡すとは考えづらいので使えるのではないか?
そう思い鍵穴に刺しこんでみたのだが……
カチャリという音と共に金庫は見事に解錠された。
鍵自体はダンジョンの時と同じようにサラサラと砂のように崩れていく。
「それ、どう言う理屈なの?」
「よく分からぬ……ダンジョン内の宝箱を開けるのに必要という話であったが」
「実際には外でも使えちゃうのね。
この話は隠しておいた方が良さそうね」
「広まると碌な事ならんじゃろうな」
そのような話をしつつ、中にある大量のお金や宝石は無視して土地の権利書だけを手に入れ、偽物の書類とすり替える。
金庫は全自動で鍵がかかるシステムだったようで、扉を閉めるとカチャリと音がし、再びクレアが開けようとしても開く事はなかった。
こうして目的を達成したクレアは金貸しの建物から脱出したのであった。